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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

世界的物語

誕生日記念小説 三人と一人の本

作者: 童想恋香

これはとある四人のお話じゃ。ドッペルゲンガー、リリス、ぬらりひょん、化け猫が人間になって活躍する物語。興味があるならこのまま聞いておくれ」


老真っ白な世界に果てしなくに続く大きな本棚の中、老婆が広間の中にある椅子に座り本を開く。

暇を持て余した私は、ゆっくりと聞くことにした。


☆★☆★☆★


都会と田舎の間の小さな街。

ちょっとしたカフェとカラオケ、そして大きなショッピングセンターがある。暇つぶしするには十分なのだろうが、もう遊び尽くして飽きたと彼女が言ったのはつい先日のことだった。


「餅食べたいよぉ。ねえ巫女餅盗んできて」

「巫女餅なんて安くていくつも買えるっしょ」


そんな街に盗賊グループがいた。

まず天暗影(てんあんえい)。コードネーム「ドッペルゲンガー」。このグループの窃盗担当で、変装さえお手の物。他人を陥れることが好きで、女遊びや詐欺さえやってのける。

次にリーダーの紅夜季(くれないやとき)。コードネーム「リリス」。このグループの戦闘担当。季が戦闘や周囲を警戒している間に影が盗むというのが主な流れとなっている。

最後に新人の灯火雛(ともしびひな)。コードネーム「ライアー」。このグループの策略担当。無愛想だが表では生物の研究者でもある。名前は女らしいがれっきとした男だ。

今は八月の真っ只中。三人は、影の家で暇をしていた。

ちなみに、巫女餅というのはこの街の名物である。


「はぁ、カラオケ行く?」


ため息を吐きながら影が提案した。


「えーやだあそこあまり曲ないしー」


と文句を言っている季は、スマートフォンで面白そうなことがないかとネットサーフィンをしている最中だった。

また文句ばかりか、と影は呆れ、雛の方に助けてと視線を送る。


「季ちゃんはいつも我儘だから、少しは我慢を覚えた方がいいよ」


雛は小説を読みながらその視線さえも軽く流す。


「曲が少ないのは事実でしょ!」


と、季は怒鳴った。

影が提案したカラオケは、大体他の街にあるカラオケではなくこの街にあるカラオケ。そこは一人のおばあさんが運営していて、カラオケの機材も一つしかなく来た客皆で楽しむという形式だった。

それ故に季は行くなら他の街のカラオケ、といつも言っていた。

しかしそこのおばあさんは影や季と顔馴染みで、久しぶりに顔を見に行こうと提案したのだった。


「いいぜ、巫女餅盗んであげないから」

「ぐぬぬ……わかった行くよ!行くから!タダであれ食べたい!」


帰り際に食べるという約束を交わして、季は出かける準備をし始める。少し嫌らしく言うだけで諦める季を見て、影は嬉しげに笑った。

……雛は相変わらず無口で小説を読んでいた。


☆★☆★☆★


住宅地の中の狭い道路で、三人が横に並んで歩いている。

雛が辺りをキョロキョロと見渡して、家の外に金目のものがないか探していた。


「うーん……そうだ、もっと街の方行く?」


探して、無いと一区切りつけたところで質問をした。


「俺、金ないから行かね」

「いいかもねー」


季はそう呟いた。

カラオケは家々が立ち並ぶ中に一軒、カフェが一階にあり階段を上がるとカラオケがある。

カラオケはカフェの店主さんの妻さんが経営している。一室、横長いソファに横長いテーブル、テレビが一つ、ジュースやお菓子をしまってある場所があるだけの場所だ。つまり都会にあるような数々の部屋があるカラオケ店ではなく一室にいろんな人が来るということ。


「いらっしゃい。おや、季ちゃん達じゃない」

「おばさん、どうも」


おばさんが挨拶をすると雛が返事をする。季はドスンと座り注文をする。影は注文をしてから座る。

誰も来ておらず、少なくとも時間的には二番目に来たと予想ができる。


「あああああああああああああああ!」


季は早速歌い始める。歌声は、上手いとは言い難いが下手とも言い難い程。


「季ちゃんは相変わらずだねぇ」


おばさんは季の歌声を聞いて呆れている。


「順位としては雛君が一番なんだけどねぇ」

「やめてくださいよ…」


季が歌い終わると沈黙が始まる。


「おばさん…どんな病気になったんですか?」


雛が言った。いきなりのことで影は飛び上がり質問をする。


「おばさん!?どういうことですか!?」

「…雛君は相変わらず情報収集が早いねぇ。昨日澪ちゃんが来たんだよ。その時は風邪で、澪ちゃんに騙されて飲んだ薬で風邪は治ったんだけど、違う病気になっちゃってね。新しく開発した物だそうよ」


おばさんは苦笑いをする。季と雛は無表情で何も言わずだが、影は怒りで顔がいっぱいだった。

紺空澪(こんくうみお)。別名「無口の狂気の医者(マッドドクター)」。元はこの団の一員だったが嫌だ、などと勝手に出て行った者。幼児の時から医学を教わり医者としての腕はもちろんだが、最近医者ではなく闇医者を始めた、そのためおばさんのように犠牲者が最近絶えない。


