第十九話 かしまし
ん? 廊下が騒がしいな。
「いいから、もうあっちに行って。
マサツグのお世話は私一人で十分よ!」
「いいえ、ルスティーナ様にさせる訳にはいきません。
少しはお立場をわきまえてくださいませ」
「そうですよ。
二日も寝ているマサヤンが死ぬほど心配で夜も眠れなかった二人には――」
「煩いわよ、スーヤ。アナタだって人の事言えないわよね?
アナタだって泣いていたでしょ? 知っているんだからね」
「なっ、べ、別に泣いてねぇよ!
あれは汗を拭っていたんだよ。やだな。
アタシがマサやんを思って泣くわけないじゃんか」
「ふーん。目が赤かったように思えたけど?」
「――なんでそこまで知っているんだよ!」
部屋の前に居るのは……ルスティーナとミリヤ、それからスーヤみたいだな。
一体俺の部屋に何しに来たんだ?
女が三人よると姦しいと言うけどホントだな。
煩くて仕方ないんだが。
「大体、貴女達はマサツグの何なの!」
ルスティーナさん。それは……
なんか修羅場みたいに聞こえるから、その言葉のチョイスはダメだろ。
その二人は俺の仕事を手伝ってくれる気のいい女の子達ですよー。
「アタシが愛人・その一でミリヤが妻・候補」
おい! スーヤ言うにことかいてそれは無い。
ルスティーナを逆撫でしてどうする。
ルスティーナが聞いている時にふざけて返すな。
あとが怖いんだからな!
「つ、妻なんて――正嗣さんに悪いですよ」
ミリヤさんよ。
なんかまんざらでもない感じで返答しないでくれ。
本当ドキッとするわ。
「私は真面目な話をしているのですけど……まあいいです。
そこをどいてください。私の使用人です。
私がいつ会おうと貴女達になんの迷惑もかからないでしょ?」
「それはダメです。学園長先生の許可がないことには――」
「その許可ならもう取っています。さあ、そこをどきなさい。
これはバルト国・国王の命令ですよ」
かなり力押しで俺の部屋に入ろうとしているな。
あの子らしくもない。
それにしても、何で俺の部屋に入るのに学園長の許可が必要になるんだ?
「マサツグ!」
元気よく部屋のドアが開け放たれ、俺の寝ているベッドに真っ直ぐ走ってくるルスティーナ。
えーと。ドアは静かに開けような。
「おはようございます。ルスティーナどうしたんですか?」
俺は痛みをこらえながら体を起こす。体中に電気が走るのが分かる。
「無理に起きなくていいです! 寝ていてください」
途中まで起きていた体をルスティーナに無理矢理寝かされてしまった。
ここまで完膚無までにやられたのは、雅代さんとの手合わせ以来だろうか。
俺を殺しかねない程追い込むのは傭兵団の中で雅代さんだけだ。
『お前が戦場で死ぬような軟弱者なら今ここで私が殺してやる」
あの人はそう言う人だ。
この世界で唯一の肉親を戦場で失うくらいなら自ら手を下す事も躊躇しない。
常に前に進み、その歩みを止める事はない。
後ろを振り向かない人だから。
だが、俺はそんな雅代さんに育てられ、今もこうして生きている。
俺を殺したいなら出会った頃にそうしているだろう。
俺に死んで欲しくなくて、俺にあの壊れた世界で生きていく生き方を教えてくれた。
俺はそんな雅代さんの腹の底にあるのは、俺にたいする憎しみや怒りではなくて、愛情や独占欲の変質系だと思う。
これは俺の勝手な思い込みであり、あって欲しいなと思う願望かもしれない。
もしかしたらただのドSかもしれないが……
「マサツグ。どうしてこんな事になったの。
全身包帯だらけじゃない!」
「少し階段から落ちまして――」
俺は心配させないように笑顔で答えた。
だって泣きそうな顔をしているんだぜ。
男として、執事として俺はこの子――ルスティーナに涙を流させるなんて事はあってはならない事だ。
「ウソをつくな。あのエルフにやられたのでしょ!
学園長に事の次第は聞いていて知っています!!」
ポロポロとルスティーナの目から涙が落ちてくる。
結局泣かしてしまった……
何で俺なんかの為にこの子は泣いているんだ?
俺はたまたまこの世界に湧いて出た異分子なのに。
「私はもう何も失いたくはないのですよ。
だからマサツグ……お願いですから死なないで」
ははは。骨を折ったくらいでは死ねないかな。
でもゴメンな心配かけて。大丈夫、俺は死ねないんだ。
元いた世界に帰らないと。
まあ、だからそれまではルスティーナ……
俺は――
「承りました。俺は死にません。
執事として精一杯使えさせていただきます!」
嘘も偽りもない。俺の本心だ。
更新が……




