尋問()
「な、なんだお前は! そ、そこで何をしている!? 今重要な任務を遂行中であるぞ!! は、はやくここから立ち去れぇい! 」
コロコロ太った何かがなんか喋っているけど、言う通りにする必要はない。俺はわざとらしく無視し、近づく。
あからさまに無視されたことが癪だったのか、中年ブヨブヨ野郎はその場で立ち上がり、下半身丸出しのまま俺に向かって唾を飛ばしながら叫ぶ。
「お、おまえぇ・・・ぼ、僕の話をきいているのかぁ!? 僕はあの有名なメルランテ帝国の子爵、ブタン家の長男であるぞ!! へ、平民の分際で僕の命令に無視するなんて、不敬であるぞ!! おい!聞いているのか!?」
ここで俺は、相手を嘲笑するようなにやけ面で次のように言ってやった。
「うるせーな聞こえているよ。なんでお前の言うこと聞かなくちゃならねーんだよ、ばーかw」
「なっ!・・・・なっ!・・・」
ちょっと汚い言葉で馬鹿にしただけなのに見るからに顔を真っ赤にしている。羞恥からではなく怒りからだろう。子供の癇癪のように。その歳にもなって余裕が一切見られない・・・いったいどういう環境で育ったらこうなるんだ?
「それに さ、おまえ・・・・・・」
「ああ・・・ああああ!! このお、平民風情があああああああああ!!!」
「うざい」
ヒュン ドサ
風切り音とともに何かが落ちる音がした。
音の正体は、俺がさっきの兵士から奪った剣で、中年の右腕を刎ね飛ばした音だった。
「はい?・・・・あれ?れ・・・い、いぎゃあああああああああああああああ!!!ああああああああああ ぼ、僕の腕がああああああああ!!!!」
大の大人が、しかもそれなりに歳を取った男が泣き叫ぶのは酷く滑稽であった。
「”止血”」
「ああああああああああああああああ!!!!!・・・・・・・・・あ、あれ?・・・血が・・止まったぞ・・・よ、よかっ――」
ヒュン ドサ
「た・・・?・・・僕の左は?・・ひだり・・ひだ、うぎゃあああああああああああああああ!!!」
奴の右腕を止血した後、続けざまに左腕も刎ね飛ばし、止血する。
「俺さ、いままで我慢してきたんだ」
「い”たいい”たいい”たい!!!! だ、だれがぁ、たずげてくれいぃ」
「なんでこいつ平然と生きてやがんだ? てな奴をぶっ殺したくてしょうがなかったんだ。 でも、ここだと何の気兼ねもなくできる。 嗚呼、殺したい奴を殺せるなんて・・・気持ちいいな♪」
「ひ、ひいいい・・・ばけものぉ・・・・だ、だれかぁ・・・助けでぐれい・・・」
中年の男は助けを求めながら、両腕がなくなっても背を向け逃げようとする。
ま、逃がさないけどね
持っていた剣を横に薙ぐ。
二本の脚両方とも同時にたたっ斬る。そして、
「”止血”」
これで四肢をもいでも、失血死にはならないであろう。 やってみたいことがあるのに死なれちゃあ困るよ。
両脚を失くした哀れな男は前のめりに倒れこんでいた。
「う、うぅ・・・き、きさま・・・こ、こんなことして・・・ただで済むと・・・お、思うなよ・・・」
助けをもとめても誰も来てくれないと分かったのか、それとも諦めたのか......自棄気味にそんなことを言い出した。
まあ、簡単に心が折れたらつまらないし、これからもっと痛めつけるのにやる気が失せる。
「うんうん。 それくらい元気でないと困るよ」
俺は右手に握っていたものを中年の男に見せつける。
それは長さが20cmくらいの白く輝く細い針であった。
「な、何をする気だ.......きさま」
「んー? ちょっとお前の頭を弄くるだけだよ」
「は?.......え?......」
「大丈夫、大丈夫! すぐ、終わるから。 周りの木を数えてたら終わっているから」
右手に針を握り、ゆっくりと歩き、詰め寄る。
「や、やめてくれ...いや、やめてください!! 僕が悪かったです。ごめんなさい! も、もうこんなことはしないから、どうか許してください!お願いします!」
未だ下半身丸出しの無様な格好のまま中年の男は器用に跪き、命乞いを始める。
俺は命乞いを無視して針の説明をする。
