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異世界転生した赤ちゃんに物申す

作者: 柚好

 

 よくさ、転生したら赤ちゃんでしたっていうやつあるだろ。あいつらさ、赤ちゃんっていうものを全然分かってないよな、マジで。


 だって、産まれたばかりの赤ん坊がしゃべるか普通?はいはいするの早すぎねぇか?


 首すわってない赤ちゃんなんて、抱っこするのにも神経使わなきゃいけないんだぜ。首がすわるのは大体4~5ヶ月な。これ試験に出るぞ。首がすわってなきゃ寝返りもうてねぇんだよ、普通は。


 そんな訳で、4ヶ月は動くのは我慢しろ。寝返りもうつな。寝返りは、大体6~7ヶ月ごろだな。頑張って寝返りをうとうと頑張ってる赤ちゃんめっちゃ可愛いから、機会があったらみてみ。


 一人座りが出来るのが8~9ヶ月ごろで、はいはいが9から10ヶ月ごろ、つかまり立ちが10~11ヶ月ごろ、一人歩きが1歳3ヶ月くらいだ。


 この成長過程を見るのが、親や周りの人たちのの楽しみなんだよな。ビデオに残しておきてぇくらいだ。


 まぁ、これは大体目安で、成長には個人差があるからなんとも言えねぇんだけどな。早い子は早い。


 こうしてみると、いかに転生者どもが異端か分かるだろう。あいつら、生後1ヶ月ではいはいしてんからね。ばかじゃねぇの。


 あと、赤ちゃんのくせして泣かないやつ。これ、アウトな。赤ちゃんは、泣くのが仕事だから。全く泣かない赤ちゃんなんて居ないから、普通は。


 腹減ったら泣け、眠くなったら泣け、さみしくなったら泣け、何にもしてなくても泣け。





 ――というわけで、俺は泣く。


「うぅ、おぎゃあぁ、おぎゃぁぁ」


「はいはい、御飯ですか、アラン様」


 ・・・違う。トイレのほうだ。大人の尊厳はどうしたかって?そんなもんねぇよ。だって、子どもだし今。



 ちなみに、アランというのは俺の名前で、どうやらお金持ちの家庭に産まれたらしい。父親と母親はいまだ見ておらず、このメイド――ミーシャというらしい――が俺の世話を焼いてくれている。


 そして俺は、産まれてから大体9ヶ月が経とうとしていた。ここまで長かったな。


 まぁ、今は絶賛つかまり立ち練習中だ、表向きは。本当はとっくに歩けるんだけどな。たぶん走れるし。転生者特典なのかね。


 それと、この世界の言葉は日本語とは違うようだ。ミーシャは赤ん坊の俺にいつも話しかけてくれるため、言葉は既に覚えている。まぁしゃべらないけど。だが、まったくしゃべらないという訳ではない。意味のある言葉は言わないだけだ。


 え、言葉の発達過程の目安も聞きたいだって?しょうがねぇな。


 そうだな、3ヶ月ごろには「アー」とか「ウー」だの意味のない言葉を言うようになって、大体1歳~1歳半に「ママ」だの「パパ」だの一語文をしゃべるようになる。1歳半~2歳ごろには「おそと、いく」など二語文がみられる。2歳を過ぎるころから語彙数が増えて、2歳の後半には「これ、わたしの、おもちゃ」みたいに多語文が出てくる。2歳になると、一気におしゃべりが上手になるんだぜ、それまでおしゃべりは我慢だな。


 え、なんでこんなに詳しいのかって?そりゃ、俺が保育士目指してたからに決まってんだろ。あと、姪っ子もいたしな。


 夢の半ばにして死んじまったみたいだが、新しい生を得られたんだからまぁよしとしよう。




 さて、俺は9ヶ月の赤ん坊になったわけだが、そろそろミーシャの名前を呼んでみようかなと思っている。多少発達が早いということで、いいだろう別に。誰だって、自分の名前が呼ばれたら嬉しいんだよ。


 いつも世話してくれているミーシャに俺は何も返せていない。せめて、名前を呼んでプリティーな赤ちゃんフェイスをプレゼントしてやろう。



「みー、みーちゃ」


 どうだこのあざとかわええ感じ。


「アラン様、ようやくっ、よく頑張りましたね。はい、ミーシャですよ」


 ミーシャが感極まって泣いておる。成功だなこりゃ。

 そんなこんなで、俺の赤ちゃんライフを過ごしていた。



 *****



 今日は俺の1歳の誕生日だ。一人あるきしているし、言葉はあまり話さないが、理解してますよ的な雰囲気を出しておいた。


 地球にいた頃だったら、少し発達の早い賢そうな子どもという位置づけになっただろう。


 ミーシャとの仲も良好だ。しかし時々ミーシャは悲しげな目で俺を見てくるときがある。もしかしたら、両親が俺に会わない理由があるのかもしれないな。あったこともない両親なんぞ、どうでもいいけど。


 多少の違和感はあったかもしれないが、普通の子どもになるよう心掛けていたため、異端ではないはずだ。



 そんなことを考えていたら、ドアから男が入ってきた。


 ――なんだ、あの男。おでこに角が生えてやがる。背中からは黒い羽?



