第八話 全裸
何だよ……今の声は。
俺は元の場所に返したんだぞ?
何が悪い。言うだろ、拾ってきた場所に戻してきなさいって。
「もう……置いて行かれるのはいやよ……」
今にも泣き出しそうな声に俺は未だに背を向けている。
このまま走り出す事も出来る。
そうだ。
俺には用事があった。
早く帰らないと。
俺は背を向けたまま走り出す。
「私を置き去りにして勝手に死ぬなんて許さないんだからぁ!」
背後から足音が聞こえる。
ホラーすぎだろ!
更に走る速さを上げようとした時だった。
俺は背中を蹴られ盛大に転んでしまう。
痛え! あ、ズボンに穴空いたし!
「なに逃げているのよ。アンタが悪いんでしょこの私を置いて勝手に死ぬから」
俺の目の前に居る赤色の髪に黒い瞳の少女。
だが少女の格好に俺は言葉を失った。
全裸だった。そう、真っ裸。
「さあ、何とか言なさいよ。アシヲス!」
俺の腹に馬乗りになり、胸ぐらを掴んで顔を引き寄せて文句を言う少女。
えーと。
これはジロジロ見ていい物なのか?
それとも目をそらしていたほうがいいのだろうか……取り敢えず――目のやり場に困るんだが……
「えーと。
何か勘違いしていないか?
俺はその、アシヲスとか言う人じゃ……」
「ふん。
下手な変装して私の目が誤魔化せると思っているの!」
いや、本当に違うんだけど……
どうすれば納得して貰えるんだ?
と言うか離れてくれ――いや、離れなくてもいいけど。
少しは恥じらってくれ。
二つの果実が揺れているんだよ。
俺は上着を脱ぐと少女に突き出す。
「ごめんな。
取り敢えずコレを着てくれ。目のやり場に困る」
「ん? ひあァァ!!」
あ、可愛い悲鳴。
俺の手から上着をひったくると素早く袖を通す。
顔が真っ赤だ。
余程、恥づかしかったんだろう。
まあ、納得だが。
「えーと。君は誰?」
少女は答えない。
俺はどうしたらいいんだ。
取り敢えずこうしていても始まらない。
寮に帰ればなんとかなるか。
俺が歩き出すと少女も跡を付いて来た。
俺の後ろを三歩下がりくらいで。
俺はどうしたらいいんだろう。
こんな所を知り合いにでも見られたら……
「あ、マサツグちゃんが特殊なプレイをしている!」
絶対サラなら言うな。
これは間違いない。
兎も角、急いで寮まで走り抜けよう。
全速力でこの子を抱えて俺の部屋まで連れて行ければミッションコンプリートだ。
「そういう訳だから、ちょっと我慢してくれ」
「え? 何に……」
俺は少女に近寄ると抱え上げた。
お姫様抱っこだ。
「首に腕を回してくれ」
おずおずと言った感じもあったが、素直に言う事を聞いてくれて助かる。
後は全速力で寮まで帰るだけだ。
「少しこの部屋で待っていてくれ。
すぐに着替えを持ってくるから」
そう言い残し部屋を後にする。
レスニアさんに相談して見るか、でもなんて言おう。
いきなり全裸の少女が現れ俺に掴みかかってきた――とでも言うのか?
うーん。どうしよう。
「どうされましたか? 正嗣さん」
「マサやん、なんか失敗しなのか?」
「あ、二人共お帰り」
別に失敗なんかしてねぇよ。
お前じゃねぇからな!
いつの間にかミリヤとスーヤがいた。
制服姿ではなく、メイド服を着て居る。
え、もうそんな時間か。
ルスティーナも帰って来ているのではないか?
「あのさ、もうルスティーナは帰って来たか?」
これは聞かずには居られなかった。
だって、クッキー焼いてないだもん。
明日もお会いしましょう。