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異星界漂流記  作者: 笑わない道化
第二章~帝国革命編~
14/29

紅い海





「おい!! あっちで何があった!? 答えろトム!!」


「お、おい、嘘だよな? あれはただのドッキリなんだよな? じゃなきゃ、あんなまるで人が紙くずのように真っ二つになるなんて・・・」


遠くからこちらの様子を見ていた仲間や大樹の上で見物してた奴らも一斉に俺に駆け寄る。


「すぐに撤退の準備を始めろ」


開口一番にそう言う。


「はあ? まてまて、そんなこといきなり言われても分からん。何があったと聞いているんだ!」


「いいからさっさと撤退準備を始めろ!! あそこには化け物がいて、今仲間が決死で足止めしている! 死にたくないなら早く逃げろ!!」


「そんなこと言ったって・・・捕縛したエルムの奴らはどうする? 略奪品は?」


「・・・・持てるだけ持ってあとは捨て置け」


仲間の一人が「はっ」と呆れたように失笑する。


「お前馬鹿か? せっかく運よく捕まえた大勢のエルムを捨てろと? 冗談じゃないぜ!! エルムの女一人で一生遊べる金が手に入るんだぞ!? こんな一攫千金のチャンスをみすみす逃す気はないぜ!! そんなに怖いならお前だけでも尻尾振って逃げりゃあいいさ バーカ!!」


「ああ、そうさせてもらう」


俺は脇目も振らずに走り出す。一応仲間には知らせた。それを仲間が信じるか信じないかはそれぞれにおまかせする。後のことは知ったこっちゃない。


「おーおー逃げろ逃げろこの腰抜け野郎!! 今日からおめーは酒場の笑いものだ! 今回の遠征もお前の分け前は無しだから覚悟s――」


ヒュン


声が突然途絶えたとともに、俺の真横に何か高速なものが通過し、目の前の民家の壁にぶつかった。

それはさっきまで俺にかみついていた男の頭がぶっ刺さった槍だった。


一瞬で背筋が凍る。一分も持たなかったか・・・





ついに悪魔がやってきた。




「あっはははははははははははははは!!!!!   死ねや糞どもがぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!」


「な、なんだこいつは!! 応戦しろ!――がはっ!!」


「た、たすけ、た、助けてk――げっ!」


「ま、待ってくれー!! 俺を置いていかないでくれええええ――ゴボァ!!」



惨劇の音が後ろから近づいてくる。

それでも俺は後ろを振り返らず、ひたすら走った。

少しでも逃げ切れる確率を上げるために。殺されないように。

どれだけ息があがろうとも、足がもつれようとしても。

走って、走って、走って!

懸命に、命辛々に、走り続けた。




しかし、




「次はお前だ」



死刑宣告かのような言葉が俺の耳元近くで囁かれた。


俺は振り返ることもできずに





視界が宙を舞った。




_________________________________________________________


その悪魔からはもう誰一人逃げることはできない。


立ち向かう者。逃げ惑う者。命乞いする者。


みんな、みんな。物言わぬ屍と化す。


彼らが唯一生き残れていた道は、


略奪なんかせず、さっさとエルムの人々だけをつれていけばよかったのだ。


でも、もう遅い。


欲に溺れた者たちは、皆例外なく殺される。


その悪魔によって。


兵士誰一人その森から出ることはできなかった。


メルランテ帝国、第四師団はたった一人の 人 間 によって壊滅した。


_________________________________________________________











・・・・・・・・・・・っ!!  やべっ、帝国兵殺すのに没頭していて我を忘れていたらしい。


自分の体を見る。

全身血まみれであった。顔や髪まで血でべっとりだった。俺の血ではなく、おそらく帝国兵のものであろう。こんなになっても正気に戻らなかったのか俺は・・・・。



ここは・・・・・・どうやらここはエルムの里のちょうど中央に位置している広場であった。



周りを見渡す。


あちこちに帝国兵の無残な死体が転がり、赤い水溜りができていた。

そして、水溜りと水溜りが繋がり、大きな湖のようになっていた。

緑豊かだった景色には赤色は目立ちすぎる。

大樹に、家屋に、植物に、

至る所が鮮やかな赤で彩られている。

植物の葉から滴る紅い雫が太陽?の光を受け輝き、まるで紅い宝石のようであった。

辺りは異様な風景で静まりかえっていた。





帝国兵は全滅したのか?




