でーと
光陰矢の如し
時間が過ぎるのはっやーい
正面ストリートから脇へ少し進むとアデルたち穏健派のアジト、宿屋に到着した。
人気な宿らしく入口、ロビーには多くの人がいた。それでも俺達一人一人に部屋が分け与えられた。人気な上、大きな宿らしい。
一般人を多く入れることで、カムフラージュしているのかもしれない。
アデルが言うには、今夜ここで穏健派が集まり、今後の打ち合わせがあるそうだ。もちろん俺達も参加してほしいとのことだ。
それまでは自由行動、ただし目立つ真似はしないこと、そう釘を刺された。
ただ部屋の中はベッドとタンスのみ。二つの部屋のうち、もう一つはトイレであった。
手持ち無沙汰になった俺は部屋を出て、何気なくルドワの部屋へ向かう。
「ルドワ、入っていいか?」
「その声は、コウキか? 鍵は開いておる、入ってよいぞ」
許可がでたので部屋の中に入る。
ルドワは部屋のベッドの上で愛用しているハルバードの手入れをしていた。
「どうしたのじゃ? 何か用があって尋ねてきたのじゃろ?」
「あ、ああ。 暇なので一緒に外へ巡らないかと思ったけど、その様子じゃ忙しそうだね」
「ほっほ。 たしかに、見ての通り武器の手入れで儂は忙しい。 それに儂はダンタ族じゃからな、今の見てくれは人間じゃが、もし魔法が解けたら大騒ぎじゃ。じゃから、あまり外出は控えるのが得策じゃろう」
たしかに、その通りだった。少し浮かれていたのかもしれない。
俺達は革命しにきたのだ。まだ、この世界にきて観光気分が抜けてないらしい。
だけど、異世界の街並みは見てみたい。だってそうだろう? 今まで見たことのない景色が目の前に広がっていたのだ。見逃す手はない。
そうだ、これは敵情視察でもある。周辺の地理を少しでも知っておいた方が後々役に立つかもしれない。
帝都散策に正当性を得るため適当な理由を自分の中でつけた。
「分かった。 じゃあ一人でうろうろしてくるからそこんとこよろしく。 夕方くらいには戻るよ」
「あいわかった・・・いや待つのじゃ、コウキよ。 なんなら、エリを連れていったらどうじゃ? 彼奴なら暇を持て余しておるじゃろう」
なるほど、エリか・・・・・・エリかー
「いや、エリはちょっと・・・困るな・・・」
「なんじゃお主、エリと二人っきりになるのが恥ずかしいのかや? まったく、見た目に反して初心よのー」
そうルドワはにやけ面でからかう。しょうがないだろ!だってこちとら、まともに同年代の異性と話したことないんだよ!そりゃあ、一言二言のやりとりはあったよ。でも、女性と二人っきりになったことは一度もない。というか、絶対話が途切れる。前にエリと二人っきりになったことはあるが、そんときは色々と考えていたしたし、聞きたいこともあったからそこまで気にはならなかった。
でも、今はもうダメだ!まだ出会って僅かだが、エリのことは既に意識してしまってる。二人っきりなんて無理無理無理の助ー!
「それにエリだってエルム族だろ? エルムだってバレたらそれこそやばいんじゃないのか?」
「ほっほっほ、その心配はせんでええ。彼奴は魔法のエキスパートじゃからのぅ。そう簡単に変身魔法は解かれまい」
「自分でかけた魔法と他人にかけられた魔法では威力が違うのか?」
「もちろんじゃ。儂には魔術の才がない。じゃから相手の魔術に対処する術はなし。しかし、エリならば魔術に対しての抵抗力がある。それは己の膨大な魔力があってこそ、防衛ができるのじゃ。並の魔術士にもこなすには難しいのぅ。 よほど高位な魔術師でなければエリの変装魔法は見破られないじゃろう。エリと同レベルの魔術師はそうそういない、安心せえ」
いや、安心せえて言われても・・・だからエリと一緒に行くということにならんだろ・・・。
これはまずい、流されてしまう。エリと一緒に行くことになる前にさっさと逃げよう。
右手を上げ、じゃっていう感じのジェスチャーを送りながら黙ってルドワの部屋を出ようとする。
しかし、扉を開けた瞬間ー-
「わっ、びっくりした」
目の前にはドアノブに手をかけようとしたまま驚いているエリがいた。
「ほっほ、どうしたのじゃエリよ」
「ちょっと息抜きに外へ出てみようかなって思って、せっかくだから二人もどうかなって誘いに来たのよ。丁度よかったわ、一緒に行かない?」
・・・・。・・・・。・・・・。
おーまいがー
「すまんのうエリよ、残念なことに儂は武器の手入れでとてもとても忙しいのじゃ。コウキなら今暇を持て余しているそうじゃぞ。 二人で行ってきなされ、あいやー儂も行きたかったのぅ・・・」
ルドワは物凄い、にんまりとした顔でほっほっほと笑っている。
ルドワ、てめええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!
