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酔歩する山峰

髪の毛の様な亀裂が瓦礫を走っている。

ふと山峰は思う。

コンクリートから髪の毛が垂れたらさぞ見苦しかろう。

視界はゆらゆら揺れた。

違和感は消えなかった。


山峰のホワイトリストに記載されていた下松の名をかき消される。

下松、下松、不快な男。

芳本の様な人気者でもなく、自分の様な日陰者でもない。

何処かに影を背負った感じの野生味溢れる実力者。

そんな雰囲気を纏わせている。


「ああっ」


山峰の歯がガリッと音を立てて欠けた。

勿論、下松には壮絶な過去も凄惨な体験も無い。

影を帯びた雰囲気はあくまでパーソナリティの範囲であり、下松には特筆すべき原体験は無かった。

それでも山峰は気に入らなかった。

歯軋りはその音を増し、山峰の足元には白い欠片が散乱した。

山峰は笑った。

転がる歯の欠片が幼い日に飼った白蟻に似ていたからだ。

今日は心からよく笑う日だと山峰は思った。


「ルラーリは、渡さん!」


下松は駆けた。

片手にはククリナイフを携える。

今し方発した台詞に疑問を抱いたが、それはすぐに忘却した。

下松の視界には最早山峰しか映らなかった。


ククリを振り抜く。

山峰は千鳥足を思わせる足捌きで軌道から逸れた。

勢いに任せて振り抜いたが下松は次の攻撃を怠らない。

回転をしながら後ろ蹴りに繋げる。

腕を交わして蹴りを受けたが山峰の体は吹き飛んだ。

筋肉の質や体の使い方に差があり過ぎる。

山峰は瓦解した瓦礫を踏み越えて、路地に逃げ込んだ。


「待て山峰!」


山峰の後を下松が追う。

可笑しくなった。

無性に可笑しくなった。

あの下松が今は目の色を変えて自分を追っている事実が。

山峰の腕は軋み、足は痛んだ。

それでも山峰は可笑しさを抑えられなかった。

吊り上がった口角は鼻の高さを超えてるんでは無いのかと思った。


「付いてきな、下松!」


下松が投げたククリが空を切る。

山峰は跳んだ。

ガードレールを跳んだ。

下松の目に山峰の体が歪んだ景色に吸い込まれるのが見えた。

無人の東京に来る際に感じた歪みに似ていた。


下松は舌打ちして、歪んだ景色に身を投じた。


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