「まあ澪ちゃんも大変だろうねぇ」

「あんな奴の心配なんてしなくていいです」


影は必死になって言った。それでもおばさんは苦笑いをするばかりで、影の言葉に耳を傾けようともしない。


「…とりあえず、カラオケ歌おう。来た意味なくなっちゃうよ」


雛が言う。ならと影も歌い始めた。


☆★☆★☆★


数日後、カラオケは閉店した。おばさんが遂に入院したからだ。

その原因を知っているのはおばさん本人と季達だけ。


「はぁ…結局巫女もー盗んできたし、普段なら機嫌いいはずなんだよねぇ」


季は巫女餅を食べながらスマホを弄っている。


「僕の予想だと澪ちゃんは盗みに来るだろうね。多分狙いは影君が盗んだ旧人の輪だね」


旧人の輪。簡単に言えば大昔に作られたマジックアイテム的な指輪。季が欲しいと言ったため影が雛の指示を受けながら盗んできたもの。

…季のスマホに電話が掛かってきた。


「ぼ、ボス!は、はい、休業中です……は、はい、わかりました」


電話を切ると季は完全にダウンする。


「どうしたの?」


雛が苦笑いしながら聞いた。季はベットに寝転がる。


「ボスから電話。澪を参加させたいって」

「あんな奴どうするの?」

「知らなよそんなこと」


呆れた口調で季は質問に返答する。


「とりあえず僕はここに残って守りをする。季ちゃんと影君は探してきていいよ」


雛は小説を読み始める。二人は早速澪を探し始めた。雛はしっかり家から出て行ったのを確認する。


「…もういいよ、澪」

「…なんだか兄妹みたいな呼び方…」


耳をよく澄ませて聞こえた少女の声。

後方には黒髪ツインテール、薄く黒い目を開き水色枠の眼鏡を掛け、赤いポーチを持ち赤に白で模様があるワンピースを着ている澪がいた。


「…雛暑そう…」

「意外に寒がりなんだよ僕は」


雛は相変わらず本に目を向けたまま。澪は青紫の液体が入ったコルクで蓋をしてある試験管を取り出す。


「それは?」


雛は質問をしても澪に返事はない。ただ雛を睨んでいるだけ。雛はため息を吐くと、本を置いた。


「何を言っても澪は変わらないね」

「…頭脳派の雛に何ができる…?」


雛はすぐにナイフを持つと試験管に向かって投げた。試験管は割れ、中に入っている青紫の液体は溢れ落ちる。


「…興味ない…?…この液体…」

「興味ないね。というより、なんで澱粉を混ぜたヨウ素液如きに興味を持たないといけないんだ」


澪は一本、コルクで塞いで緑色の液体が入っている試験管を取り出すとコルクを抜く、そして雛の脇腹を蹴ろうと左足を上げた。雛はそれを見逃さずに右手で足首を掴む。次はどうしようかと構えながら考えている時、ここで澪は違和感に気がついた。

__雛以外の視線を感じる…?

そして次に頭の中に過ぎった予想。負けの確率が大きくなる。だが少しだけある勝てる確率を信じ、澪は後ろ蹴りをする。それも無駄に終わった。

澪の首元にダガーが構えられる。後ろに居たのは____________影。

澪はその後ろにいた影に蹴りを入れ、当たったら後ろにいると確信をしてから試験管を口の中に突っ込むつもりだった。もし外したら、負けだった。

影は余裕の表情をしていた。すでに背後は取ったからだ。


「はいはーい。無様な澪ちゃん捕獲成功」

「…どっちが悪者なんだろうね…」


季が扉を開けて入ってきた。その表情は笑っており、そして嬉しそうにしている。


「これぐらいのことができないと、だよね季」


影は季に微笑み返す。


「はい正解。さっさと回収班来ないかなぁ」


そんなこんなで澪を捕まえることができた。


☆★☆★☆★


その後、回収班も来て、命令を終わらせた。

澪は拘束された状態で牢屋に入れられた。しばらくして牢屋から出され、トライアドの一員となることになった。そして澪はカラオケのおばさんの病気も治し、退院もしてまたカラオケを開店したらしい。

ある日雛が澪の様子を見に行く。


「調子は?」

「…順調…いい薬も作れた…」


澪はあまり寝ていないのか目の下の隈が酷い。


「これプレゼント」


雛が取り出したのは香水。まだ箱に入れたままの新しい物。


「…ジャスミンの香水…?」

「そう。ジャスミンの花言葉は素直。他にも喜びや清純。澪にはジャスミンの花言葉っぽくいて欲しいからね」


雛は「場所を変えようか」と言い外に出て、ビルとビルの間の路地に入った。


「…なんて花じゃなくて香水…?」

「あんな場所に花なんて似合わないだろう?だからせめてって思って香水にしたんだよ」


路地の中には中が血まみれになっているガラスのケースがポツンと置いてあった。


「…これでどう…?」


と言って澪は万円の束を差し出した。


「200か…まぁいいよ」


雛は去っていった。


☆★☆★☆★


「面白かった?」


少女が飛び降りてくる。


「全くじゃ。お主はまたとんでも無いものを書きよって。お主が望むものはなんじゃ?」

「私のようになって欲しく無い。まだあなたにも読んで欲しいものがあるんだよ」


老婆と少女は見つめ合っている。ただ白い世界の中に立っていた。



























































































































































































































































「のんきな彼女たち。いつか降りかかるその言葉は彼女を消すもの」

「これからが楽しみだな。私達はただ見てるだけだけどな」

「はい。私達は私達の役目を果たすだけです。自由となったこの身で」



____________永遠に続く彼女の象徴物語(シンボルストーリー)。そして彼女の悲鳴の声(スクリーム)を読んでみてください。また会いましょう、改変されたあの物語で。


二人はいつまでも見守り続ける。成長していく多くの者の誰にも見つからないこの時空枠で。

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