第十二話 融合
どう反応したらいいんだ。
これが凄い事なのか俺には良く分からないんだが……
そうだな。
「オ、オ。スー、ゲー……」
「なんだ、そのあからさまな驚き方は!
もっとこう――そうか、お前はこの世界の住人ではなかったな。
詳しく説明するなら、この世界の英雄的な存在で神殺しの覇王印を覚醒した英雄王様だ。
ついでに王剣を世の為に造った人格者だ!」
あのー。
いくら言い直しても、この世界の歴史を知らない俺に説明してもよく分からないんだが。
まあ、本人が言っているから話半分に聞いておこう。
歴史上の人物なら本にでも載っているだろ。
それよりも――
「覇王印? 王印ではないのか?」
俺は聞きなれない言葉に思わず聞き返した。
王印は前にルスティーナに説明を受けたことがある。
王家を継ぐ者にのみ現れる時期国王の証だ。
ルスティーナの王印は右の二の腕に拳大の黒い押印が色鮮やかに浮き出ている。
王印所持者が王家に二人出た場合、大きさや魔力の強さによって国王を決めるそれが人格者だったとしても王印の大きさが劣っていれば国王にはなれないという話しだ。
でも覇王印の話は出なかったな。
なんなのだろう。
「ふん! 王印を時期国王選定だけの印だと思っているのはタダの馬鹿者だ。
あれは代々受け継がれてきた力の結晶だぞ。
それをタダの印としか認識していないとは……嘆かわしいかぎりだな」
露骨にバカにした顔をしながら俺を見るな!
俺が知っている事にも限りがあるんだよ!
「いいか? 王印には二種類がある。
普通の王印と覇王印だ。
見分け方として普通の王印は魔力を使っても黒いが、覇王印は所持者の魔力の色に光る。
特徴を上げるならばそんな所だろうな」
うーん。ルスティーナの王印はどうだったかな?
寮内で魔力を使うことなんて無かったし――
いや、あったな。それも今日。
でもあの時はルスティーナ長袖着ていたから、見えなかったな。
「その顔は、近くに王印の保持者がいるのか?
どうせだから序列がある事も教えておくか、いいか覇王印には明確な上下関係がある。
序列の下位が上位への攻撃に限りその攻撃は消滅する。
ようは覇王印による攻撃を受けない。魔力による攻撃は受けるがな」
それは都合がいいのか悪いのか分からないな。
幾ら覇王印が強力でも、魔力を使えば攻撃を受けるんだから。
覇王印に頼らずに魔力と体力を鍛えた方が強くなるには近道なんじゃないのか?
「つまり大きな力に溺れず、鍛錬を怠るなという事か」
「鍛錬? このオレ様が鍛錬だと!
笑わせてくれる。オレ様の持つ覇王印・黒鉄の覇道は、序列三位だぞ?」
中々上位だな。
アシヲスの態度がデカイ訳だ。
覇王印の攻撃が通らないのは序列一位と二位だけなら当たり前かもしれない。
だがこの男はこんなにも偉そうにしているが死んでいるんだよな。
そこについて話を聞いてみるか。
「けどさ、結局の所。
アンタは死んだんだよな。そうやって油断して殺されてしまったんだろ?」
「くっ……返す言葉もない。だがな!」
その後も言い訳がましい言葉を並べて喚いていた。
まったく……煩い限りだ。
覇王印の序列だが、
第一位は黄昏の英雄。
二位が平定の偽善者。
そして三位が彼、アシヲスが保持している黒鉄の覇道。
四位昏迷の黄金郷。
五位堅牢の城。
六位獣の王者。
七位愚者の武器庫。
八位草者の道力。
などである。
まだ序列も下へ続くようだがそこまでしかアシヲスは喋らなかった。
王剣についても少し話してくれた。
この学園にある物を除くとあと五本。
計八本がこの世界に実在する。
アシヲスが死ぬ間際、彼らを自由にしたと言っていた。
その口ぶりからするとアグネスやリフィアのように人型になり動くのだろうか?
詳しい事は喋らなかった。
聞き出そうとも思わなかったが。
アシヲスの力についてだがそれは後で調べた方が正確な情報が得られるだろう。
本人から直接聞くと誇張されてそうだしな。
「そろそろ時間だな。オイ、正嗣オレ様の手を握れ」
いきなり話を終わらせ、アシヲスは右手を俺に差し出した。
なんだ? 握手か。
俺は差し出された手を躊躇する事なく強く握り返した。
「フハハハハ! いいぞ。
その調子だ……手を離すなよ、正嗣」
アシヲスは俺の胸元に左手を置く――
暫くすると奴の手が俺の体に埋まっていた。
そう、泥にでも手を入れるかのように……
「ちょ! おい、これって――」
「なに、お前に戦闘以外の部分は任せるさ。
オレ様は戦闘、お前は執事をやっていればいい」
彼の二の腕、左半身が俺の体に沈んでいく……
ズブズブと埋まっていく。
「オレ様のやり方に文句があるなら、オレ様に完全に支配されてしまう前にオレ様を超えることだ。フハハハハ!!」
高らかに笑うアシヲスの声を耳障りに思いながらも、彼の頭部が俺の腹に埋まりきってしまった。
これはまさか、融合とか言うやつか?
「最後になったが、お前が死前名を聞かれた時はオレ様の名を名乗っておけ。きっと驚くはずだ」
限りない白の世界にアシヲスの声が響いている。
その世界に俺はただ一人立っていた。
暫くすると――白い世界が薄れ、灰色に染まり、そこから俺の意識は漆黒へと落ちていった。
明日もお会いしましょう




