第二十一話 地獄鍋
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目の前で両親を殺されたのか……それはキツイ。
俺の両親は俺の知らない場所で死んでいたから。
遺体も見ていないし葬儀も行っていない。
名前だけが掘られた墓石が丘の上にある小さな墓地に立ち並んでいるだけだ。
両親が死んだ事を知ってから数日後にその墓石が建てられた。
その日は雅代さんと二人で虚しいくそこに座り、日が暮れても俺達はその場を動こうとはしなかった。
そうしている内に二人の腹が鳴く。
どんなに絶望した状況でも腹は減る。
生きている限り人は腹が減るものだ。
しんみりした雰囲気は一気に吹き飛び、雅代さんが「帰ろうか」そう言って俺の手を引き丘を降りた。
失ったものは取り戻せない。
悔やむくらいなら全力で日々を生きろ。
それが雅代さんの口癖になった。
だから俺は、後悔しない生き方をする事にしたんだ。
「……だからこの学校に来たのか。その、仇を討つために」
親を殺した相手だ。
憎くてしょうがないだろう。
当たり前だ、自分の日常や将来をメチャクチャにされてしまったのだから。
「仇は打てません」
「え? この学園なら――」
「両親を殺した魔神憑きは、私達を助けた剣士の方に殺されましたから」
ああ、だから仇は打てないって言ったのか。
合点がいった。
「じゃあ、なんでこの学園に?」
「私と同じ境遇の人を少しでも減らしたいからです。
こんな思いをするのは私達だけで十分ですから」
そうだよな。俺も傭兵になった理由はそんな思いからだったな。
「マサやーん。少し時間かかったけど出来たよ!」
騒がしいのが来た。もう少し静かにしてくれ。
ドタドタと音を立てて歩いて来たスーヤの手にはお盆に置かれた土鍋が一つ。
「色々聞きまわってケガにいい食材を教えて貰ったから、取り敢えず突っ込んでみました」
「「………」」
ん? これ何?
なんかごちゃごちゃしているけど。
それにこの匂い。
「ミリヤ窓を開けてくれ。臭くて鼻が曲がりそうだ」
「はい。これはちょっとありえませよね」
部屋の窓が二箇所とも開け放たれる。
夜のヒヤリとした風が悪臭を換気する。
「ちょとちょと。
臭いのは認めるけど体にいいと思うぞなんて言ったって、ヤギの精巣、鹿のお宝、オオトカゲ、ベルチアの肝、黒トカゲの黒焼き、アスパラ、ウナギ、エビ、オクラ、牡蠣、牛乳、ゴボウ、ゴマ、里芋、シジミ、卵、玉ねぎ、チーズ、ナッツ類、肉類、ニラ、人参、ニンニク、ネギ、ホタテ、モロヘイヤ、山芋、レバー、レンコン、それから――」
まだ入っているのか。
一体何種類入れたんだ。
最初の方はどうか知らないが、後半になると骨折やケガにいい食材が所狭しと、入っているようだ。
実際狭すぎで、凝縮されているようだが。
だがこれは流石にやりすぎだ。
って、おい! なについでんだよ。
誰が食うんだよそんな恐ろしい物。
「スーヤちゃんと味見したんでしょうね?」
「……………うん。当たり前じゃん! かなり美味しかったよ」
なんだ、今の間は。
「ほらマサやん。あーん」
俺の前にスーヤが地獄鍋をスプーンに少しすくい口元まで持ってくる。
いや、あーんじゃねぇよ。
誰が口を開けるか。
「スーヤが食べてみてくれよ。
そしたら俺も口を開けてやる」
「なんでそんなこと言うかな。
アタシが作ったんだから旨いに決まっているだろ?
いらないならアタシが全部食べちゃうからな」
そう言うわりにスプーンが口元で止まっているぞ。
それもそうだ。
あれは病人食ではなく、拷問食だからな。
絶対旨いわけがない。
「う、クセェ! こんなもん食えるわけないじゃん――ゴモ!」
「いいから毒見しなさい」
息止めていたのかよ!
ミリヤも容赦ねぇ。
口に押し込んだと思ったら、後ろに回って吐けないように手で口を押さえている。
「いいから味わって食べなさい。
まだ残っているから」
顔を赤く青くする、スーヤの鼻から血が吹き出した。
鼻血を止めるためミリヤはティッシュを丸めるとスーヤの鼻に詰めていく。
一瞬で赤く染まったが次第に鼻血は止まり始める。
「まったく、とんでもない物を作ってくれたものです。
体にいいとはいえ全部食材を入れるなんてどうかしています」
「いやー。綺麗なお花畑で死んだ父上と母上が全力であっちいけなんてするから戻ってきちゃったよ」
霊視体験してる!
お前の料理は絶対に食べない。
そう心に刻んだ。
結局、ミリヤにパンを持ってきてもらいそれを牛乳で流し込んで、歯を磨いて眠りについた。
明日も6時にお会いしましよう。
活動報告にも書いたのですが、誠に勝手ながら白金の嬢王と黒鉄の王を諸事情により削除しました。
再投稿は未定となっています。ご了承ください。




