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雨音

息を切らす下松の足元にはガラクタ同然となったサイボーグが転がっていた。

下松の視界はノイズ混じりに乱れていた。


「かかりましたね」

「なっ……」


ヘンセイが呟いた。

下松が怯んだのも束の間で、その体は一気に羽交い絞めにされる。

絞めているのは、あの細身の男だ。

サイボーグの彼と沈黙を保っていた男。

下松は大きく舌打ちをした。

ダランドはサイボーグに成り、細身は自分を羽交い絞めに。

これこそ奴らの罠である。

自分はまんまとひっかかったのだ。


「このガラクタは囮か」

「失敬な、ワイテナイ君は私たちの同士ですよ」

「何だそのふざけた名前は」


下松はヘンセイと目線を合わせて会話する。

ヘンセイ、巨漢の男。

黒光りするその褐色の肌と形のいい筋肉が否応なしに迫力を伝えている。

だが下松は怯まなかった。

自慢の脚力を利用し、後ろに跳ね上がる。

同時に壁に細身の体を強打させ、

拘束を抜けるとククリナイフを取り出した。

ナイフを見て硬直した細身の隙を、下松は見逃さない。

下松は壁を蹴って加速し、細身の片足を切り飛ばした。


「まぁ!」

「あのてくてくが一瞬とは」


どのあたりが"あの"なのだろう。

それにしてもふざけた呼び名だ、と下松は苦笑した。

サイボーグの体を切るのには思う以上に力が必要らしい。


「それにしてもお前らまで奴らの一味とはな。

 ダランドはどこだ? ここの様子でも見てるのか?」

「ボスはスリルが好きなんですよ」


質問の答えは素っ頓狂なものだった。

ヘンセイ達はいたって冷静で、焦りの欠片もない。

下松は眉間に力を込めた。


「もうお前はいい、そこの女、答えろ」

「ボスはあなたが嫌いなんですよ」

「ボスは自分より弱い人が好きなんです」

「だからボスはあなたをここに招いた」

「なに?」


疑問が下松を襲った。

この屋敷に来たのは確かそう、山峰の合図があったからだ。

俺たちは奴から今回の指示を受けた。


『ルドルフの知人と合流し、この場所にあるディマーリの本拠地を叩け。

 自分達は奴らの主戦力を引きつける』


そういった旨の作戦だ。

そういう……作戦?

だがこの作戦には始めから疑問があった。

戦力の分担に偏りがあり過ぎる事だ。

タジヒット最高峰の実力を持つ自分はともかく、敵の本拠地を叩くのにいくらなんでも寺崎たちのような新人を部隊に組み込むのはどうか。

そういう、疑問。

だが皆も山峰の意見なら、と。

俺も承諾した。


山峰の意見なら――。


「まさか……」

「ボスは丼が大好きです」

「ボスは雰囲気を一番に考えます」

「まさか、芳本たち……」


屋敷の庭に木枯らしが吹いた。

隠れた太陽を笑うかのように、庭には雨が降り注いだ。

雨脚は、増すばかりだった。


『無人の東京』


煤けた臭いと、それに混じった鉄の香りが都市を埋め尽くしていた。

鉄筋のビルは崩れ、支柱は粉々になり、雨音以外に鳴る音は瓦礫の潰された芳本が呻く声だけだった。

漏れ出した血が、アスファルトを染めつつあった。


「ぐっ、うう……」

「苦しそうだな芳本」

「……当たり前だよ山峰、なんせ片腕が、右半身が潰れちまってる」

「ジューシー焼肉丼も作れないな」

「ああ、俺の十八番だ」

「お前の実家の定食屋も継げないな芳本」

「親父は怒るだろうな、母さんは泣くかもしれん」

「そうだな芳本、そろそろルラーリの場所、教えてくれないか」

「ところで山峰」

「雨音って雨の降る音か、雨が地面に当たる音か、どっちと思う?」



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