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第一話 執事としての日常

 館 正嗣――それが俺の名前だ。

 世界をまたにかけて活躍する傭兵だったが、どういう運命の悪戯か現在の職業は執事だ。

 その為、俺は毎朝時に起き、執事服に袖を通して台所に下りる――

 それがここ半月の俺の日常……

「おはようございます。レスニアさん」

「おっ、来たね。じゃあ今日もお願い出来るかい。あんたの味付けは寮生にウケがいいからね」

 白い割烹着におたまを持って出迎えたのは、この寮の寮母・レスニアさん。俺を執事にした張本人である。

 俺はそれを愛想笑いで受け流し、俺の戦場でもある調理場へ入っていく。

 あくまで執事の俺がなぜ板長――もといコック見習いのような生活をしている理由……それはこの寮にコックが一人もいない事があげられる。

 コックが居ないのに、この寮で生活している生徒は五十人。

 他にも学生寮は四ヶ所あるがここが三番目に寮生が多く、コックが居ない寮はここだけだ。

 コックが一人も居ない事にも理由はある。

 俺は溜息を付きながら、せっかく着た執事服の上着を脱ぎハンガーに掛けると、白いフリルの付いたエプロンを身につける。

 これは俺の趣味ではないので気にしないでくれ。

 調理台の上には、今日も新鮮な野菜や魚、肉が学園から届けられていた。

 それらを眺めながらメニューを考え、手を洗い終えた俺は調理場の壁に掛けてある古めかしい時計に目をやると、三時半を少し回っていた。

 そろそろメイド服を着た黄色い髪に緑色の瞳をした少女が二人やってくる時間だ。

「おはようございます。正嗣さん」

「おは。今日も張り切っていきましょう、マサやん」

 朝早くから元気な声を上げる二人に視線を向ける。

 今日もメイド服を上手く着こなしていた。

「おはようミリヤ、スーヤ。今日も可愛いね」

「いやですね。当たり前じゃないですか。寝ぼけているんですか?」

 この厚かましい少女はスーヤ、最初に挨拶した方が姉のミリヤ。

 双子の姉妹だ。

 顔の作りや体型は同じだが、性格まで似ていない事が幸いしているな。

「ミリヤは卵を溶いて卵焼きを作ってくれ。

 スーヤは使う食材を洗ってくれその後、君は皮むきだ」

「えーまたかよ。たまにはアタシにも卵焼き作らせてくれよ」

「それはダメだ。

 理由は言わなくても分かるだろ? 黙って食材を洗え」

 ミリヤは言われた事を完璧にこなす子で、一人で作業させて問題ないのだが。

 妹のスーヤは一人作業をさせるとサボるので俺の助手をやらせている。

 今日の献立は純和風な感じで攻めようと思っているので、卵焼きとお味噌汁、焼き魚に胡瓜の浅漬、そしてご飯。

 米はあるのだが、味噌はなく味がよく似ている物で代用している。豆腐は自家製だ。

 五時を回る頃には朝食の準備を終えていた。

 そろそろ食堂の準備をし始めないと。

「後は俺がやるからミリヤとスーヤは配膳の準備を始めてくれ」

 この寮の朝食は六時半から八時までとなっている。

 学生のミリヤとスーヤは七時には部屋に戻り学校に行く支度をしないといけない。

「分かりました。

 ほら、つまみ食いしてないで行くよスーちゃん」

 卵焼きをつまみ食いして口をモゴモゴしているスーヤの手を引き食堂に二人は出ていく。

「まったく……スーヤは相変わらず食い意地が張っているな」

 さて、残りの仕事をやってしまおう。

 俺は料理で使った鍋や道具を洗い始めた。

 この世界に来て半月が経とうとしているのだが、いまだにこの生活に違和感を覚える。

 この世界と言うとまるで別の世界があるような言い方になるのだが、それはしょうがない。

 何故なら今俺がいる世界は俺がいた世界とは別物だ。

 風習や常識の違いを見てもそれは明らかで、この世界では魔法などの見えない力が世界を動かしていた。

 更に言うならばこの世界は王族や貴族、奴隷と言った階級が未だに存在し明らかな差別が罷り通っている。

 俺が居た世界。

 新世紀十一年の地球では、謎の生命体――「ファルダ」との戦争で地上を追われ、地下に逃れた人類は奴らを駆逐するために日夜戦い続けている。

 そのかいもあって、人類が取り戻す事に成功したのは、北半球でトンネルに一番近かった旧日本を三年がかりで取り戻し、南半球ではオーストラリアを完全に取り戻し南米攻略を始めていた。

 翌年から中央アジア並びに北米への攻略が実行される予定だ。

 そんな大事な時期に俺は叔母であり、育ての親でもある館 雅代に南米から旧日本……現在のエリヤ三に同僚と共に呼び戻される事になったんだ。

 まあ、仕方ないさ。

 なんせ雅代さんは俺の所属する傭兵団・サムライのリーダなんだ。

 上司の命令には逆らえないからな。

 と言うか逆らうと後が怖いんだ。

 雅代さんは鷹宮学園を五年前に創設し、理事長兼校長となった。

 久しぶりに合う事になったけど変わらず元気そうだった。

 だけどな……いきなり傭兵団を解散するなんて正気の沙汰とは思えないぜ。

 毎回型破りだがこれは非常識だろ? 