・・・・・・いや。 まだいる。 まだ生き残りがいる。


”索敵”で周囲に網をめぐらす。


赤い点が浮かんだのは、俺が里に入ってきたところとまったく正反対の里の端であった。


赤い点は全てそこに集中しており、孤立しているものはいないらしい。

てっきり、一人や二人くらい森に逃げ込んだかと思っていたんだがな。我を忘れていた俺の速さから逃れられなかったか。




「討ちもらしはいないようだね。 よかった、よかった」


そう言いながら、生き残りがいるであろう方角へ重い足を向けゆっくり歩く。




少し歩いたところで人影を見つける。


すると、



「それ以上、こちらに近づくなぁ!!! この化け物ォ!!!  こいつらがどうなってもいいのかぁあああ!!!?」


帝国兵の一人が、こちらに向かって叫ぶ。

生き残りの帝国兵のほとんどがそれぞれエルムの女性を強引に引き寄せ、首に剣をあてている。





確認できた。

帝国兵の生き残り人数は17人。

これぐらいの人数ならばちょっと遊んでもなんとかなるだろう。


俺は持っていた剣を地面に落とし、両手を挙げる。


「わかった! これ以上近づかない! だからその人たちを解放してやってくれ!」




ヒュウン   パシッ



突如飛んできた矢が俺の胸に当たりそうだったので、寸でで受け止めた。そして、矢が落ちないように手で握りながら刺さったかのように蹲り、「うっ」と呻き声をあげ、苦しむふりをする。


どうやら矢を放ったのは一番奥で馬車の陰に身を潜めていた兵士だったようだ。


余裕がなかった兵士たちは見事騙されていて、一様にやったぞ!と嬉しがっている。 



「へ、へへ、わりぃな。 そいつはできねえ相談だ」


「よくも・・・よくも、よくも仲間を殺してくれたな!! 楽に死ねると思うなよ!」


「まあ、まて。 そう急いてすぐに殺すのはもったいない。 まずは四肢を切り落として、それから腸を引きずりだしてじわりじわりと殺そうぜ。 そんで死体は帝都の広場で骨になるまで晒そうや!」


「ああ、そうしよう。 それぐらいやらなきゃ気がすまねえ。 仲間の仇!!覚悟しろ!!」





油断した兵士が数人俺にゆっくりと近づく。

いまだに人質をとられている状態ではあるが、まあいいだろう。

人質がとろうがとられまいが関係ない。



死ね



俺は顔を上げこちらに近づいてくる兵士以外の残りの位置を確認し、


”射出”



想像で創った光の槍が人間では到底反応できない速さで天から降り注いだ。

槍の総数は13本。1本ずつ近づいてこなかった兵士の頭に正確に吸いこまれ、貫通し、地面を穿った。

即死である。

反応する機会すらも与えられず、それぞれ持っていた武器を力なく落とし、人質を解放する。


光の槍で串刺しにされた兵士13人は、貫かれた槍が支えとなることによって倒れることもできず肉付きの案山子と化した。



「さて、あと4人だな」


俺は演技を止めてゆっくりと立ち上がり、笑みを浮かべる。



「ヒッ! く、くそ!!」


一人が再び人質を取ろうとエルムの人たちが集まっている方へ向かおうとするが。


「どこへいこうというのかね?」


すかさずテレポートを使い、向かおうとした兵士の前に立ちふさがる。

そして、兵士の顔を平手打ちする。


バチィン


兵士の首が一回転した。

首が一回転した兵士は目はしっかり開いているのだが、どこか虚空を見つめていて、喋ることもなくそのまま前のめりに倒れた。

やっぱり一回転するだけでも首に通っている血管、神経系が捻れて即死するのかな?

