大人の為の子供相談室 紅葉
タケジー:それでは大人の為の子供相談室、第十回を始めたいと思います。
ミカリン:いやー、記念すべき二桁だねぇ。もうそろそろ終わりだねぇ(ほーたーるのひーかーりー)
タケジー:いやいや、まだ終わりムードの演出は早いですからっ。今回を入れてあと三回、全力で頑張りましょう(おー)
ミカリン:はいはい、タケちゃんは相変わらず真面目だなぁ。
タケジー:ミカリンがテキトー過ぎるだけです。
ミカリン:楽して生きようとするのは人の本能だよ、タケちゃん。
タケジー:理性を持って生きるのが人の本分です。
ミカリン:うむむ、言うようになったじゃないかね。
タケジー:さすがに長い付き合いですからね。ミカリンの屁理屈にも慣れますって。
ミカリン:やりにくくなったもんだ。んで、今日はどんなテーマでいくつもりなの?
タケジー:それではまずはお葉書からご紹介しましょう。えーと……『白虎抱きしめ隊』さんからです。『そろそろ紅葉の季節なんですが、どうしてコウヨウと書いてモミジと読むんでしょうか。銀杏派の私としては納得がいきません。どうか教えていただきたい』とのことなんですが……秋といえば定番と言える紅葉ネタなんですが、これはちょっと変わってますね。どうして葉が落ちるんですかーとか、そういうのが来ると思ってましたけど。
ミカリン:フフフフ……とうとう気付いてしまったようだねぇ。
タケジー:気付いたって、何にです?
ミカリン:触れてはならぬ禁忌にだよ。それは人が持つ本能的な畏怖と畏敬の念によるものだ。
タケジー:えーと、すいません。言っていることの意味がまるでわからないんですけど?
ミカリン:まぁ順を追って話そうじゃないか。それはそうとタケちゃん、紅葉のメカニズム自体は知ってるんだよね?
タケジー:そう詳しくはありませんけど、冬に備えてエネルギーを節約する為、で良いんですよね?
ミカリン:それは紅葉をする目的だね。どうして紅葉が起こるのかについては?
タケジー:えっと、葉に養分が行かなくなるから、枯れる時に色が変わるってことじゃないんですか?
ミカリン:間違ってはいないね。でも正しくもない。
タケジー:どういう意味です?
ミカリン:黄色に関しては正しい。黄色い紅葉――まぁ黄葉って言うんだけど、これは『カロテノイド』っていう系統の色素が葉緑素の分解によって目立つようになるからなんだよね。つまり、枯れた為に色が変わったという認識でいいの。
タケジー:紅葉の方は違うんですか?
ミカリン:こっちは『アントシアン』って物質が絡んでるんだけど、実はこれ秋になってワザワザ作られるものなのよ(な、なんだってー!)
タケジー:つまり、枯れたからじゃないってことですか?
ミカリン:そういうこと。緑の葉が、あえて赤くなる。ね、不思議でしょ?
タケジー:確かに……でも、何でなんです?
ミカリン:それがねぇ、説はあるんだけど確定はしてないらしいの。まぁわかんないってことね。
タケジー:そんな投げやりな……。
ミカリン:身近にあるけどわかんないなんてこと、探せばいくらでも見付かるっての。んなことより、本題はここからよ。植物も人間も何故、この赤という色を特別視したのか?
タケジー:偶然、じゃないんですか?
ミカリン:その一言で片付けるのは簡単ね。でも、そうやって本能に踊らされていると、いつか赤の軍勢に支配されて人生を終えることになるのよ?(どどーん)
タケジー:いやいや、何ですかそれ。
ミカリン:そもそもモミジって言葉だけど、これは『モミヅ』という動詞が元になっているそうなの。
タケジー:もみづ、ですか。聞き慣れない言葉ですね。
ミカリン:揉み出すって感じの意味合いらしいね。染料を作る時の言葉だったらしいけど。
タケジー:あぁ、なるほど。つまり、赤い色を出す時の言葉だったから、赤く色付く方が代表格になったと、そういうことですか。
ミカリン:いやいや、そんな単純な話じゃないのよ。
タケジー:どういうことです?
ミカリン:元々『もみづ』って言葉は漢字をあてられてないらしいんだけど、赤と黄色、どっちも使われてたらしいのよね。でも今はモミジといえば紅葉、これ常識。
タケジー:要するに、黄色は負けたってことですか?
ミカリン:そう、本能の必然によってね。
タケジー:随分と大袈裟な物言いに聞こえますけど。
ミカリン:そんなことないって。赤は常に黄色に勝利してきたの。古くは日本書紀、冠位十二階からすでに勝敗は決しているの。
タケジー:かんい……えっと、何ですって?
ミカリン:冠位十二階、推古天皇の作った階級制度ね。これによると黄色は七番目、赤は五番目。
タケジー:でも、赤が一番ってワケじゃないんですね。
ミカリン:そりゃそうよ。衣服で身分を示すんだから当然染料の希少価値は関係してくるって。当時は紫や藍色の方がレアだったワケだし。でも赤と黄色は五分五分よ。どっちも染料の材料は身近に存在してるもの。
タケジー:でも、そんなに赤ばっかり優遇してますかね?
ミカリン:良くも悪くも、ね。
タケジー:例えば?
ミカリン:赤は危険を示す色だけど、黄色は警戒。赤はみんなを纏めるリーダーだけど、黄色はカレー食ってるお調子者。
タケジー:いや、カレーはゴレ○ジャーだけじゃないですか。
ミカリン:じゃあ、じゃんけんポンで。
タケジー:それ目茶苦茶人気者じゃないですか!
ミカリン:ちっ、黄色の癖に生意気な。カレーでも食ってろ。
タケジー:やめてっ。厄介な人達を敵に回すから!
ミカリン:まぁとにかくよ、このように人間というのは古くから赤の魔力に魅了され、踊らされてきたの。銀杏の頑張りも虚しく、紅葉と言えばモミジが代表、独壇場、それが世間の評価ってものよ。
タケジー:いや、何というか話が壮大になってきたんですけど。
ミカリン:だから最初から言ってるじゃない。これは人間の本能に関わる一大問題なんだってば。
タケジー:赤でも黄色でも、私はどちらの紅葉も同じくらい綺麗だと思いますけどね。
ミカリン:何それ、彼女も浮気相手もどっちも好きですってこと?
タケジー:何ですか、それは!
ミカリン:どっちも好きだ、なんていう奴は大抵どっちも好きじゃないのよねー。
タケジー:いやいやいや、そんなことないですから。
ミカリン:あ、やっぱり二股かけてるんだ?
タケジー:だーかーらー!
ミカリン:まぁ私は黄色派だけどね。やっぱり炎より電気の方が汎用性高いと思うし。
タケジー:何の話ですか……。
ミカリン:それと可愛いよね、ピカチ――
タケジー:わーーーーー!
ミカリン:そう、やはりこの問題は禁忌なのだよ。人類にとってのね。
タケジー:勘弁してください……。