帝都アメンストリア
主人公の名前をコウキに変更しました。
「帝国を滅ぼすよ」
俺の発した言葉は、明らかにその場の空気を変えた。
聞いていた者の息をのむ音が聞こえる。
「それは、つまり・・・帝国の民も、そこにいるすべての人間も皆殺しにするということですか?」
アデルがいち早く声を上げる。その表情は見るからに険しい。
「いや、実際には今ある帝国の体制をぶっ壊すということで皆殺しするわけじゃないんだ。 言葉足らずでした、すみません」
俺は軽くアデルに謝罪する。それを見たアデルはいつもの雰囲気に戻り、慌てる。
「あ、い、いえ、こちらこそ決めつけてしまって申し訳ございません。 しかし、それですと具体的どうやって帝国の体制を壊すのですか?」
「まず始めに現皇帝を殺す。それだけじゃ今の亜人たちへの差別はなくならないと思うから現皇帝を支持している偉い奴らも全て殺す。最後にアデルさんの主、マクスウェルさんに皇帝の座についてもらい差別のない帝国を治めてもらう。俺が考えているのはだいたいこんな感じかな」
言っていることがあまりにも曖昧で物騒で短絡的発想だが・・・あいにく俺は馬鹿なのでこれ以上良い策が思いつかない。とにかく元凶を叩く! そして、亜人と仲良くできる奴をトップに立たせる!
俺の計画がうまくいってもいかなくても亜人は既に大勢死んでいるはず。でも、行動を起こさないとこれからも亜人が不当に扱われる続けるだろう・・・だったら、俺の気にくわない人間がたくさん死んで、これから不幸になる亜人ができるだけ少なくなる方を選ばせてもらうよ。
「いいの?コウキ。 帝国を敵に回すということは人間と敵対することになるのよ? それに、そこに住む人を見てから判断するんじゃなかったの?」
「最初はそうだったんだけどな。でもよくよく考えたらエルムの里で第四師団の兵士を皆殺しにした時点で帝国をすでに敵に回しているんだよな。それに第四師団との通信が途切れたことで、ハリット森に住む皆に報復のおそれがある。というか、絶対にある。俺のせいであそこに住んでいる人たちに危険が及ぶのは耐え難い」
「コウキ、違うわ。 あれは帝国兵のせいよ。帝国兵が里を襲いさえしなければあなたが殺すことはなかったのよ」
「だとしてもだ。行動には責任がつきまとう。本当は面倒ごとは嫌いだけど、俺の行動で他人が不幸になるのは見過ごせない。尻ぬぐいくらい自分でできる」
俺が帝国兵を皆殺しにしてしまったのだ。もう後戻りすることはできないし、その事実を消すこともできない。誰かを殺すということはそういうことなのだ。
「コウキよ、果たしてそう事が上手く進むかのう。何も案が出せてない儂が言うのもなんじゃがな・・・どう考えても上手くいきそうにないのじゃが・・・。 いや、すまない。帝国とのいざこざがこれで終わりになるかと言われたら、全くそうは思えなくてじゃな・・・。」
ルドワが弱気な面を見せたのは初めてだろうか。まだ出会ってそんなに時が経ってはいないのだが、その歳を重ねた堀の深い強面と普段の言動からはとてもでてこない一面だった。
「どうしたんですかルドワさん?いつになく弱気ですね。いつもの調子はどこへいったんですか? まさか・・・怖気ついちゃったんですかー?」
軽く煽ってみることにした。弱気なルドワはなんとなく見たくなかった。
「なっ!! 何を言うんじゃい! 儂はこれぽっちも恐れておらぬわ! そうじゃ、儂こそがダンタ族の勇敢な戦士の長、ルドワじゃ! これしきのことで動じるわけがなかろう。ガハハハハハ!」
無理に高笑いしている感じだがいつもの自身たっぷりのルドワに戻ってよかった。
そして、話を戻す。
「それで、俺が城で暴れているときに仲間を助けるんだっけ?」
「ええ、そうよ。里でアデルと話し合ったんだけど、多くの同胞が囚われているのはおそらくメルランテ城の地下牢獄だわ」
さらに、アデルが付け足す。
「亜人たちを一度、一か所に集めてそれから街へ、もしかしたら他の国へ売り飛ばしていると思われます。そうして売り飛ばして得た金を帝国発展の資金にしているかと」
まったく、えげつないことをしやがる。国の発展には犠牲がつきものだとでも言うのか?