 

まあいいや。とりあえずこれであと三人。


「畜生ぉ・・・畜生!! 仲間の、仇ぃいいいいいいいいいいい!!」


一人が自棄気味に斬りかかってきた。


その兵士の斬撃を悠々とかわすと、兵士の右肘を逆に曲げ、続けざまに左肘も逆に曲げる。

そして最後にその兵士の背後にまわって頭を両手で鷲づかみ、思いっきり捻って息の根を止める。


あと二人。


「わ、わるかった。 俺たちが悪かった。 もうこんなことは二度としない! なんでもするから、許してくれ! このとおりだ!」


「・・・じゃあ跪いて、頭を地面に擦りつけ、命乞いをしろ。 そしたら許してやる」


「へ、へへ。 そんなことお安い御用ですぜ。   すんません!見逃してください!」


残り二人のうち一人が言われたとおりに頭を地面に擦りつけ、命乞いをする。それ見ていたもう一人も倣って跪く。




「ははっ」


思わず乾いた笑い声が漏れてしまう。

お前らにプライドっていうものはねえのかよ。



グシャッ



とりあえず、いまだ頭を地面に擦りつけ、土下座している兵士の頭を踏み抜いた。


あと一人。


「なっ!? ゆ、許してくれるんじゃなかったのか!」


「んー? ああ、許すとは言ったよー。 でも、殺さないとは一言も言ってないぞー。 言葉って難しいな。 あっはっはっは」


「そ、そんな・・・。 ま、待ってくれ!! 俺には家族がいるんだ! 今でもチビ達が俺の帰りを腹を空かして待っているんだ! 俺が死んだら女房も両親もチビ達も生きていけない! だから・・・だから、見逃してくれ! 頼む!!」


「おー。 家族がいたのですかー。 大変ですねー。  じゃあ尚更だ。尚更、殺さなきゃな」


「ど、どうして!?」


「本当に家族がいるのなら、大切だと思っているなら、汚れ仕事なんかするんじゃなかったな。 生き恥をさらすな」


こんな仕事に就いていなけりゃ、俺みたいな頭のおかしい人間に出会わなかっただろうに。己の不運を呪いながら死んで逝け。




足元に落ちてた手斧を拾う。


「それじゃあ、来世では善人であることを願うよ。   じゃねー」


「いやだ・・・・いやだいやだいやだ!! 死にたくない!! だ、だれか――あべぇっ!!」



最後の一人頭をかち割る。

脳漿をぶちまけ、鮮血が湧き出る。



はぁーやっと終わった。

一応辺りを生き残りがいないか索敵する。

脳裏に赤い点は浮かばなかった。

さすがに300人は多すぎた。序盤は興奮してたせいかノリノリで殺しまくっていたが、終盤になるとそれはもう怠くて怠くて仕方なかった。軽い眩暈と頭痛もする。

これからは一気に敵を殲滅できるような技も覚えていた方がいいな。

今回みたいに、力任せでやろうとするとほんと疲れるわ。

・・・・考えておかなきゃな。能力はあるんだし。




さて、


後ろを振り返る。


そこには捕らわれていたエルムの人々が怯えた表情でこちらを見ていた。

もう危害を加える者は誰もいないのに。

まあ、怯えているのは俺のせいなんだけどね!

とにかく、こちらに害はないことをうまく表さないとな。



・・・・・・・・・なんて声を掛けたら良いのだろう?


明らかに俺のことを怖がっている。皆顔を歪ませるほどに。

今声を掛けたら、余計に恐れられてしまうかもしれない。なんかいい方法はないのかな・・・。





声をかけようか、かけまいか考えていると




「そこまでよ!!  人間!!」



一本の矢が森の中から俺の頭めがけて飛んできた。

間一髪で避けると、矢を放ってきた人物が姿を現す。

その人物は美しい若い女性であった。年齢はおそらく20代。エルムの人たち同様、金色に輝く髪に宝石のような碧眼。 そして、おとぎ話に出てくるエルフのような長い耳を持っていた。 他のエルムの女性も美しい人ばかリだが、そいつはさらにとびっきりの美人であった。