 なんの知らせも受けてないんだぜ。

 『傭兵団サムライは、今日をもって解散し、希望者またスカウトした者のみ、ここで働く事になっている。

 もちろん、教官としてな。

 あれほどの実践を経験し、なおかつ生きている奴はそうそういないからな』

 要は教官の補充がしたかったみたいだ。

 俺は雅代さんに鷹宮学園の健康診断と偽った入学試験を受けさせられたんだが、その試験で事故に合い俺は気づくとこの世界に迷い込んでいたんだ。

「もうこんな時間か」

 俺は洗い物を片付けて時計を見上げる。

 時間は七時丁度だ。

 そろそろ俺の可愛い主を起に行かなくては。

 水で濡れた手をタオルで拭き取り、エプロンをハンガーに掛けて上着を再び着直す。

「レスニアさん少し抜けます。後をお願いします」

「わかってる。行っておいで後は私一人で回るから」

 俺は一礼して台所を後にする。

 

 俺は早歩きで主である。

 ルスティーナ・エル・ボルドーの元へ向かう。

 典型的な低血圧で朝にめっぽう弱い。

 だから起に行かないと昼過ぎまで寝ている事が多々ある。

 赤いドアをノックして中に入った。予想どうり彼女は寝ていた。

 相変わらす寝相が悪い。

 そのせいで綺麗な金色をした髪がクシャクシャになってしまっている。

「ほら朝です。起きてください。ルスティーナ」

 俺はカーテンを開け放ち、朝日を部屋の中に招き入れる。

 今日もいい天気だ。

「ウー……朝日が目にしみます。カーテンを閉めてもらえません?」

「嫌です。さあ、食事の準備が出来たので着替えて下に降りてきてください」

 着崩れた寝巻きのまま起き上がり、寝ぼけ眼で俺を見る。

「マサツグ……」

 少し頬を赤らめ、上目遣いにルスティーナの青い瞳が俺を映し出す。

「なんです?」

「着替えさせて」

 ほらな。

 このおませさんは、こういう事をサラっと言うんだよ。

 まったく、俺は君の将来が心配だよ……と言っても、俺がルスティーナの将来に対して不安になる事はない。

 何故なら、ルスティーナは今から三年前……八歳の頃に国王に即位し、この十三大陸の一国・バルトの王となっていた。

 今は十三国協定に伴い、中立国・ウスランにあるエディウス学園に在籍している。

 この学園には、各国の王族関係者、貴族、騎士、豪商などの将来国の運営に関わる子供達の教育を行っているそうだ。

 つまりは幼い頃からの知り合いであれば争いが減ると言う安易な考えから来ているようだ。

 ここで上手く立ち回れば卒業する頃には貧乏貴族でも王族とのパイプを手にする事が可能となるし、騎士であれば就職先を決める大事な場所だと言える。

「どうしたの、マサツグ?

 ああ、この私の魅力的ボデーに魅了されたんですね。

 まったく、見境無いんですから……でも、まあ……それは仕方ない事ですよ」

「男だか女だか分からん体を見てもしょうがない…だ…」

 何かが顔の横を通り過ぎたよ。

 一瞬でよく見えなかったけど昨日の夜にケーキに使ったナイフだったと思うよ俺は。

「何か言いまして? よく聞こえませんでした。もう一回言ってもらえますか?」

 ルスティーナの青い瞳が黄色に変わっていく。

 そう、彼女の髪の色と同じ金色。更に言えば黄金色だ。

 これは……まさか、魔力の開放か? 

 たったあれだけの事でここまでするなんて――

「ちょ、それは幾ら何でもマズイ」

「何と言ったのですか?」

 ヤバい。

 目が座っている。

 流石にこの機嫌を直してもらうには相当な犠牲を払わなくてはならないではないか。

「そうだ! ルスティーナ、クッキーって知っているか?」

「……美味しいのですか?」

 食いついた。

 目がキラキラしてる。

 瞳の色も普段の青色に戻っている。

 これならいける!

「そうか、知らないのか。美味しいのになー」

「今度作ってくれますか? それなら今日の事は不問に処します」

「ああ、いいぞ」

 クソ。

 俺は元々提供できるおやつのレパートリーがかなり少ないんだよ。

 俺の残りのカードと言えばドーナッツくらいなんだぞ。

 これからは失言を減らさなくては……

白金の嬢王の別シナリオです。これは三人称ではなく一人称で書き上げていきたいと思います。

せっかくなのでキャラ設定も少し変えていこうと思います。

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