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冒険者の副業  作者: 月永
一章
1/2

001. 少年は異世界へ転生する




 低く澄んだ空色を背景に、落葉した街路樹の細い枝先が北風に揺れる。

先刻までそこにあった平穏な時間は崩れ、石畳の歩道に倒れた少年から血だまりが広がる。

 名前を呼ぶ声は酷くなる耳鳴りに沈み……応えようとした声は言葉にならず空気に溶けてゆく。

 薄れる意識の中で、少年は一緒に居た彼らが助かったことを感じて安堵した。

 今年は少し楽しみに思えた誕生日を迎えられないことが残念に思えたけれど、冷えた指先を強く掴んだ温かな手を握り返すことは出来なくて……きっと助からないだろうという予感が掴めた。

 これで地獄と天国が存在するのかが判るかだろうかと、益体(やくたい)もないことを思った最後の時に――世界が軋む音が聞こえた気がした。




   ※




「おお、勇者よ、死んでしまうとは情けない……」

 白い雲の波が地平線を作る白い景色、雲のベッドのような物の上で少年は目を覚ました。

身体を起こした彼の視線の先には、白い服を着て木の杖を持った白い髭の仙人のような翁が一人。

「それは神官の台詞では?」

 復活の呪文を入力しないとコンテニューできないテレビゲーム初期の某有名ゲーム神官のものらしいネタ的な台詞に少年は混乱仕掛けた頭で思わず反射的に突っ込みを入れた。

「気にするな。気分じゃ、気分」

 何の冗談だろうかと暫し思索にふけり、改めて周囲を見渡した彼はそこに一応の心当たりを見つけてしまう。それは、幾つか読んだことのある異世界転生物語のプロローグに似ていた。

「……俺は死んであなたは神様で、ここは神様の不思議空間っていう設定でいいのか?」

「いえぇす、ざっつらいと! じゃ」

 ノリのいいで白髭の元気なお爺さんは、親指を立てて握り拳を突出し、片目を瞑ってみせる。

「なんてテンプレな……」

 神様らしい老人も、目を伏せウンウンと同意を示して頷く。

「お前さんの記憶から、もっとも簡単に理解できそうなシチュエーションを用意したからのう」

 確かに判りやすいが……そうか、これが転生モノの主人公たちが味わってきた微妙な心境というものかと、少年は妙に納得する。

「というわけで、お主には異世界に転生してもらって、よければやって欲しいこともあるんじゃ」

「……何故?」

 享年十七歳は若いかもしれないが、珍しいわけでもない。

何故、自分は死んで、転生できるのか?

もしやと思い少年は若干、訝しげな目を向ける。

転生理由もテンプレなのか?

「言っておくが、お主の死は“神様のミス”などではないぞ。偶然という名の必然じゃ。転生理由はひま暇つぶしで偶々目についたからじゃな」

 少年の記憶を読んだ神様は疑いの内容もすぐに読み取れたのだろう。

嘘か本当かは少年には判らないが、転生できるのなら前向きに考えることも悪くないかもしれない。

「ちなみに、生きていた世界で今の俺に出来ることはありますか」

「ないのう」

「判りました。転生する世界はどんなところですか」

「うむ。 転生先の異世界は所謂(いわゆる)“科学の代わりに魔法が発達した剣と魔法のファンタジーな世界”じゃ。魔物も仰山おっての、軍の演習や冒険者ギルドの依頼などで討伐が日常的に行われておる。大きな都市なら城壁に囲まれ警備もしっかりしとるから魔物に襲われることは滅多にないがの。まあ、そんな世界じゃて転生してすぐ死んでしまうのも面白くないからのう……|反則的に便利で強力な能力チート付きで転生することになるんじゃが、希望する能力はあるかの?」

「複数でも?」

「構わんぞ」

 チートな能力を貰って転生できるなら……。

少年は、もしチートが貰えるならと友人たちと話した時のことを思い出いだしながら答える。

「健康な身体、言語に解析及び鑑定と広域探査や察知、状態異常無効と貰ったチートを隠蔽する能力。暗殺者系と魔法使い系の能力または才能。その他一般的な冒険者の生活知識と装備に念話で話せる使い魔の相棒?」

「ふむ。大丈夫じゃろ」

 考え付くままに色々言ってみたのだが全部叶うとは思わなかった。

「しかし、暗殺者と来たか。そこは普通、剣士じゃないのかの?」

「剣士系は英雄とか勇者っぽくて性に合わないよ」

 魔法に憧れはあるが、英雄願望はない。


 その後も色々と話を詰めていき、そして―――


「いってきます」

「ぐっどらっく! じゃ」


 陽気な神様に見送られて――少年は、異世界へと転生した。








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