心の中で絶叫する。
しかし、もうどうにもならない。
「よかったー、一人だと心細かったの。 一緒に行きましょ、コウキ!」
エリは直視できないほど眩しい笑顔でこちらを見る。
この瞬間、エリと二人っきりで街に繰り出すことが確定した。 (断るなんて無理!)
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「うわぁ、すごい! ねえ、コウキ!こっちきて! とてもいい景色よ!」
正門から帝都中心に向け、緩やかな坂道になっている。つまり丁度帝都の中心に位置する場所、城が建てられているところが一番標高が高い。
エリが真っ先にメインストリートに入り正門側を見ながらはしゃいでいる。俺も続き、わき道からメインストリートに入った。
なるほど、確かに素晴らしい景色だった。
坂道から見た風景は、メインストリートを行き交う人々とそれを取り囲む街並みを一望できた。
煉瓦造りの建物や石畳。様々なものが置かれてる露店。そして、人。
アニメや漫画で見たザ・異世界ファンタジーの景色であった。
「・・・すごいな」
「うん・・・すごいね」
エリと俺、お互い歩道のど真ん中で惚けてしまう。
ふと、隣にいるエリの顔を覗く。
改めて見ると、エリはすごく、ちょー凄く、いや言葉では表せないほど美人である。
日の光に当たり煌めく金の髪に宝石のような青く美しい眼、端正な顔。
髪をハーフアップにして頭にエルム伝統工芸らしい花を模した木の髪飾りをつけてる。
背丈は俺と同じなのに足が長く、すらっとしていてモデル体型。
質素であるが動きやすい伝統衣装を身に纏っている彼女をはたから見れば、どこか遠くの国のお姫様か貴族の娘にみられるだろう。
え、俺、今からこのスーパー完璧美少女と一緒に街を練り歩くの・・・・?
地球にいたころよりかは少し自分に自信が持てるようになったし、周りの視線にもそこまで気にはならない。しかし、俺とエリ、セットで見られれば間違いなく俺は召使か身なりがちょっといい奴隷に思われるだろう。お前には釣り合わないと決めつけらるレッテル張り。それがちょっと嫌だ。
超能力を手に入れても顔は不細工だし、スタイルも良くない。能力で変えることもできると思うが、生まれて20年、共にしたこの体と顔は、どんなに不細工で不格好でも愛着が湧くものだ。変える気など毛頭ない。
なーに、俺が周りの視線を気にせず被害妄想を止めれば済む話。今は気にせず楽しもう。
「わわっ、あれなんだろう・・・。 コウキ!行ってみましょう!」
エリがある露店を指さしながら歩きだす。俺の手を引きながら。
(女の子の手ってすげーやわらけー)
初めての女の子と手をつないだ。新触感、まじでなんだこの柔らかさは。
「どうしたの?変な顔をして」
「いいいや、なんでもない。い、行こう!」
邪念に気づかれないよう何とかごまかし、エリの気になる露店へ向かう。
「さあ、いらっしゃい! アプルの実を飴で包んだあまーい、あまーい菓子だよ!! 今なら一つ銅貨二枚! お買い得だよっ! さあさあ買った買った!!----」
その露店が売っていたものは奇怪な形をした黄色の実を飴で包んだりんご飴のような物だった。
「わぁ綺麗、宝石みたい。 これ本当に食べ物なの?」
「おや? そこの異国のお嬢さん、かわいいねえ! どうだいお一つ、甘くておいしいよ!」
「うーーん。 コウキはどうする? 食べる?」
「俺はいいよ。今お腹空いてない」
このくらいなら夕飯に影響は差し支えないけど俺は金を持っていない。つまり、エリに支払いを任せてしまう。それは男としてなんだかかっこ悪い。
「分かった! お兄さん、ひとつ頂戴!」
あいよっ! と露店の兄ちゃんは生き生きとした返事とともにエリに商品を渡す。
エリは商品を受け取り、代わりに代金を支払う。
「まいど!! またきなよ!」
意気揚々とした声を背に俺とエリは歩き出す。
歩きながら手にした菓子を齧る。
「甘くておいしい! こんなおいしいもの作れるなんて、人族もなかなかやるわね!」
すっごくご機嫌だ。見ているだけでこっちまでも顔が緩む。