「この針はな、相手の頭に刺すと洗脳状態にすることができるんだ。 何を質問しても答えるし、何をされても文句もいわないし抵抗もしない。 まるで奴隷のように。 あ、ついでに刺さっているときはものすごい激痛が伴うように創っておいたよ! あとで感想きかせてね」
「ま、待っ――」 「待たねーよ」
聞く耳持たず、中年の男の頭頂部を針でおもいっきりぶっ刺す。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!.............がっ......あっ.....あっ......ああ......」
男は針が刺さった痛みで悲鳴を上げた後、顔面を鼻水やら涙まみれにして、口は半開きにして涎をたらし、目は泳ぎ、虚空を眺めていて、時折呻き声をあげる廃人となった。
「痛いだろ? でも、痛くても叫ぶことができない。 泣き喚くこともできない。 どんなに痛くても命令されなければ喋ることもできない。 苦痛だろ?死にたくなるだろ?頭をかき回されるってどういう感じ?」
「・・・・・・あっ...がっ.....あっ...あがっ.......」
「あはははは! 何言っているのかわかんねーよ......さて、お前にはいくつか聞きたいことがあるんだけど.......答えてくれるよな?」
「げっ・・・・あ・・・どうぞ・・・なんなりと・・・・あっ・・・」
「おまえらはどうしてこの森にいるんだ? 目的は?」
「あ”っ・・・が・・・。 ・・・エルム族の里を探索。・・・あっ・・・見つけ次第・・・捕獲し・・・ぎっ・・・奴隷にする。・・・エルム族は・・・がっ・・・高く売れるため・・・皇帝陛下から・・・直々に・・・あっ・・・命令が下った・・・」
「皇帝陛下? じゃあお前らは帝国兵ってことなのか。 帝国兵がどうして賊のようなことをしてるんだ?」
てっきり奴隷商人が雇った傭兵の類かと思っていた。 しっかし国主導で他民族を奴隷化にしようとするのか・・・。
「あっ・・・あ・・・ハリット大森林は・・・多くの亜人種が住まう・・・げっ・・・帝国領となっているが・・・未だ統治できず・・・あっあ・・・亜人の里を襲撃して少しずつ戦力を削ぎ・・・まとまって出てきたところを叩き・・・殲滅する・・・がっ・・・作戦・・・あっ」
ハリット大森林・・・それがこの森の名前か。 で、ここから一番近い人の国は帝国・・・まったく見えなかったな、広すぎるよこの星・・・。
この星に降り立つとき、人工物のようなものは確認できなかった。かなり視力も強化されているはずなのに。
俺はさらに尋問を続ける。
「この森に来たお前の仲間は何人いる?」
「・・・ぐっ・・・300人程度・・・我々は第四師団・・・あっ・・・」
「そいつらはどこにいる?」
「・・・詳しい位置までは・・・あっ・・・分からない・・・ただ・・・あ・・・そう遠くまで・・・いっていない・・・」
・・・ここまでかな、聞きたいことは。
俺は人差し指を中年の男の額にあてる
「”痛覚遮断”、”洗脳解除”」
「・・・・・っ!・・・・・かはっ、はぁ・・・はぁ・・・もう・・・痛くしないで・・・ください・・・お願いします・・・」
すっかり弱気になってしまったオジサンは、自由になったあと開口一番俺にそう懇願してきた。
出会ったばかりの威勢はどうしたんだよ。
「そう怖がらないでよオジサン。 聞きたいこと全て喋ってくれたから開放したんだよ。 あと、お礼に痛覚も遮断したんだし。 痛くないでしょ?」
「あ、ああ・・・・ありがとう・・・ございます・・・ありがとう、ございます!・・・」
オジサンはうずくまり、嗚咽をもらしながらひたすら俺に礼を述べていた。
俺はオジサンを背にして、女の子がいる方へ向かう。
あっ・・・・・・
「そうそういい忘れてた。 その針ね、何かに刺さると5分後に爆発するんだった。 ごめん言い忘れてた」
オジサンはかなり驚いたのか、ガバッと顔を上げる。
「え・・・どうして・・・助けてくれるって・・・」
「え? 俺、一言も助けるって言ってないよ。 なに勘違いしてるの?」
「そ、そんなぁ・・・・ぞんな”ぁあああ――」 パンッ!!!
