第七話 王剣・リフィア
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入学に関する書類を書き終えた俺は学長室を後にした。
それにしても特待生か……いい響きだな。
特待生となれば扱いが違うそうだ。
学園に必要な物は全て学園側から支給される。
無一文な俺には渡りに船と言うことになるな。
普通は筆記試験や入学費用とかその他諸々の費用が掛かる。
それも莫大な金額だ。
学園長の話では郊外に大きな一軒家が建つとか言っていた。
幾ら何でも高すぎ。
幾ら貴族でも払えないじゃないか?
そんな事を思っていたが、学園長の一言でそんな思いは消し飛んだ。
「王族、貴族には才能の欠片もない者や努力や鍛錬を嫌う者多くて困っておるくらいじゃ。
それでは才能は伸びるわけもない。
その上親の権力を自分の権力と勘違いしとる馬鹿者もおる。
これは迷惑料じゃよ」
才能や特殊な能力を持った者ならアグネスを見つける事は容易いだろうな。
俺にさえ見つける事が出来たんだから。
まあ、俺の場合は少し違う流れだったけど。
さて、今度は帰ってクッキーを焼かないと――あ!
学長室にあったクッキー少し分けて貰えば良かったんじゃないか?
そうすれば俺は自由時間を手に入れる事が可能じゃないか!
よし、もう一回学長室に引き返そう。
「もう……いい加減に機嫌を直せよ!
いつまで拗ねているつもりだ!」
いきなりなんだよ。ビックリするだろ。
学生同士の喧嘩か?
それなら止めないといけないだろうな、取り敢えず行ってみるか。
俺は靴を履き替えて学園を後にした。
俺は声のしている場所をすぐに特定した。
声は記念碑の横にある石段に刺さる一振りの剣――王剣のある場所からだった。
薄汚れ、穴の空いた茶色のローブを頭から被って居るやつが石段に刺さっている剣に語りかけていた。
その声からは必死さが伺える。
よほど切羽詰っているようだ。
「もう……あの方が亡くなられて六十年だぞ。
そろそろ自分を許してもいいじゃなか」
だが、剣は一言も言わない。
当たり前だ、剣だもの。
かれこれ二十分くらいはそうやって剣に話していた。
だがついに感情が爆発する。
「おい、いい加減なんとか言ったらどうなんだ! リフィア!!」
いきなりそいつは石段に刺さっている剣を蹴り飛ばした。
鈍い鉄の音が辺に響き渡る。
「いつまでもそうして拗ねて居ればいい!」
そう吐き捨て、剣に背を向ける。
丁度、真後ろにいた俺に驚きながらも足早に校門の方へ歩いて行った。
それを見送りながら、俺は石段に刺さる剣の方へ近づく。
この剣の前に来るのは始めての事だが、並ぶ生徒の気持ちや心境がよくわかる。
抜けそうな気がする。
この剣の前に立つと何でもやれそうな気がするんだ。
刀身には靴の跡がくっきり残っていた。
先程蹴られた跡か、綺麗な剣なのに。
俺はハンカチを取り出して、その跡を拭き取る。
「これでいいか。そうだ。試しに抜いてみるか」
せっかくだしな。
多分こんな機会がなければ俺がここに立つ事もなかっただろう。
俺は刺さっている剣に手を伸ばす。
両手でしっかり掴み、足を踏ん張ると力を込めた。
「オラァ――!」
最初、手が滑ったのかと錯覚してしまう。
それくらい簡単に…………剣は抜けてしまった。
なんの抵抗もなく抜けた剣。
その力の反動はそのまま俺に返ってくる。
俺は石段から転げ落ちた。
あちこち痛いが、それより大変な事になってしまった。
何が大変かって、俺がこの国の王になるための剣を抜いてしまった事だ。
いつか居なくなってしまう人間がおいそれと王になるなんて無責任すぎる。
慌てて辺を確認する。
右よし、左よし。
俺は急いで起き上がり、抜いた剣を元あった場所に刺し直した。
これで厄介事から回避する事が出来る。
「悪いな。俺は王に何か興味ないんだ。
だからもう少し待ってろ誰か――そう、俺以外に誰か抜いてくれる人が必ずいるはずだから」
俺はこの事実をなかった事にした。
これで証拠隠滅の完了だ。
無駄に時間を使っていしまったな。
急いで帰ろう。
「行かないで……」
背後から声が聞こえた。
弱々しく今にも力尽きようとしているような……か細く頼りない声音。
俺は振り向くかどうか躊躇してしまう。
また明日お会いましょう。