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Funnys

作者: ハルト

 結局、わたしには救いの王子サマとか、伝説の勇者とか、運命の人とかが助けに来てくれることもなく、大衆の前で好きでもない人と愛の誓いを宣言しちゃって、そして今から夜を共にしなきゃいけない。なんて不幸なんだろう。

 かなりの憂鬱を抱えて、「夫」になった人のいる部屋に向かう。いまここで魔物がこの城を壊してくれたらどんなにいいだろうか。いっその事、魔王に掴ったほうがマシにさえ思えてくる。いや、それはそれで嫌か。

 扉は思ったよりも大きくて、冷たい。一生この扉を開けたくないけど、開けなきゃならない。開けなければ、なんのために自分を殺してまでも結婚したか分からない。

 ただ、少しだけ猶予をもらうことにした。彼を思う、最後の時を。

 だってさ、五年前の話とはいえ、好きだった男の子だよ?消息が分からなくなっていなくなってしまったけれど、もしかしたら彼がわたしを助けてくれるかもしれないと期待してたのよ。ずっと、誓いの言葉をするまで期待して待ってたの。

 けれどやっぱりそんな素敵な話が起こるわけなく、結局この国の王子と結婚したわけだ。最低。

 もしかしてわたしって夢の見すぎ?「もしかしたら」を思いすぎ?

 もう、「彼」のことを思うのはこれでやめよう。これでさよならだ。


「ばいばい」


 呟いて、思い切り扉を開ける。はしたないかと思ったが、意気込みは大事だ。

 ただっぴろい部屋の中央に、金髪の青年が立って私を見つめた。嫌いじゃないし、好感も持てるけど、それとこれは別だろ?ああ、消息のたった「彼」がこの人だった、ってオチだったらいいのに。まぁ、こんなに綺麗な金髪じゃなくて、「彼」は明るい茶髪だったけど。って、いけないいけない。忘れるんだった。


「これから……よろしくお願いしますね」


 にっこりと笑ってくれて緊張も解れるんだけど、やっぱり「他人」って気がしてしかたないんだよね。どうしよう、ホントこれから。

 そして手を差し伸べられる。わたしは一瞬戸惑った。けれど、いまさら握らないなんて馬鹿らしい。

 ああ、さよなら私………………

 なんて何度目か分からない覚悟を決めた瞬間、高らかな音が響いた。




「だ―――――――――――――ッッ!!!!!!!!」




びびった。


ホントに。



だっていきなり窓われるんだよ!!?そりゃもう派手にさ!!!


 わたしと王子が呆然と窓下に蹲る影を見つめていると、いきなり影が立ち上がる。それにあわせてわたしたちもビクリと身体を震わせた。


「え――っと、間に合った?間に合ったよな?あ、よかった、まだ大丈夫そうだ」


 そうして侵入者は緊迫した空気に似合わずにっこりと笑った。それは初夏のすがすがしい日差しのようだ。

 それが過去の思い出としてフラッシュバックした。


「あ―――――――――――っ!!!!!!」


 あまりに驚いてそう叫びながら男の子を指差すしかなかった。その指は震えてる。少年はそれに嬉しそうに答える。


「よかった!!もしかして忘れらてるんじゃないかって思ってたんだよな!その様子じゃあ大丈夫そう。よかったー」


 ほっと胸をなでおろす少年はわたしの返事を気にするでもなく、口を次々に開く。


「いやぁさ、ホントはかっこよく結婚式の時にさらう!!みたいなことしたかったんだけどさぁー、運悪く山賊に襲われちゃって、そいつら相手してたら遅くなっちゃってさ!悪い悪いー。でさ、この部屋にいるってのはわかったけど、もしも……ほら、アレな最中だったらどうしようかと思ったんだよなー。流石にきまずいっしょ。しかも助けるタイミング悪くて俺もかっこ悪いし。けどさ、まぁ迷ってる暇もないし、取り合えず部屋に飛び込もうって思って、こーして窓割ってきたわけなんだけど、いやぁ、ほんとよかったよかったぁ――――」