凛とした顔立ちなのに、どこか可愛らしい。身長は俺と同じくらいだが俺みたいな胴長短足ではなく、脚は長く、女性なら誰もが羨むであろう絶大なプロポーションである。


エルムの美女以外にも仲間なのか、もう二人姿を現す。


一人は身長が子供ぐらいであるが、筋肉質な肉体を持つ髭を蓄え、片手に大きな斧を持った白髪の老人と頭の上に猫耳をつけた、くすんだ赤髪のあどけない少女であった。


「いきなり攻撃したらいかんじゃろうに。 まだ、こ奴がお主の里を荒らした人間だと確定しているわけじゃないのに。 どうやら、敵ではなさそうじゃぞ」


「いいえ、ルドワ。 あいつから物凄い危険な臭いがする。 私の直感が言っている。 あの人間は生かしてはいけないとね!」


「お主の直感は馬鹿にはできないのじゃが、直感は直感じゃろう? 我々に危険であるかどうか分からんのに・・・・キャリー、お主のスキルでなにか見えなかったか?」


「うん、ここに来る前に見た。 あいつ、やばい。 同じ人間を笑いながら斬り殺していた。 危険な奴・・・」


「ふむ・・・。 同族殺しか。ならば、何らかの理由で殺した奴らと敵対して、結果里の窮地を救ってくれたのかもしれないが、里の者とわしらに対して危害を加えるかどうかはまだ分らんのう。 はてさてどうしたものか。」




にらみ合いが続く。そろそろ口を開いてもいいかな。


「あのぉ、すみません。 いいかげんこちらに矢を向けるのやめてくれませんか?」


殺したくなるから。


「いやよ。 あなたみたいな危険な臭いがする人間を無警戒で接する方がおかしいわ。だから、鉉は戻さない」


「・・・・・・・死にたいのか?」


どうにかして止めてもらおうと、どすの効いた声をなんとか発してみるも。


「あなたこそ、変な動きを見せたらすぐ矢を放つから。    今度は外さない」


まったく効果がなかった。

どうやら弓を下ろしてくれないようだ。

所詮は顔と体だけか、いいのは・・・・美人なのに勿体ない。

俺に危害を加えようとするなら誰であろうと許さない。

その綺麗な首、刎ねてやるよ。


俺が動き出そうと思ったその瞬間



「ま、待つんだエリ!! その御方は敵ではなぁい!!」


帝国兵に捕らわれていたエルムの群衆の中から壮年の男性が、俺と彼女の間に勢いよく割って飛び出してきた。


「長老!! 危ないからそこをどいて!!」


「エリ!! 早まるんじゃない!! 確かにこの御方は危険な人物かもしれん。 だが、仮にも我々の里を救ってくれた恩人であるぞ! 無下にしてはならん!」


「で、でも!!」


「それにこの御方の強さは直に拝見した。 お前より強い! すぐに殺されてしまうだろう!!・・・・・・お前までいなくなったら私は・・・・私は!・・・・」


最後まで言い切れず、その男性は嗚咽を漏らしだした。


「おじいちゃん・・・・・」


長老と言われた男性のおかげで、緊迫した状態が少し和らいだ。

彼女はまだこちら警戒してるみたいだが敵意は感じられなくなった。

これなら、戦わずに済みそうだと思っていたその時


「お姉ちゃん!」


俺の後ろから声が聞こえた。聞き覚えのある声だった。


「ルル!! 無事だったのね!!」


「お姉ちゃん大丈夫だよ。 コウキに助けてもらったから」


「コウキ?・・・この人間のこと?」


そうだよとルルが肯定すると。彼女は俺の顔をじっと見つめ、やがて俺に向けてた弓を収めた。


「ごめんなさい。 あなたのこと、誤解してたわ。 妹を救ってくれてありがとう」


彼女はそう謝罪とともに感謝の意を述べた。

その言葉で毒気が抜かれ、俺のゆであがった頭が急速に冷め、冷静になったと実感した。


「・・・・お互い頭に血がのぼっていましたね。 こちらこそすみませんでした。 殺し合わないためにも納得いくまで話し合いましょう」


俺はそう提案した。




ルルと長老のおかげで、この場は平和に収まった。





キーワードでも書きました通り、主人公はサイコパスです。

思慮は浅く、短気で今後も訳の分からない行動をとると思います。


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