第六話 やっぱ入学します
「魔神憑きとはな、たまに天上界を追放された神が地上に堕ちてくる事がある。
それが人に憑いた状態の事を言うのじゃ」
「なぜ人にとり憑く必要があるんだ? 仮にも神なんだろ」
俺は神様なんて信じないけどな。
信じたとしてもその人間が救われるだけでその他大勢が救われるわけじゃない。
勝手に自分だけが救われるんだ。
もし、本当に神様がいるなら俺は両親を失っていないはずだし雅代さんも彼氏を失う事もなかっただろう。
だから、いまさら神様を崇めようとも思わない。
「まあ、もっともじゃな。
だが、天上界とやはり地上は環境が違うという事じゃろ。
堕ちて来た神は数時間で消滅すると言われている。
故になりふり構っていられないと言う事じゃろ」
なるほどな。
神だが死んでしまえば意味がない。
その奇跡の力も失い、存在自体も失うなうくらいなら人間にでも憑いて生きながらえた方がましだと言える。
「魔神は人に憑く前までは神じゃ。
だが、人にとり憑いた時点で人の持つ悪徳に汚染され魔神になってしまうのじゃ。
魔神に成ってしまうと後が大変じゃなんせ曲がりなりにも、人が神の力を振るうのじゃからな」
「おいおい、それは最悪じゃねぇか?」
悪徳。人ほど欲望に忠実な動物は居ない。
暴食、色欲、強欲、憂鬱、憤怒、怠惰、虚飾、傲慢この七つの大罪は人が必ず持っている感情で一つに片寄る事もその一つが抜け落ちる事もない。
これらは人を形づくる上で決して欠かせない物だ……
だが、人は感情にまかせ行動する時がある。
そう本能に従う時だ。
「赤い髪に浅黒い肌、その双眸は紅く澱んでいおる。
それが普通の人間と魔神憑きとの見分け方じゃ。
魔神憑きは魔人と呼ばれる。
魔人は食事を取らない。変わりに魔力結晶を吸収して魔力の回復を行なうのじゃ」
「魔力結晶?」
聞いた事のない言葉だ。
あれか、ゲームとかである魔力回復薬みたいな物なのか?
「魔力と言うよりも生命力を奪うと言う方が近いかもしれん。
なんせその魔力結晶の材料は人や動物といった生命体だからじゃ。
更に言うならば魔神憑きとなる人の多くは屍人じゃ」
おい、なんだそりゃ……
魔人と呼ばれる奴らの容姿を聞いて流石に気づいていたが、この世界にも奴らが現れるのかよ。
ふざけるな。
俺達はお前たちの餌じゃないぞ“ファルダ”!!
「どうした? 怖い顔をしているぞ、具合でも悪いのか?」
「いや、学園長。気が変わった入学試験を受けさせてくれ!」
一度は断ろうと思っていたが今の話を聞いて気が変わった。
俺は強くならないといけないからな。
元の世界に戻った時に自分が足を引っ張りたくは無いからだ。
「ハハハハ。活きのいい目になりおったな。
いいじゃろう。試験受けさせてやる――と言いたいところじゃがな」
「何だよ。金がいるのか? 生憎、俺は無一文だぞ」
そうだ。
俺はこの世界の金を一銭も持ってない。
やべえな。
「金はいらん。お前はもう試験をクリアしておるからな」
は?
今なんて言った?
試験は終わっているだと!
いつだ。
「俺をからかっているのか?」
疑うのも当然だ。
俺は試験を受けた覚えすらないのだから。
「試験はコイツを見つける――
いや、コイツと話すことが出来れば合格となるのじゃ」
コイツ?
俺は学園長の指差す先にいるアグネスに視線を向ける。
アグネスはオレンジジュースを飲んでいた。
おい、俺にはないのかよ。客だぞ?
「何でこんなガキを見つけるのが試験何だよ。
やっぱり俺をからかっているのか」
「コイツはこの学園にある三本の内の一振りアグネスじゃ」
三本ある内の一振りって事は……まさか!
「王剣なのか?」
「そうじゃ。
王剣は資質のある者にしか見る事も話す事も出来はしないのだ。
これほど試験として使える物はないじゃろ?」
なるほど。
俺がコイツに話をかけた時点で俺は入学許可が下りたも同然だったのか。
「来年度……と言ってもあと二日で新学期が始まるがそれでいいかのー」
「ああ、構わねぇよ」
俺は二日後にはこの学園の生徒になる事が決まった。
成り行きだが、少しでも前進であると思いたいぜ。
明日もお会いしましょう。




