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どこからか声がした。男性で、重みのない若そうなー物腰は20代前半あたりを連想させる。しかし朱音は、声に驚くというより落胆の色を濃くしていた。せっかくここまで落ち着けたと言うのに。ゴールかと思ったのに。
「今度は何だよ・・・・・・!」
思わず本音が出た。まったく、さっきまで感慨にふけっていた時間は何だったのか。
「お?ずいぶん肝の座った女の子だねぇ。久々に面食らったよ」
「いや、面食らったっていうか、面を見せてよ」
言うと、その『声』はわざとらしい雰囲気で「あちゃ~」と大袈裟にため息をついた。朱音のコンディション的には、これ以上面倒臭い出来事はごめんだ。こんなところで夫婦漫才みたいな茶番をするより、死んでいるなら死んでいるで、とっとと事を済ましてほしいのである。
「痛いとこ突かれたな。まっ、いっか。とりあえずそういう・・・・・・何て言うんだ?顔とか名前とか住所とか結婚歴とかスリーサイズとか、プライバスィーっぽい質問には答えられないんだわ。ごめんね」