革命
早朝、まだ外は薄暗く、辺りは人気がなくシンっと静まり返っている。
気温が低いのか外気はひんやりとしていて吐く息も白に染まっている。
俺、星野光輝は今、帝都アメンストリアの中心地に向けてたった一人、歩を進めていた。メインストリートなど大きな街道には出ずなるべく脇道、路地裏、はたまた建物の屋根を使って移動している。
目指すは帝都の中心にそびえたつ巨大な城――メルランテ城だ。
その姿は昨日の晴れた日には遠目では確認できたのだが、今は霧がかかっていてよく見えなかった。
俺はいまだ高鳴る鼓動を抑えようとしつつも抑えきれない心臓を少し疎ましく思いつつ、昨晩のことを思い出す。
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エリとのデート?から宿に戻った後、俺たちは一度集まり、宿の一階にある食堂で夕食を摂った。めっちゃうまかった。
その後、しばらくその場で食後休憩をしていると宿の女将さんが現れ、食堂の奥へ案内された。
食堂の奥は大人数で宴会できるような大きな部屋で長机とたくさんの椅子以外、目立ったものがなかった。
だから、その部屋の壇上の下に隠し階段があったのはとても驚いた。ザ・異世界、物語でしか見たことがないその映像にすこし興奮した。
隠し階段を下り、おそらく地下室であろう扉を開けるとそこには・・・・イケメンたちがいました。
どうやらアデルさんが元隊長のマクスウェル殿下の近衛騎士団だった方たちらしい。
どいつもこいつも端正な顔、高身長、完璧なスタイル・・・・・・同じくらいの年頃なのにどこでこんなに差がついてしまったのか・・・。
「それではメンツもそろいましたし、そろそろ始めましょうか」
アデルが仕切り始める。いよいよ始まる。革命への道が。
まず、この革命への意義を語り、次に一人一人の役割分担が決められていく。
革命の流れはこうだ
まず第一段階として、メルランテ城への奇襲と城外の現皇帝を支持する貴族の暗殺による陽動。
第二段階、地下牢獄に囚われの身となっているマクスウェル殿下の救出。この時、不当に捕らわれた亜人の救出も平行して行う。
第三段階、皇帝の身柄を拘束。マクスウェル殿下が皇帝の座を簒奪したと宣言、新たな皇帝になる。
エリ、ルドワ、キャリーはもちろん救出組だ。マクスウェル殿下が幽閉されているであろう城の地下牢におそらく囚われた亜人たちもいるはずとのことだ。
そのほかのマクスウェル殿下の支持者、元近衛騎士の方たちも役割が決まっていく。
そして、最後に俺の役割についてアデルが口を開ける。
「コウキさんには時間稼ぎをお願いしたいと思います」
「よしきた、で、俺は何をすればいいですか?城の中で暴れ回ってればいいですか?」
「いえ違います。コウキさんには・・・帝国騎士団の相手をしていただきたいのです」
帝国騎士団
帝国に所属する兵士は7つの師団のいづれかに配属される。しかし、より優秀で能力と才があると認められたものだけがその位置に迎いれられ、その肩書を名乗ることができる。
それが帝国騎士団。構成人数わずか30名。帝国の全兵士1万のうちたった30人にもかかわらず、7つの師団を束ね、皇帝を守る直属の部隊だ。
「我々でも帝国騎士団の者一人相手するだけでも5人は必要だと考えています。5人でやっと拮抗できるぐらい強者揃いなのです」
・・・まじか
皇帝の息子の元近衛騎士であるアデルさん達でも手こずるのか。
そんな化け物連中相手に俺一人で挑めと?
なかなか鬼畜なこと言いますねーアデルさん。
「本当に時間稼ぎだけでいいのです。あなたの強力なお力を見せつけ、帝国騎士団の注意を地下牢獄からそらしていただければ・・・・マクスウェル様を救出すれば我々のほぼ勝ちです」
「他の事につきましては全て我々におまかせください。 この革命に障害があるとするならば帝国騎士団だけなのです」
「アデルから聞きました。あなたはあの悪名高き第四師団をたったお一人で打倒したと。それほどのお力ならば帝国騎士団とも渡り合えます」
「お願いします!コウキ殿」
「「「「「お願いします!!!!!」」」」」
いや、その化け物には化け物をぶつけんだよ理論はなんだよ・・・。
てか、この革命の要の一つじゃねえか。そんな重要なこと俺に任せてもいいのかよ・・・。
「あともう一つ、無理難題を押し付けて大変申し訳ないのですが・・・城内にいる兵士、従者、奉仕人は不殺でお願いします」
・・・・。・・・・・。え?・・・・・。
「それは、つまり、騎士団の方たち・・・も?」
俺はおそるおそるアデルに尋ねる。
アデルは大変申し訳なさそうな顔をしたあと、ポツリポツリと答える。
「・・・はい。その通りでございます。・・・・・・すみません、第四師団に所属していた兵士は例外として、城に常駐してる兵士と騎士団は皇帝に従っているだけで、この革命では命を奪う存在ではないのです。排除すべき人間は現皇帝とそれに与する人物、貴族や奴隷商人のみです。これを守らなければ民への最低限の信頼と支持は失われます。・・・・どうかご理解を」
いや、まあ、言ってることは分かるよ。革命に関係のない人は一人も殺してはいけないと。
でもね、これ無理じゃろ。力量は分からないけど少なくともあの第四師団連中よりかは、はるかに強いんだろ?加減しながら注意を引き付けるなんて戦闘のプロができることだろ?俺は力をもっただけの一般人だっつうの!