 そこまで一気に少年は言ってから、今度はつかつかと王子のほうに近寄った。王子は剣を手にするでもなく、ただ少年を凝視していた。


「あ、あんたかーリアルラの相手。いやぁ、ほんとかっこいいな、アンタ。うん、相手として申し分ないわ。もしかして俺、よけいなことしちまったか?」


 最後の問いかけはわたしにだ。わたしは必死に横首を振る。

 すると少年は嬉しそうににかっと笑った。


「うん、そっか。じゃあやることはただひとつだよな?」


 そうして彼はわたしを抱き上げて――いわゆるお姫様抱っこをして、破壊した窓枠に足をかけた。相変わらず王子は動かない。


「ちゃんと掴ってろよ?」

「う、うん」


 頬が上気する。いいのかな、ほんとに、こんな展開で。



「じゃ、お姫さんは俺がいただいてくぜ!」



 そうしてわたしたちは、宙を飛んだ。


















「お腹すいてないか?何か呑む?それとも疲れた?寝る?」


 わたしは次々に尋ねられ、答える暇もない。ただ、最後の問いだけには首を振っておいた。


「まだ眠くないのか。じゃあ昔話でもしようよ」


 にこにこ笑ってわたしの隣に腰掛ける。この馴れ馴れしさ、よくも五年越しにできるものだ。

 わたしは黙って彼を睨みつけた。やっと彼はわたしの不機嫌さに気がついたらしい。


「ん?どした?顔色悪いぞ?」


 彼の鈍さに頭にきて、わたしはキレた。


「………………………遅いわよ…………」

「へ?」


 ギッと彼を睨んで思い切り彼の頬を叩いた。


「――――――――ったぁ!!!!!!何だよ!!!」

「何だよ、じゃないわよ!!!!」


 わたしの怒鳴り声と形相に驚いたのか、彼は頬に手を当てながら固まっていた。


「遅いのよ、遅い!!!なんで結婚式までに来てくれなかったのよ!!!どうしてわたしがあんな男に誓いの言葉を捧げる前に助けてくれないのよ!!!!??」

「ええっ!!で、でもスーパーウルトラピンチ前には助けたじゃん!!それじゃ駄目なのか!?」

「当たり前でしょ!!!??」


 彼はどうしてわたしが怒ってるか分からないらしく、困ったようにおろおろしていた。

 わたしは目頭が熱くなるのがわかった。


「そりゃ、アイツなんかに触られる前に助けてもらえてよかったけど、けど、わたし、あの人と結婚しちゃったんだよ?『妻』になっちゃったんだよ?そんなの、すごく嫌なのに。結婚するのは好きな人とがよかったのに」


 ぽろぽろと泪が零れる。彼は慌てながらも抗議する。


「そ、そんなのいいじゃんか!好きなヤツと結ばれれば別に……」

「そんなことないよ!わたしにとっては重大だよ!!」


 思い切り腕で目を拭く。そして再び彼を睨む。

 彼は頭を掻きながら、小さく、でもはっきりと言葉にした。


「お前はさ、儀式とか形に縛られすぎだよ。いいか、お前の心がこもっていない『誓い』なんて無効なんだ。だから、お前はアイツの『妻』でもないし、結婚したことにもならない。そうだろ?それともお前は、アイツのことが好きなのか?」

「違うッ!!!」


 激しく否定すると、彼は硬い表情を崩した。


「ん、じゃ大丈夫だ。まぁ、そこまでお前が気にするんだったら…………――――」


 そうして彼は立ち上がり、すばやくドアに手をかけた。


「いいか、そっから動くなよ!」


 訳がわからない間に、彼は早々と部屋を出て行った。

 すぐに帰ってくると思ってたのに、なかなか彼は戻ってこなかった。心配になる。今頃わたしを探すために城は必死になっているだろう。彼は兵士に捕まってしまったのかもしれない。そう思うと、背中がゾッとした。

 わたしが嫌な考えをいくつも考えていると、彼は出て行ったときのように飄々と現れた。


「ちょっと、どこいってたのよ!」

「わっ!」


 いきなり掴みかかってきたわたしに彼は驚いたらしい。少しよろけた。


「心配になるじゃない!あなたがもしかしたら……て」


 そうして俯く。なんだか恥ずかしくなってきて、最後のほうは小声になった。急に顔が熱る。


「え…………ご、ごめん。これ、手に入れに行ってたから……」


 顔をあげて彼が持っているものに目を向ける。わたしはわけがわからなくて目を瞬かせる。


「へ、これ……って」


 銀に輝く小さな指輪だった。ガーネットが嵌っている、いたってシンプルなものだった。今日王子からもらったものから比べれば、質素で値段など天地の差があるだろう。けれど、わたしにはそれが輝いて見えた。

 彼は微笑んだ。


「お前、なんか結婚云々が気に食わないみたいだからさ。じゃあさ、今ここで、俺と誓おう?それがお前の『初めての結婚式』になるから」

「な、何それ…………」


 『初めての結婚式』って、わたし、そんなに結婚式するつもりないわよ。

 それに、この人は結構思い込みが激しいというか、当然と思って口にしている言葉が相手の確認ナシというのが恐ろしい。


「わたしがあなたと結婚するって、本気でそう思ってるの?」


 そうすると、彼は豆鉄砲をくらったような顔をした。



「え、お前俺が好きなんじゃないの?」



 なんだ、この自己中心的な男は。最低だ。

 けど、その表情があまりに可笑しくて笑ってしまった。彼はかなりうろたえた。


「え、マジ!?それじゃあ、俺ってかなり滑稽じゃんかよ!!うわーマジ恥ずかしいんですけど…………」


 顔をこれ以上ないってくらい真っ赤にして俯く彼はとても可愛い。

 わたしは助け舟を出すことにした。


「でも、困ったな。わたし今日の結婚がトラウマになりそうなのよねー。あーあ、誰か他に結婚してくれる人いないかしら」


 ちらりと彼を見ると嬉しそうに破顔した。


「じゃあ、俺はどうですか?」


 そして手を差し出す。それは、ずっとわたしが望んでいたものだった。


「…………お願いします」


 こんどこそ躊躇いもなく、その手を握りしめた。

 彼はわたしがつけていた指輪を外すと、その左の薬指に口付けをして、そこに彼からの小さいガーネットの指輪を嵌めた。そして、わたしの左手を掲げたまま真っ直ぐにわたしを見据えた。



「俺は、ずっとリアルラの傍にいます。それをここに誓います」



 わたしも懸命にそれに応える。



「わたしも、わたしも誓います。ずっとずっと一緒にいることを…………」



 そこで長い長い道のりを経て、わたしは彼の名前を呼んだ。




「――――――――と一緒にいることを…………………………………」





 最後はやっぱり、こうでなくちゃ。だって、わたしはこの物語の「ヒロイン」ですもの。



拙い文章だと思いますが、お読みくださって有難うございます。

この作品は正直お恥ずかしいストーリーなんですが、まずは短編を書いてみようという意気込みで投稿させていただきました。

「彼」のズレた所は気に入っているので、もうちょっと長いお話の中で動かして見たい気もありました。

ただ、恋愛のお話はかなり苦手なので、これから精進していきたいと思います。

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