第十七話 足掻き
俺は足元に転がっていた一メートル程の枝を拾い構えた。
ヤザフに見えないように小さな小石も数個拾い隠し持つ。
枝を構えた俺を見てヤザフは鼻で笑った。
「あがくんだね。虫のクセに」
「その上からの物言いを出来なくしてやるよ」
俺だって相手との力量の差を図れないほど愚か者じゃない。
それに俺とヤザフは対等じゃない。
第一に俺は魔法が使えない。
正確には魔力があると言う事さえ今日知ったばかりだ。
第二に俺は先制攻撃を食らって手負いという事。
第三に手持ちの武器。ヤザフは、明らかに真剣だが俺は今拾った枝。
勝てる訳が無い。
だが、相手より不利な状況ほど燃える物はない。
「なんだ。頭を蹴られておかしくなったのかい?
哀れな虫だな。今度は頭を蹴り割ってあげるよ」
今度は目の前で消える事はなく、歩いて近寄ってくる。
なぶるのが好きらしい。弱い者いじめは確かに楽しいよな。
でもな。
生憎と俺は諦めがわるいんだ。
俺は隠し持っていた小石を指に挟み枝を構え、弾かれたようにヤザフに向かって走って行く。
ヤザフは構えない。
それどころか障壁さえ展開していない。
完全に油断している!
ヤザフとの間合い数歩手前で俺は枝を横に薙いだ。
その反動で指に挟んでいた小石が飛んでいく。
ヤザフの左頬に赤い血が伝う。
左手で垂れてきた自分の血を拭った。
「――この僕の顔に傷を入れるなんてね。
そんなに殺されたいのかい?」
驚きと激しい怒りがヤザフの表情から見て取れる。
これは相当頭に来てるな。冷静さは大事だぜ。
「それは遠慮したいな。
俺は主人からの命令で死ねない事になっている――」
俺の体はヤザフの攻撃によって吹き飛ばされた。
またもあの衝撃が俺の体を襲う。
ヤザフの拳に無意識に反応した左腕は衝撃に耐えきれずに折れてしまった。
「いってぇ―――!!」
声を上げてしまうくらい痛かった。
俺体の骨で骨折なんてしてない所は脊椎と首の骨以外折れていない所は存在しない。
だが、この痛みになれるわけじゃない。
痛いものは痛い。
転げまわりそうな痛みを我慢して口元に笑みを浮かべる。
「こんなもんかよ。全然きかねぇよ」
「……虫が」
憐れんだ目で俺を見るな! 虚勢を張っているだけだ!
「――う」
左足に重い衝撃が襲う。
目をやると俺の足が明後日の方向を向いている。
どうやらヤザフの右足により蹴り折られてしまったようだ。
俺は立っている事も出来ずに前のめりに崩折れる。
頭をヤザフに踏みつけられ、地面にキスしてしまう。
顔は泥だらけだ。いい男が台無しじゃないか。どうしてくれる!
「魔力もろくに使いこなせない虫が、粋がるんじゃない。
寿命を縮めるだけだ」
「おい、土足で人の頭をグリグリしちゃいけないって親に習わなかったのか?」
「劣等種の分際で僕に意見するのかい?
このまま死ぬまで足に魔力を込めて威力を増大させることも出来るんだよ?
さあ、僕に謝れ」
俺が何をしたっていうんだ?
俺は何を謝らないといけないんだよ。
なんで俺がお前のようなヤツに頭を下げないといけないんだ!
俺は気合を入れて頭を踏まれた状態のまま起き上がろうと何度か挑戦したがヤザフの足が動くことはなかった。
「早く僕に謝罪しろ……虫」
「誰が謝るかよ。クソ野郎」
メリメリ音がするくらい俺の頭を踏みつけるヤザフ。
頭かち割れる!
明日も6時にお会いしましょう。




