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殴打

屋敷の中も、やはり吸血鬼の屋敷さながらだった。

下松はブラム・ストーカーの著作『ドラキュラ』を連想した。

どこか荒廃美を思わせる屋敷の雰囲気に下松は息を飲んだ。


ここがディマーリの本拠地。

叩き潰すべきは奴らの機関と書類、あとはこの屋敷全体だ。

それさえ潰せば奴らは面目を無くす。

無駄に多い心棒者共も自然と解体の方向へと傾いていくだろう。


「此処に来るのも久しぶりですね」

「そうね」


ヘンセイとアリィが呟いた。

先ほどから声を発するのはこの二人だけだ。

二人の後ろを歩く細身の男と、見かけからサイボーグの……男なのだろうか、それは分からない――は黙って歩いている。

彼らはディマーリから逃げ出した被験体だった。

下松は郷愁にでも浸っているのだろうと嘆息した。


屋敷は広かった。

ダンスホールには錆びたシャンデリアがあり、

テラスからは天を突く木々が見渡せた。

しかし、ディマーリの姿が見えない。

ここは単なるトマソンと化した城でしかない。

見る限りは古ぼけた屋敷でしかないこの場所は、本当に奴らの本拠地なのだろうか――?

下松の頭に一瞬の疑問が浮かんだ時、事は起こった。


「哀れな小僧だ」


下松はその場から後方に跳躍した。

冷や汗が、頬を、腕を、脚を伝った。

声を発したのはディマーリの長、ダランドだった。

下松は今まで全く気付いていなかった。

声を聞いてようやく気付いた。

声を聞くまで気付かなかった。

下松は自分を恥じた。

タジヒットで最速の反射と察知能力を持つ自分が他人の気配を察知出来なかった。


「ダランド、貴様いつからそこに」

「君たちは哀れな屠所の羊だ、家畜には人が付いてるものだよ」


迷っている暇はない。

下松は会話を始めるフリをして背中からメイスを取り出した。

メイス――鎚矛などと訳されるそれは鈍器だ。

棍棒よりも激しく相手を攻撃出来る、それに下松程の実力者ならば生かすも殺すも当人次第。

下松は超人的な脚力でダランドの目の前まで翔けた。


「ダランド!」

「ぐぁっ!」


メイスが顎に命中した。

下松は思った。

好機だと、またこんなものか、とも思った。

所詮戦場に出ない上官の戦力などこんなものだ。

先ほどのは偶然だ、この俺がこんなおっさんに負ける訳がない。


「うぉおおおお!!」


下松はダランドを攻撃し続けた。

メイスを振り下ろす度にダランドの体が上下した。

下松は息を切らして殴打を繰り返した。

夢中になって殴打した。

メイスで殴るその感覚は、硬かった。


「硬い……だと?」


下松の視界にダランドは居なかった。

彼の足元に居たのはルドルフの知り合い達の内の一人――、

あの見かけからサイボーグの彼だった。


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