もしそんなこと皇帝が宣ったら、そん時は顔面をぶん殴ってやる。
一人で勝手に意気込んでいるとエリが申し訳なさそうな顔で話しかけてきた。
「ごめんなさいコウキ・・・あなたを囮役みたいにさせてしまって、ましてや便乗するかたちで・・・」
まったく、今度はエリか。
「もうそれはいいって、俺がやりたくてやっているんだ。俺が囮で仲間を救うのが本命でも別にいいだろう。それより、俺なんか気にしないで仲間を助けることだけに集中しな。 救いたいんだろう?」
エリはハッと何かを思い出したかのような、気づかされたような顔を一瞬見せ、俯いた後、次の瞬間にはいつもの勝気な表情に戻っていた。
「ええ、当り前よ!言われなくてもわかっているんだがら!」
「ああ、その調子だ。俺も囮役として行くつもりなんか全くないからな。必ず元凶を倒してみせるよ」
はなから殺さるつもりなんか毛頭ない。ここまで言ってしまったのだ。絶対に亜人のみんなを救ってみせるよ。
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トルトン村を出発してから1週間。
ついに俺たちは帝都がある地域にまでやってきた。
この1週間いくつかの村と街を経由してきたが、帝都がある方向へ向かうほど、村は街へと、建物は木からレンガに変わり、街道は土から石造りへと変化していった。
一つ前に立ち寄った街では石が光る街灯が立ち並び、ザ異世界を感じた。あれが所謂魔石なのだろうか。
小高い丘に馬車が止まる。
そこからは一面の広大な平原が見渡せた。平原の奥には巨大な山脈がそびえている。
「到着しました。ここが帝都アメンストリアです」
アデルが何もない平原を指さし、そう言った。
「え、ここが? どこに帝都があるんですか? まさか平原の地下とかにあるのか?」
俺は言わざるを得なかった。ほんとに何もないのだ。あるのはひざ丈の草原ぐらいしかない。
「いいえ、確かにここが帝都です。魔法で見えなくしているだけで、帝都に近づくとちゃんと見えますよ」
そして、馬車は進む。丘を下り、しばらく草原風景の街道を進むと突然景色が変わった。
「うわっ!?」
思わず声が出てしまった。
それまで何もなかった草原風景から一変、目の前には巨大な橋とその奥に何十メートルもの外壁と門が姿を現したのだ。
さっきまで気づかなかったが、周りには人が何十人もの行きかい、帝都の外なのに活気があることさえ感じる。
目の前の大橋を渡る。どうやら帝都アメンストリアは楕円形の形をしていて外周を大きな壁で囲んでいる。そして外壁の外には堀があり、大人でもなかなか渡れないようにとそこの深い水を蓄えてあると後でアデルから聞いた。
大橋を渡り終えるとそこには巨人でも入れそうな大きな大きな門が口を開けていた。
そのわきに石造りの小さな掘立小屋があり、武装した兵士が並んでいる人たちを順番に検問をしていた。
自分たちの番がやってくる。
アデルが兵士たちと何やら話していると兵士たちが馬車の中を覗き込む。
覗き込んだのは、ほんのわずかですんなりと通してもらった。
「うまくいったのですか?」
俺はアデルの傍に寄り、耳うつ。
「はい、問題なく上手くいきました」
アデルはそう答えて前を向く。
俺もならって前を向くと、そこには
現実とはかけ離れた景色が並んでいた。
埋め尽くすは人、人、人・・・・・一つ前の街とはけた違いの人の数だ。それに比例して活気づいている。
帝都に入った正面には人が何十人並べるような幅の大通りが占め、そのはるか先には大きな城がそびえたっていた。
大通りも脇には所狭しと露店が立ち並び、人の往来と喧騒が絶えない。
俺はそこで改めて別の世界に来たのだと 強く 実感した。
俺と同じく、馬車から顔を出しているルドワとエリを見る。
二人もこの光景には少なからず驚いているようだった。
ただ、キャリーだけは頭に生えてる耳を抑えて馬車の中で身をうずくまっていた。おそらく、俺でも聞けない音がひしめき合っているのだろう。彼女にとってここは五月蠅すぎるのだ。
俺は、アデルに声をかける。
「アデルさん。どっか一息つけるところはありますか?」
「はい、今向かっています。 我々穏健派の息がかかっている宿で休憩しましょう。その後そこでいろいろと話し合いが始まります」
どうやら今から向かうところがアデルが所属する穏健派のアジトの一つだろう。
これから俺はこの国と相手どるのだ。そう思うとすこし身震いがする。
今一度、覚悟する必要がありそうだ。
かなり遅くなりました。もし見ている方がいらっしゃれば申し訳ございません。
そして、この後も更新はさらに遅くなりそうです。でも、途中でやめるつもりはありません。
せっかくここまで書いたので、クオリティがさらに下がったとしても物語を完成させたいと思います。




