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第三十四話 力

『おい。桜花と言ったな。

 オレ様に力を貸せ』

『……嫌です。

 なぜマサツグでもない者に私が力を使わねばならないのです』

 手を桜花に伸ばすが、魔力の質や雰囲気の違いで俺でない事を見抜いた桜花はその手を叩き落とした。

 キッパリ言い切ったな。

『いいのか?

 ここでオレ様が死ねば弱嗣も死ぬことになるぞ』

 いやらしい笑い方をするな!

 俺はそんな笑い方はした事はないぞ!!

『どういうことですか』

『オレ様は弱嗣の体を共有している。

 つまりここでお前がオレ様に力を貸さずにオレ様が死んでしまえば弱嗣も死ぬぞ?

 それでもいいのか?』

『分かりました。

 マサツグの命が掛かっているのなら仕方ありません。

 貴殿の言うとうりにしよう』

『そうだな。まず元の姿に戻れ、そうしないとオレ様が直々に戦えないからな』

 桜花は不服そうな顔を浮かべ、暫くすると桜花の体が光に包まれ――

 桜花のいた場所に一振りの折れた刀が宙に浮いていた。

 桜花の本体。

 俺が創造したあの刀だ。

『構成が悪いわけじゃない。

 ただ魔力の流し方が均一ではなかったようだな……

 まあいい。無いよりましか』

 刀身に黒い魔力を帯びた手を乗せて手を滑らせていく――――

 傷、刃零れ、折れた刀身……

 先程の戦闘で破損した部分が次々に復元していた。

 すごい。

 俺も魔力を上手く使いこなせるようになればこんな事が出来るのか。

『本調子であるなら剣邪自体を造るのだがな。

 まあいい――

 それよりも正嗣。

 お前に本当の力の使い方という物教えてやろう』

 赤い刀身の刀を構え、黒い魔力と砂鉄がアシヲスの周りを渦巻く。

『我、他を凌駕し、他を蹂躙せし者』

 それは俺の頭に流れた言葉。

『我、振るうは力、絶対なる物量にて何人の侵略を阻む力なり、尚も前進する者も無く、ただ我の前にひれ伏すのみ』

 黒い魔力はアシヲスの唱える言葉と同調するかの様にその質力が上がっていく。

 黒い魔力と砂鉄は絡み合い、アシヲス(俺の体)に絡み付いて行く。

『これは……まさか!!』

 驚きの声を上げるヤザフ。

 そうだろ。俺も驚いているよ。

『我、他を凌駕し、他を屈服させ、他を統べる力を我は振るう我に、黒鉄の栄光あれ!』

 黒い光が瞬くと渦を巻いていた魔力と砂鉄は消えている。

 その変わりに俺の体は重厚な甲冑に包まれていた。

 色は黒。

 漆黒の黒。

 その背中には紅いマントが風を受け翻る。

『まあ、どちらが勝つかはもう一目瞭然であろう?』

 既に勝ち誇った勝者のように腕を組みヤザフを見上げる。

 視線の先に居るヤザフ顔は青ざめ恐怖が浮かんでいた。

 力が、魔力の質量が違いすぎる。

『どうするのだ?

 降伏するか?

 それとも無駄と分かっていて突っ込んでくるか?

 どちらを選んでもそれはお前の自由だ』

 あの兜の下では、いやらしく口元が歪んでいることだろう。

 アシヲスは弱い者いじめが好きそうだからな。

 突っ込んでくるなら容赦なく叩き潰す。

 ヤザフ頼むから、もう向かってくるな。

 些細なことだし水に流してしまえよ。

『僕は負けない。

 だって僕には切り札があるのだから!!』

 ヤザフの魔力の質量が急に膨れ上がった!

 何をする気だ?

『ヤザフ・ベル・マリアルフの名において命ずる――我が敵を沈め、我が敵を射貫け、我は全てを排除する者なり!』

 持っていた金色の弓が光り弾け飛ぶ。

 その光の粒子はヤザフの周りを漂い。

『我に勝者の美酒を与えよ!!!!』

 その粒子は幾千幾万の矢雨となり、アシヲスへと降り注ぐ!

 逃げる場所もない。

 防ぐ物は今着ている黒い甲冑のみだ。

 正直言うと非力すぎる。

 だが、アシヲスは動かない。

 ただ腕を胸の辺りで組み飛んで向かってくる矢雨を見ているだけ。

 このままでは当たる。

 全てがアシヲスに突き刺さってしまう!

『これで終わりだ! 虫!!』

 しかし予想外の事が起こった。

 矢雨はアシヲスの体に突き刺さる瞬間に消失してしまったのだ。

 まるで見えない壁に阻まれるかのように……

『ふん。笑わせるなよ。

 序列九位以下が。

 お前がいくら覇王の力を宿していても、このオレ様に傷一つ付ける事など出来はしない』

 序列九位以下?

 まさかこれって、覇王印の力なのか?

『まして、このオレ様に覇王の力で挑むなど……

 身の程を知るがいい』

 黒い魔力と砂鉄が渦を巻く。

 現れたのは黒い五本、五種類の武器達――

 剣、刀、槍、斧、メイスそれらは、次々にヤザフへと狙いを定め飛んで行く!


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