もういいや、自棄だ。やってやろうじゃねえか。上等だよこんちきしょー。
一人で自棄を起こしている俺にアデルは内心読んだのか、俺に近寄り耳元でこうつぶやいた。
「革命が成功しましたら、コウキさんには多大な報酬を受け取っていただきたいと考えております。帝国で用意できるものなら何でもご用意しますので・・・どうかよろしくお願いします」
・・・・。もらえるものはもらうけど・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・分かったよ。
「・・・分かりました、やってみます」
どちらにせよ、あの場の衝動と感情で帝国を滅ぼすよなんて言ってしまった以上、承諾するしかないのだ。
「本当にすみません。先ほど申し上げた約束は必ず」
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計画の最終確認を終えた後、各々静かに解散していった。
「アデル殿、彼は信用して大丈夫なのですか?」
私の元部下、エルドだけが残り、尋ねる。
彼とはもちろんコウキ殿のことだろう。
「ええ、コウキ殿ならきっとやってくれます」
「・・・。 お言葉ですがアデル殿、私には彼がそれほど力を持っているとは到底思えません。雰囲気は武人のかけらもない一般人。 立ち振る舞いもまるで素人。しかもこの国の者ですらない異邦人。 彼一人に帝国騎士団の相手を任せるのはあまりにも荷が重すぎると思います。・・・・・今からでも間に合います。計画の再考を進言します」
「たしかに、部外者である彼一人にこの革命が成功できるかどうかの重要な役割を任せることに不安になってしまうのは分かります。しかし、もう時間の猶予はありません。いつ我らが主の首が切り落とされることか…。それに、あの第四師団をたったひとりで打倒した彼ならばきっと・・・」
賊とは違って決して烏合の衆ではない第四師団。私一人では太刀打ちできなかったあの第四師団を殲滅してしまう力であれば、もしかしたら帝国騎士団をも打ち破ってくれるでしょう。
しかし、不安が完全に取り除かれないのは確か。なぜならば・・・・・・・・。
「ですが、アデル殿。帝国騎士団には・・・彼の者が、おります」
「分かっています。どちらにせよこの革命においてあの者を無視できることはできません・・・帝国騎士団長、バゼット・マクガフィムの存在を」
帝国騎士団で団長に就くということは、この国の兵士の頂点に君臨することを意味する。つまり、帝国最強である。
建国以前から皇帝一族に仕えてきたマクガフィム家は武道でも参謀でも優秀な人材を輩出してきた。
中でもこの男、バゼットは齢20というのに歴代のマクガフィム家の当主を軽く超えた逸材であり、その並外れた力と頭脳は、たった一人で戦場を大きく動かしてしまう。王国の勇者と唯一渡り合えると考えられる男だ。
正直、今の段階でバゼットに勝てる者はいない。コウキ殿が負ければ実質、この革命は確実に失敗する。
「最悪、我々が全滅してもマクスウェル様さえ、地下牢から救出し、奪還できれば我々の勝ちです。革命は数年、数十年後になってしまいますが自由の身であれば必ず我らの主が皇帝の座についてくれるでしょう」
「そうなると森の住民達にはまだ我慢してもらうことになりますな」
「・・・仕方ないことです。我々が死んでしまえば皆が望む道など導くことはできません。こうなれば死ぬ時は一緒です。マクスウェル様を救出できる時間さえ稼いでいただければ、少なくとも彼らの望む関係になると思います。いつになるか分かりませんが…」
一蓮托生。私たちも命を賭けてる。申しわけないが、もし失敗しても我慢してもらうしかない。
ただ、失敗するつもりはない。保険は賭けたが、だからといって彼らや私たちの命を粗末する計画は立てていない。
皆が望む道を。どんなに辛く険しい道であろうとも、絶対に成功させてみせる。このアデル・シスフォニアが!
「エルド、成功する確率は低いですけれども今やれることをやるしかありません。あなたの不安は分かりますが、今は私を信じてはくれないでしょうか」
その言葉を聞いたエルドは少し困った顔した後、何かを決意した表情を浮かべた。
「わかりました、信じましょう! あなたが信じてくれと言った時は、すべて我々が望む通りになってきました。今回もきっと上手くいくでしょう」
「ありがとう、エルド。この革命、必ず成功させましょう!」
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着いた。
朝日がそろそろ登る頃、俺は計画通り所定の場に待機した。
そこはメルランテ城が一望できる時計塔のてっぺんだった。
薄くかかっていた霧が晴れ、メルランテ城は悠々とその姿を現した。
帝都を一周する大きな外壁があったのだが、メルランテ城にも水を溜めた外堀に高く積まれた外壁が備えられていた。
目を凝らすと、たったひとつ架けられた石畳の大橋を越えた城門に兵士が四人ほど立っていた。
革命開始の合図は、朝日が登った瞬間に城壁の何カ所かが爆発が起きる轟音だそうだ。
合図が出るまで俺は時計塔のてっぺんで身を潜める。
まだか
まだか
まだなのか
気持ちだけは焦るばかり、体はなんだかソワソワする。
緊張で呼吸する頻度が上がり、心拍数も自然と上昇する。
(落ち着け、落ち着くんだ・・・。絶対上手くいく)
以前とは違い、俺には力がある・・・と自分に自信を持たせ、気持ちを落ち着かせようとする。
少し落ち着いてきた頃
左の空から強烈な光が横顔をさしてきた。
朝日だ。
そう認識したのもつかの間――。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!
耳をつんざく轟音が城壁の至る所でいっせいに起き始めた。
開始の合図である。
「さあ、いこうか」
俺は目の奥先に見える城門の上にテレポートし、そこから落下するように城内に侵入する。
目指すは城最上階。
そこに皇帝とそれを守護する騎士団がいるはず。
いまだに不安と緊張で心臓がドキドキしているが、紛らわすかのように城内を一心不乱に駆け抜ける。
やってやる。やってやるさ、この野郎!
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