第三十一話 拮抗する両者
「貴方が私に名を与えし者か?」
眩い光が和らぎ目を開ける。
目の前に居たのは光沢のある黒漆のような髪を腰ほどまで垂らし、満点の月を思わせる金色の瞳をした一人の少女だった。
少女は黒衣を身に着け、その背中には紅いマントを靡かせている。
その他にも白銀の籠手、白銀の胴、白銀のブーツなどで身を堅め。
更にその手には湾曲の剣が握られていた。
これはどういうことだ?
なぜ俺が思い描いた物と寸分も違わない物をこの子はもっている?
年齢は俺とさほど変わらないかもしれない。
俺は突然現れた少女に見とれてしまい、重要な事に気が付いた。
俺が手に持っていた剣邪の地金が無くなっていたのだ。
一体、どこに行ったんだ?
「私が授かりし名は桜花。
私の主となる貴方の名を聞こう」
桜花だって!
いや、あり得ないだろ。
あんな鉄の塊がこんなに綺麗な少女になるなんて!
まあいいか。
今はそんな事を言っている場合じゃないよな。
「俺の名は正嗣――館 正嗣だ」
「了解した。
ではマサツグ、私の敵はあのエルフで間違いないのだな」
俺が答える前に桜花は放たれた矢のごとく真っ直ぐにヤザフに向かって突っ込んでいく。
二人の鍔迫り合いに大気が震え、二人が衝突した場所は魔力の圧力で地面が抉れクレーターがその一瞬で形成された。
紅い魔力と黒い魔力がぶつかり合い相殺する。
「僕の邪魔をするな!!」
紅い魔力が膨れ上がり黒い魔力が侵食される。
桜花は涼しい顔でそれを受け止め、それを上回る黒い魔力でそれを押し戻す。
ヤザフは歯をくいしばりそれに耐え弾き飛ばすと後ろに大きく飛ぶ。
「横一文字!」
着地する瞬間を狙い目敏く、桜花が横薙ぎに剣を振るうと横一線に黒い斬撃が飛んで行く!
一瞬驚きの表情を浮かべるヤザフ。
だが、その口元には笑みが浮かんでいた。
「僕を甘く見ないでもらおう」
綺麗に着地し、黒い斬撃を持っている。
細身の剣で難なく頭上へ弾き飛ばし桜花へ突っ込んでいく。
縦に横に十字に黒い斬撃を放ち続ける桜花。
それを右に左に上に下へと弾き飛ばして突き進んでくるヤザフ。
意地と執念で桜花に接近したヤザフは細身の剣を活かした攻撃――
突きを連続で繰り出す。
それを瞬時に判断し的確に受け流す桜花。
その顔に微塵の迷いも恐れも感じない。
何度も剣と刀が打ち合い、その度に火花が舞う。
そして、桜花は二度目の鍔迫り合いに持ち込んでいた。
いや、早すぎで見えなかったからヤザフが鍔迫り合いに持ち込んだのかもしれない。
紅と黒の魔力の暴風が吹き荒れた。
両者の実力は拮抗している。
これは誰が見ても明らかだ。
俺とは次元が違う。
二人の戦闘はそう痛感させられる戦いだった。
俺もコイツら見たいに強くなりたい!
俺の中でその思いだけが駆けまわっていた。
魔力と魔力の衝突により弾き飛ばされた両者は向かい合う。
二人の表情からまだ余力を残している事が察することが出来る。
どんだけ強いんだよコイツら。
「やってくれる。お前、名は?」
「私の名は桜花。
私はマサツグに創造されし者……」
「創造されし者……だと?
笑わせないでくれよ。
お前が剣邪だとでも言うのではないだろうね?」
「私は剣邪などではない。
私は桜花――
私はマサツグの敵である貴女を排除する」
「やれるものならやってみるといい。
それがお前に出来るなら!
目覚めろ、レイアス。僕の前に立ちふさがる者を排除しろ!!」
ヤザフの持っていた細身の剣が彼女の声に反応したかのように眩い光を放つ。
う、眩しい。
この光は今さっき桜花が出てきた時の――
「これが僕の剣邪・レイアスだ。
この姿を見たのはお前達で二人目だよ」
ヤザフの持っていた細身の剣は姿を消し、代わりにヤザフの左手には金色の弓が握られていた。
だが気が付く変化はそれだけではない。
ヤザフは全身を緑色の鎧で武装している。
その上ヤザフの魔力はさらに大きくなっていた。
こんな化け物じみたやつに……
勝てるのか?
そう思ってしまうほどの力量の差を見せつけられ俺の体は動かなかった。 せいぜい俺に出来ることと言えば気を失わないで立っている事だけだ。
「マサツグ。気を強く持ってください。
私が付います」
桜花はヤザフから目を放さず。
俺に背を向けたまま俺を励ます。
俺は――
「さて、もう終わりにしようじゃないか虫」
いつの間に移動したのかヤザフは桜花目の前に突然現れると桜花の顎を右手で殴り飛ばした。
魔力の乗った重い一撃をまともにくらい空中に浮き飛ぶ桜花の後をヤザフが追う。