 そこで俺は初めて気が付いたのだ。もしかしてこの世界って、めちゃんこファンタジーな世界なんじゃね?と。


 産まれた当初は魔法とかあるのかなって考えていたけれど、ミーシャは魔法を使うことはなかった。見た目はただの人だったし。


 それに、火を付けるにしても薪を使ってたし、水を出すにも井戸から汲んでくるっぽかったし。だから俺は魔法なんてない世界なんだなと思っていた。もしくは、一部の者しか使えないとか。



 俺は考えてもいなかったのだ。自分が人間じゃないなんて。角も羽もないけどな。


 不思議なことに、目の前の男性が自分の父親だということに直ぐに気が付いた。そして、こいつが俺の誕生日を祝ってくれに来たわけではないことも直ぐに分かった。



「角も羽も生えていない出来損ないが。しかも知能も低俗で1歳になって話すこともできないとは。1歳であれば、大人と同程度の扱いになるのだが、排せつすらメイド任せとは信じられん。今日を持ってディアル家を名を名乗ることは許さん。この恥さらしを追放しろ」


 え、知能が低俗だって。俺の今までの努力という名の、大人の尊厳を放棄したことは意味のなかったことだったのか。


 最近では出る前に教えてるわ、ちきしょう。1歳だけどトイレトレーニング始めてるわ、ちきしょう。まじかぁ。だれか教えといてくれよ。馬鹿みたいじゃんかよ、俺が。1年で大人と同じようになるって分かるわけないだろ。




 えー、おかげさまで、私アランは1歳の誕生日に追放されることになりました。



 拝啓、赤ちゃんに転生したというやつらへ。


 どうやら、世界が変わると赤ちゃんの常識も変わるらしいよ。立って歩けるならさっさと歩けということだ。トイレ行けるなら自分で行けってことだよ。


 異端でもいいじゃん。天才ってことでつきとおせば。1歳で大人になったくせに、トイレもできない野郎という烙印を押されるよりはなっ。



 そんなこんなで、俺は森に捨てられた。殺されなかっただけよかったのかもしれん。


 しっかしまぁ、1歳で大人になるとはな。将来は保育士になっておむつ用品とか開発しようと思ってたんだけどなぁ。おむついらねぇな。


 専門的な知識もこの世界じゃ一切通用しないことが分かった。これからどうやって生きていけばいいんだよ。将来は子どもに囲まれて生きていこうと思ってたんだけどなぁ。



 ――そうだよ、子ども産めばいいんじゃね?違った、子ども産んでもらえばいいんじゃね?


 可愛い奥さんに可愛い子ども、幸せな家庭を築く。これだよ、俺の人生捨てたもんじゃねぇな、まだ1歳だし。


 そうと決まったら、まずはこの世界の常識を調べるか。これ以上元の世界の常識にとらわれて失敗するのも嫌だしな。



 *****



 俺は16歳になっていた。今日が誕生日だ。


 え、時間飛びすぎだって?知らねぇよそんなもん。


 1歳になって森に捨てられたが、森に棲んでいる爺さんに拾われて、なんとか生きていけた。


 そこでこの世界の常識を教えてもらったのだが、この世界には人間と呼ばれる者は滅びてしまったらしい。すこし悲しい。


 魔族が支配する世界で、俺が生まれたディアル家は魔界四天王の一角を担っているらしい。とりあえず、四天王なにそれ、ぷぷっと笑っておいた。決して負け犬の遠吠えとかではない。



 俺みたいに角や羽が無い者は、立場が下に見られるらしい。ミーシャも最初は人間かと思っていたけど、どうやら俺と同じような体質だそうだ。だから、俺みたいな出来底ないの世話係をやっていたんだってさ。



 ちなみに、ミーシャは俺が捨てられてから1年後くらいに、俺のことを見つけてくれた。ディアル家のメイドを辞職し、この1年間ずっと探し続けてくれていたらしい。


 そんなこんなで、俺は今もミーシャと2人で小さな村で暮らしている。爺さんはこの村の村長だったらしく、ミーシャが増えたことで家が手狭になったため、一緒に山を下りた。魔族は寿命が300年ほどあるらしいから、数年居なくてもなんともないんだってさ。



「アラン、誕生日おめでとう」


 目の前のミーシャが微笑みながら祝ってくれた。


 この世界では1歳と16歳の誕生日になるとお祝いしてくれる。一種の成人式だな。それ以降は年齢など気にせずに過ごすそうだ。



「いつもありがとうミーシャ、好きだよ。結婚してくれ」


 この世界の男は16歳の誕生日でプロポーズすることが多い。この世界の常識を学んだ俺に死角など存在しない。


 かつては1歳になっても下のお世話をしてもらっていた駄目な男だったが(決して変な意味ではない)、今度こそ間違えない。



「もちろんよ、アラン、私も愛していますわ」


 こうして俺の夢が一つ叶った。


 寿命が300年あるおかげで、ミーシャの姿は昔のまま愛らしい。もちろんどんな姿だろうとミーシャのことを愛す自信はある。


 産まれた時から俺の側にいてくれた大事な人。捨てられた俺を1年間も探し続けてくれた愛おしい人。ミーシャのいいところはたくさんあるが、俺だけが知っていればいい。という訳で他は割愛する。




 *****




 俺とミーシャが結婚してから数年がたった。


 可愛い男の子が産まれた。俺の目と鼻にミーシャの輪郭に髪の毛の色。俺たちの子どもだと一目で分かった。


 めちゃんこ可愛い。たとえ、1年で大人のように育ってしまっても、いつまでも俺とミーシャの子どもだ。



 子育て初体験だが、俺には自分が赤ん坊をした経験がある。もしかしたら同じように転生してきたという可能性も捨てられない。


 ――ひとまずこの世界の言葉と日本語で「愛している」と伝えた。


 それと、この世界の常識と、どんな成長をしようとお前への愛は変わらないことを毎日のように伝えた。もちろんこの世界の言葉と日本語でだ。


 生後10日目にして「みーちゃ」といったのは驚いたが、はたしてそれは発達の早いこの世界では当たり前のことなのか、もしくは転生者だからなのかはまだ分からない。



 しかし、これだけは言える。


 ――どんな変な子どもでも愛しているから大丈夫だと。安心して成長してくれと。




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