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実家継承不可

踏み躙られたのは芳本の仲間だった。

またそれは同時にそれは山峰の仲間だった。

渇ききった血の上に新たな鮮血が舞う。

芳本は思わず口元を塞いだ。

山峰は依然として笑顔だった。

その瞳は余りにも澄んでいて、そこに映っているのが芳本だけだということは誰の目にも明らかであった。

仲間の屍を踏み越えた事は山峰の中では蟻の行列を踏み越えた事と同義に違いなかった。


「まだ残っていたのか、我が名はシャビックデモ」


デモンの声は途中で途絶えた。

芳本の目には半壊した馬の機械と横たわった鎧が映っていた。

理解が出来なかった。


「な、このデモンが何故……」

「誰がルドルフを始末しろと言った」

「ルドルフはルラーリの在り処を知ってる内の一人だぞ」

「何事にもプランBが必要だとお前らのボスは教えなかったか?」


デモンの荘厳な顔立ちが山峰の言葉を重ねる度に崩れていった。

序々に疑問の顔に。

序々に恐怖の顔に。

いつしかデモンの顔には無数の皺が刻まれていた。


「……だ、ダランドさ」


デモンは無性に叫びたい衝動に駆られた。

目の前の男に恐怖を感じた。

目の前の男が端正な顔立ちをそのままに、怒りを内包している事をデモンは何よりも恐ろしく感じていた。

デモンは目から血の涙を流して意識を失った。


「山峰、いやお前は」

「お前が、ダランド……?」


山峰は笑った。

狂気の笑みではなく、バラエティー番組を茶の間で見ている時に思わず吹き出してしまった。

そんな笑いだった。


「そうだ芳本、俺こと山峰悟がダランドだ」

「嘘をつくな!」


芳本は態勢を立て直した。

両手に鉄製の棍棒を構える。


「貴様はダランド、だが山峰はダランドじゃない!」

「貴様に何か特別な能力があるならば、それは変身だ!」

「それで山峰に化けたな、許さん!」


芳本は唾を飛ばして叫んだ。

海鳴りのように響いた叫び声は無人のビル群を伝う。

喉が焼けて、掠れるような痛みが芳本を襲った。

だが芳本は叫ぶ事を止めなかった。

芳本はそのまま山峰に飛びかかった。


「うぉおおおバーストォ!!」


鉄製の棍棒をすり抜けた山峰が芳本の胸を突いた。

数瞬後に顎を肘で打ち、回し蹴りが芳本の鳩尾目がけて放たれた。

その体は無人ビルに叩きつけられた。

目の前で火花が散る。

そんな火花の中、芳本の目で辛うじて捉えられたのは崩れゆくビルだった。

それは今しがた芳本の体が叩きつけられたものだった。

芳本の体がビルを崩壊させたのだ。

瓦礫の雨粒の先に倒壊するビルの上半分が見える。

それが芳本の半身目がけて落ちてくる。


芳本が思ったのは

これはもう実家継げないな、という事だった。


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