親愛なる寺崎の睡眠
感情のさざ波が揺れ動く。
下松は風を切って走っていた。
景色は岩肌の露出した草原からむさ苦し気なビル街へと変わっていた。
岩に頭を打ちつけて騒いでいた寺崎も今は沈黙している。
下松は少し心配した。
「平気か寺崎」
「平気じゃないYO、死んでしまうYO」
意外と元気だと思い下松は速度を上げた。
運良く生き残ったとはいえ、寺崎は新人だ。
下松の中では新人とは一般人を示す記号と同義だった。
守るべき対象であり、交流すべき対象でもある。
故に下松は走った。
記憶は未だ甘い攪拌に揺らめいている。
吐き気を催してはいるが、寺崎の手前、吐いてる場合ではない。
取りあえず芳本達が危険なのだ。
そうなのだ……。
「顔色が悪いYO、下松さん」
「それはきっとお前が重いからだ」
「じゃあ走らせて欲しいYO」
「お前が走るより俺が引く方が速い」
ビル街は徐々に廃墟の体を為し始めた。
崩れる瓦礫。
突き刺さる鉄骨。
横たわる……人形。
……ではない、あれは、人間だ。
「滝川! 高山! あっ、ああ……」
寺崎が走り出した。
瓦礫に混ざった同志の体に手を触れる。
顔は蒼白だった。
「く、くそ……!」
寺崎はシャベルを取り出すと地面を掻き始めた。
かきん、かきん、とアスファルトとシャベルの擦れる音が反響する。
振りかぶり、弾かれる。
寺崎の行動が下松には理解できなかった。
「寺崎、お前何を……」
「弔うんです、弔うんです。
穴を、穴を、穴を掘らなきゃ」
「…………」
「穴を掘らなきゃ、穴を掘らなきゃ、穴を掘らなきゃ、穴を掘らなきゃ」
寺崎は繰り返した。
シャベルはポロポロと欠けた。
寺崎の耳から血が流れたかと思うと、シャベルが手から離れた。
寺崎は動かなくなった。
「山峰、いやダランド……」
下松は感じた。
頭の中に冷たいガラス菅を入れられ、掻き回される。
グルグルと回される。
脳が固体からどろどろの液体に変わるまで。
グルグルと回される。
これが山峰の介入なのだ。
これが山峰から俺達への攻撃なのだ。
下松の視界の奥の、更に奥。
そこに山峰が映った。
今度は偽物でも何でもない、正真正銘の山峰悟。
山峰は笑っていた。