これからこの都市でひと騒ぎ起こす予定なのだが、ひと悶着起きる兆しをみせないよな平和な時間が過ぎる。
「エリ、楽しいか?」
「ええ、とっても!!」
かわいらしい笑顔で溌溂な返事が返ってきた。
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帝都の活気な街並みを歩き続けた俺とエリはさすがに足に疲労を感じ始め、人気があまりない広場のベンチで休憩をすることにした。
しばらく、二人は無言でくつろぐ。
少しの間ならこういうのも悪くない。しかし、あまり長引くと居心地が悪くなってくる。
ここまで街並みを見ながら歩いていたので話のネタに困りはしなかったが、噴水と並木とベンチしかない殺風景なこの広場では話のネタがない。
エリは会話のないこの時間を気にしてないのか、いまだくつろいでいる。
だが、そろそろまずい、俺がこの空間に耐えられない。
なんとか話題を絞り出し、声をだそうと口をあけようとしたその時――
「ねえ・・・・・・・・あれ・・・・」
エリがおもむろに声を上げる。
指を指した向こうには、荷台がむき出しの馬車が一台とそれを囲む鎧を着た男たちも集団が目の前の道に姿を現した。
荷台に積まれていたのは食料でも資材でもなく、人であった。
否、人ではなく首や足を鎖につながれた亜人たちが老若男女問わず、同じ荷台に載せられていた。
犬や猫、多種多様な耳や尻尾が並び、中にはトカゲのような者までもいた。
その荷馬車と兵士たちはまっすぐ帝都の中心、城の方へ向かっている。
おもむろにエリの方を見る。
エリはいたって普通だった。喜怒哀楽を見せない無表情で荷馬車を見送っている。しかし、膝にのせていた手には肉が食い込むほどの握りこぶしがされていた。
エリは今どんな事を考えているのだろう・・・。
ドキドキしながら、様子をうかがう。内心穏やかでないのは確かだ。
荷馬車と兵士たちが視界から消える。姿が見えなくなってしばらくした後――
「・・・いきましょう」
エリがベンチから立ち上がる。
今何を考えているのだろうか。
「エリは・・・その・・・恨んでいないのか? 人間を・・・」
好奇心に負けてつい質問してしまった。
若干、聞いたことに後悔しながらエリの反応を待つ。
「・・・恨んでいるわ。 だってそうでしょ?仲間や友達がひどい目に遭わされているのよ! 私たちが何したっていうの?! こんな世界間違っているわ!! 人族なんて嫌いよ、嫌い!」
今までの鬱憤を吐き出すかのようにエリは内心を吐露する。
人間に怒りを覚えるのは至極当然だ。
自分も一応人間なので自分も恨まれていたのではないかと少し落ち込む。
ただ、エリの言葉はそこで終わりではなかった。
「だけど、人族と仲良くしたい! 人族の全てが私たちに酷いことするとは思ってない! だから、私がこんな世界を変えてやる!人族と仲良く暮らせる世界に!!」
エリの決意と覚悟が詰まった言葉だった。
同胞が迫害されてもなお共存共栄を願う、俺とは全く器の広さが違った。
(こんなの見せられたら手助けしない男なんていないでしょ・・・)
面倒ごとが嫌であの星から逃げ出してここにたどり着いた。
冒険がしたいだけでわざわざ厄介ごとに首突っ込む必要はない。でも、見過ごせない。見過ごせなくなってしまったのだ。
お互い向き合い、無言のまま時間が過ぎる。
モテる男やイケメンはここで気の利いた返事をするだろう。しかし、女性との付き合いが圧倒的に少ない俺にはそんなことはできなかった。
「・・・・。・・・・・。そろそろ日が暮れるわ、宿に戻りましょう」
しばらくするとエリはそう言い残し、宿に向かって歩き出す。
何も言えなかった。だけど、必ず皆が望む結末にして見せる。
覚悟だけはいっちょ前に決めるのだった。
今この時点で気づいたことですが、この星でも馬がいることになっていました。
地球とは違う生体系を作ろうとしましたが、やはりボロがでてしまいました。
まあ、この星にも地球種の親戚が存在することにします。(適当)




