第四十一話 あれから三週間
また朝が来た。
鬼コーチ・リフィアの特訓を受け始めて三週間が経過しようとしている。
ここ最近の俺の日課となりつつあるこの魔力訓練。
俺は朝の四時から朝食の六時半までこの訓練をして、
その後学園にて授業を受け、
四時に帰宅して日が暮れる六時くらいまで鍛錬を行い、
七時からこの世界の歴史の勉強を九時くらいまでやるとようやく風呂に入り、
ルスティーナに挨拶をして寝る。
そんな生活を続けている。
リフィアのお蔭もあり、駄々漏れだった魔力は何とか抑える事が出来ている。
その訓練方法は魔力障壁を常に展開する。
という物で魔力の扱いに慣れていない俺は、魔力障壁を展開するのに通常の倍に当たる魔力を消費しているらしい。
お蔭で毎朝魔力を使い果たし、倒れそうになるほどである。
そして今日から行われるのが、魔力障壁破壊の訓練だ。
「さて、マサツグ。
今日から待ちに待った障壁破壊の訓練よ。
と、その前にこの飴ちゃんをアンタあげるわ。
さあ、口を開けなさい」
リフィアがポケットから取り出したのは、ピンクの包に包まれた飴だった。
茶色い飴玉を包から取り出すと一つを自分の口に運び、もう一つを俺の口に押し込んだ。
甘いような苦いような……
感想に困る味の飴。
捨ててはいけないのだろうか?
「何だこの飴……不味いな」
「煩いわね。
そんな事より障壁を展開しなさい」
俺は言われた通りに、魔力障壁を展開する。
もはや慣れた作業の一つだ。
しかし、この時は違っていた。
展開していた魔力障壁がグニャリと歪み、俺の周りから離れていく。
なにが起こっているんだ?
離れて行った魔力障壁は茶色の人形となり、俺に木剣を構えている。
「え、なにこれ?」
「そいつはドロップライナー。
アンタが舐めた飴の正体よ。
そいつは舐めた者の潜在能力値を元に生成される魔法生物で障壁破壊を訓練するにはうってつけのしろものよ」
リフィアの横にも同じ茶色の人形が立っている。
「いい?
コイツは魔力障壁を媒体に作っているから障壁破壊で無効化させることが可能なの。
見てなさい」
リフィアはドロップライナーから少し離れると向かい合う。
そして、剣を構え前に出た。
二人の剣が打ち合う事はなく、ドロップライナーは一刀の元斬り捨てられる。
一瞬で片が付いた。
「このように、簡単に無効化する事が出来るのよ。
さあ、やってみなさい」
「え、コツとかないのかよ」
「コツね……こう、剣にバチバチっと魔力を流して、ドロップライナーに当たる瞬間にズドッと展開させるのよ」
ゴメン。
お前に説明を頼んだのが悪かった。
そう、リフィアは説明が物凄く下手くそだ。
それはこの三週間で嫌というほど分からされている事だった。
魔力を押える時もアバウトな説明で障壁の時も意味がよく分からなかった。
コイツほど教師に向いていない奴はいないだろう。
まあ分からなかったら、ルスティーナやヤザフに聞いているから問題はないがな。
この世界の当たり前の事を当たり前に出来ないからが悪いのだが。
俺はドロップライナーと向き合い、剣を構える。
構え方もそっくりだ。
「では、始め!」
リフィアの声にドロップライナーが反応して、前に飛び出してきた。
俺はそれを正面から持っている木剣で受け止める。
ドロップライナーは攻撃の手を休めない。
連続で木剣を振るい俺のガードを崩そうとしているようだ。
「受けるな。
さっさと無力化しなさいよ!」
「そんな余裕が今の俺にあると思うのかよ!
無理だっつの!!」
「防戦では勝てる物も勝てないわよ。
攻めなさい!」
剣での連打に加えて、足や拳が連打の合間を縫って飛んでくる。
それらを防ぎながら魔力を木剣に帯びさせ、そのまま振り下ろす――
しかし、突然視界が傾いた。
地面で無様に空を仰いでいる事に気が付くのに暫く時間を要した。
いつの間に足をかけられたんだ?
「おい、いつまで寝ているつもり?
そのまま攻撃を続行させるわよ」
「わ、わかっているさ!」
俺は飛び起き直ぐに構え直した。




