第二話 アグネス
「約束ですよ。今日の私のおやつはクッキーですからね!」
朝食をとっている最中もずっとクッキークッキーと言われて若干疲れた感があるが何とか朝食を済ませて学園に送り出す事が出来たのでよしとしよう。
このあとも俺の仕事は終わらない。
レスニアさんと朝食の食器の片付けを終わらせなくてはならないのだ。
その後には、ルスティーナや寮生の洗濯物やベッドカバーを回収箱から回収して学園の敷地内にある洗い場に持って行くんだが、これが骨が折れるんだ。
俺はリアカー一杯に積まれた洗濯物にシートを掛け紐で縛り終えてレスニアさんに声を掛ける。
「それじゃあ、レスニアさん。俺洗濯物を届けてきます」
「行っておいで。あ、そうそう。学園長が学園に寄るように言っていたわよ」
え?
あの学園長が俺を呼んでいただと。
一体何の用だよ。
あの老いぼれジジイ、俺に負かされたのがそんなにしゃくにさわったのか?
まあいいさ。
またボコボコにしてやる――いや、別に老人虐待ではないんだぞ。
これはこの前のチェスの話だからな。
一応言い換えておこう。
あの爺さんのプライドをボコボコにしてやるぜ。
あの爺さん弱いくせに負けず嫌いだから手に負えないんだよな。
「分かりました。気乗りはしませんが行ってみますよ」
「よろしくね」と苦笑いのレニアスさんに俺は送り出された。
舗装されていない道の上を俺は荷馬のようにリアカー引きながら学園内を移動する。
気分は馬車馬だ。もう慣れたとはいえこの仕事だけはなれたくない。
第一俺が居候している第二学生寮には他の学生寮で当たり前に設備されている物がないんだ。
他の学生寮には荷馬車があるのに何でウチだけリアカー何だよ!
コックもそうだが使用人の数が明らかに少ないぞ。
なぜかミリヤとスーヤが手伝ってくれているから何とか回っているけどな。
俺やレスニアさんだけじゃ到底回らないな。
「今日も馬車馬のごとく労働に勤しんでいるな。マサツグ」
カラカラと笑い声を上げる白い光りを纏った少年が俺の前に立ちふさがる。
「ふん、今日も暇そうだな、シロ」
「おいおい、ボクを毎回犬みたいに呼ぶのをやめようぜ。
ボクたちの関係はそんなんじゃないだろ?」
ええい! ここを通るといつもコイツがちょっかいを出してくるんだ。
いい加減煩いんだよ。
「煩い黙れガキ」
「だから言っているだろ。ボクの名前はアグネスだって」
「分かった、分かった。だからそこをどけ」
俺がアグネスにあったのはこの世界に来て間もなくで、ルスティーナの専属執事になって初日だった。
あの日もこうしてリアカーで洗濯物を運んでいた時に俺の目の前に現れてこうして通せんぼして来たんだ。
いや、多分ずっとこうしてここを通る学生全員を通せんぼしていたのだろう。
自分に気付く、または気付いてくれる人を。
それがたまたま俺だっただけの話なわけで。
コイツは運命だと言っていたが俺からしたらた偶然と言う一言で終わってしまうほどあっけない物なのだが……
「急いでいるのかい?
そんなんじゃなければボクとお話しておくれよ」
「ああ、急いでいるな。
ルスティーナが帰ってくる前に帰って、クッキーを焼かないといけないからな」
「ほう……それは美味しいのか?」
クソ! いらぬ事を言ってしまった。
っておい、お前のじゃねぇよ。
何ヨダレ垂らしていんだ。
「ボク食べたことないから、今度クッキーおくれよ」
言うと思った。
まったくしょうがないか。
別に悪さをされた訳じゃない、ただ俺の自由時間を無駄に消費させられたかんが半端ないのだが。
「分かった。
アグネス今度クッキーを持ってくる事を約束するよ」
「わーい。
クッキーだ! 久しぶりだな~楽しみだ!」
おい、今なんて言ったコイツ。
久しぶりって言ったか?
言ったよな。
確か前の方で食べたことないとか言ってなかったか?
俺の聞き間違いか?
「いま久しぶりとか聞こえたのは気のせいか?」
「へ? なんのこと? ボクわかんないなー」
「いいや、お前は――――」
「じゃあ、楽しみに待っているからね。また明日」
俺に追求される前にアグネスは目の前から掻き消えた。
相変わらず逃げ足だけは早いな。
頑張って毎日投稿しようと思います。