プロローグ
拙い作品かもしれませんが、よろしければお読みください。
目の前に立ちはだかるのは、血走った目をしてよだれを垂らす一頭のクマ。体長は3メートル近く有るのではないだろうか。
睨み合う——いや、一方的に睨み付けられているけど、とにかくお互いピクリとも動かない。
その中で、唯一時が過ぎることを表すかのように、風が肌を撫でた。
風により、クマの体毛がふわりと揺れる。そう、それは完璧なもふもふだった。
しかし、そのもふもふは完全に俺を餌だと認識している。つまり、俺がそのもふもふを堪能することは、不可能なのだ。切ない。
『三度の飯より』と言うと言い過ぎかもしれないが、それに匹敵するくらいもふもふが大好きな、俺こと今井龍。俺にとって、もふもふが目の前に有るのに触れられない現実は、とても残酷だった。
俺は、睨み付けられていることを忘れ、全力で叫んだ。
「もふもふを堪能出来ないなら、異世界に来た意味ないじゃん!?」
——時は数時間遡る。
俺は、キャットフードとドッグフードを装備して、放課後に街を歩いていた。
これは、もちろん日課だ。もふもふは至高!
しかし、俺はどうやら動物に嫌われるようで、常備している犬や猫の餌が役に立ったことは、一度もない。
今日のもふもふ捜索も不発に終わり、諦めて家に帰ろうと思ったその時、一匹の猫が道路に飛び出した。迫り来るトラック。スローモーションに見える光景の中、飛び出した俺は猫を抱き抱えた状態で、トラックに跳ねられる。
幾度かバウンドし、転がった俺の腕の中から、猫が這い出して去って行った。あの、もふもふの感触は、絶対忘れない。
そのまま、俺の意識は途絶えたのだった。
まぁ、この後は省略してもいい気がするが、一応軽く説明する。
定番の神様に会って、定番の願いを聞かれて、定番のもふもふを堪能したいと願っただけだ。
え? もふもふを願うのは定番では無いって? そんな馬鹿な。
読んでくださって、ありがとうございます!