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第二十話 ミリヤとスーヤ

「あのー。もういいですか?」

 ミリヤが部屋のドアを少し開けて顔を出していた。

とても気まずそうだ。

「どうぞ。それからルスティーナを部屋まで送ってくれるか?

 寝てしまったんだよ」

 俺の折れた腕を枕に泣き疲れたルスティーナはその後爆睡してしまった。

 それを見てミリヤはクスリと笑い頷く。

 重さらしい重さのないルスティーナを持ち上げ部屋を出て行く。

「マサやん。体を拭きに来たぞ」

 湯気が立つ洗面器にタオルを手に持ってきたスーヤがミリヤと入れ違いに入ってきた。

 俺の枕元に洗面器を置き、スーヤは袖を捲る。

「さあ、マサやん。早く脱いでアタシが体を拭いてあげるよ」

 タオルを渡せ。自分でやる。

 お前にやられると思うと寒気がする。

 ミリヤが戻ってくるまでそのままにしておくか?

「どうしたの? ほら、男でしょ!」

「おいこら! なんでズボンから脱がそうとする!」

 スーヤは俺の上着に手を伸ばすのではなく、俺の履いているズボンを掴んでいる。

 お前いつの間に俺のベルトを外したんだ!

 今は俺が右手でズボンを押さえ込んでなんとか下がってはいないけどな。

「えーとー。興味?」

 興味で俺の下半身を晒そうとしているのかコイツは! 

 クソ、もう手が――

「何しているの、スーヤ?」

「ゲッもう帰って来たの!」

 引きつった笑いをしているミリヤが現れた。

 スーヤは固まっている。

「けが人にそんな悪戯をしない!」

 ミリヤの先制攻撃! スーヤのデコっぱちに五十五のダメージ。

 スーヤは床に蹲っている。いや、怯んでいる。

「イッター!! 何すんのさ!」

「どう見ても、スーヤが悪い」

「もしかしたらマサやんが、下からお願いするぜ……

 とか言ったかもしれないじゃ――イタ!!」

「正嗣さんがそんな事言う訳ないでしょ!」

 スーヤの頭部にチョップが振り下される。

「スーヤはもういいから、正嗣さんに夕食の準備をして来て私が体を拭くから」

「もう、分かったよ」

 素直に出て行くスーヤ。

 あ、ドアの所であっかんべーした。

 ミリヤに見えないようにそんな事をしても意味がないだろ。

「では正嗣さん。体を拭いていきますね」

 俺の上着を脱がせると体をタオルで拭いていく。

 汗で気持ち悪かったがさっぱりする。

 それに汗を自分で拭いているんじゃなく、拭いてもらっている。

 それも女の子にな。

 まず元の世界ではありえない、俺やっぱこの世界で一生を終えてもいいかもしれない。

 ケガをしても自分で応急処置して、最悪の場合自分で傷口を縫って縫合していた。

 麻酔も無いので痛みは倍増だしな。

 それに比べたら雲泥の差だ。

「あの……正嗣さん」

「ん? どうした」

 何か言いにくそうな事でもあるのか?

 ん? ああ、俺の体にある傷跡の事か。

 流石にこれは歳頃の女の子が目にしたら気持ちが悪いだろうな。

 無数の切り傷に縫い傷、それから大きな火傷の痕。

 全て戦場で負ったものだ。

 仲間をかばったり庇われたりして出来た物。

「全身にある古傷の事か?」

「……その、はい。正嗣さんはこの学園に――

 いえ、ルスティーナ様の執事になる前は何をされていたのですか?」

「傭兵だよ。

 俺は両親が死んで間もなく、傭兵を生業にしている叔母に引き取られて傭兵になった。

ルスティーナの執事になったのは偶然さ」

「両親が……その、ごめんなさい。聞いてはいけない事でした」

 ミリヤが謝る事じゃないだろ。

 それに俺だって君の生い立ちを知っているんだから――そうだ。

 それはミリヤに言ってない。

 どうするかな。もう知っているからいいよなんて言えねぇし……

「私も両親が早くに死んでしまっているんです。

 魔神憑きの襲撃にあって両親は私とスーヤの目の前で魔力結晶に変えられてしまいました……」

毎日更新できるように頑張りたいです。


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