言い切る前になにかが爆ぜる音が聞こえた。 振り返るとオジサンがいた辺りが脳漿やら脳汁やらでぶちまけられていた。
誰にも見取られることもなく無様に死んだこの男の体は、そのうちこの森の養分となるだろう。最後に自分の肥えた体が役に立つなんて、お前みたいな下衆にはここは良い死に場所だったんじゃないか?
「さて、と」
俺は今度こそ少女がいるところへ向かう。
襲われた美少女はずっと腰が抜けていたのか押し倒されていたところから全く動いていなかった。
俺の顔を見るや否や顔面蒼白になり、胸元を隠し、体を小刻みに震わせた。
「酷いこと・・・しないで・・・」
自分もあの中年男と同じことをされると思っているのか、怯えているけれどもはっきりとその言葉は聞こえた。
「安心して、酷いことしないよ」
さっきまで残虐非道なことしていたのによくもそんな言葉を言えるなぁと自分でもそう思う。
彼女の目の前まで来て、目の位置が同じになるようにしゃがむ。
まずは普通に話せるようにしなきゃ
俺はゆっくりと手を伸ばす。
「・・・!! やっ!!」
伸ばしきる前に彼女の手でパシッとはたかれてしまった。
そりゃそうだよ初対面の怪しい男が手を伸ばそうとしているのだ。しかもあんなの見た後だ。警戒しない方がおかしい。
再度手を伸ばす。もちろんはたかれるが今度はそのまま伸ばしきろうとする。
「やっ!!・・・・・やぁ!・・・」
彼女は必死に俺の手を押し戻そうと抵抗する。
「大丈夫、こわくなーい、こわくなーい」
傍から見れば、不細工な男が半裸の女の子の胸元に手を伸ばす・・・・言い逃れができない事案風景であった。・・・・・・・・俺もあのオジサンのことを酷く言えないな・・・
腕を伸ばしきると無残に裂かれた彼女の服の端をつかむ。
彼女は抵抗するのを諦めたのか、顔を横に向け、目を瞑った。
「”修復”」
俺が手をはなすと、破れていたはずの服が新品同様元どうりになっていた。
「え・・・え?・・・」
彼女はゆっくりと目を開けると、困惑した声をあげ、目をパチパチさせながら自分の服をポカンと眺めた。
彼女の頬を見る。
誰かに平手打ちされたであろうところが赤く腫れていて、痛々しかった。 ついでにこれも治しておこう
右手のひらを彼女の頬にそっとあてる
「”完治”」
手をどけると、そこにはもう痛々しい腫れはなかった。
「少しは落ち着いた? 大丈夫? 話せる?」
俺は尋ねてみる。
彼女はじっと自分の服を見つめた後、やっとこちらを向いてくれた。その顔にはもう怯えの表情はなかった。
「この服・・・・・・おかあさんが編んでくれたお気に入りの服・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・直してくれてありがとう、おにいさん」
そう言うと彼女は、にこりと笑ってくれた。
その笑顔は長年、女性と会話してこなかった俺にとっては眩しすぎて直視できず、おもわず目をそらしてしまった。