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咎人よ龍であれ 出逢いの章  作者: マダオ万歳
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深く暗い底に眠りしは、主を恋焦がれる一龍

お久しぶりです、マダオ万歳です。


約4ヶ月ぶりの更新となります。


言わせてください。ご免なさい。更新が遅れて、本当に申し訳ありません。許してくださいとは言いません。私の、非力を罵ってくれても構いません。本当に遅くなって申し訳ございませんでした。


色々、理由はございますが、それはあとがきの方に書かせてもらいます。久しぶりの本編ですが、相変わらずのクオリティです。


それでも、楽しんでいただければ幸いです。


では、本編をどうぞ!!!



「では、各クラス出席番号順に2列になって並んで座ってください。これからのことについて幾つか連絡があります」


 船内にある広間に集められた生徒たちは学年主任の竹田の支持に従って前から出席順に座って彼の方を向いていた。本土から対馬を経由して、5時間のクルージングを経て、龍京堂の生徒・教師たちを乗せた船は無事に秋月の研究施設であるグラウンドに到着し港に停泊していた。


「これから、船を降りて研究施設エリアの手前にある研究員用の講堂に移動します。一組の生徒から遅れずに付いて来てください」


 竹田の支持を聞いた1組の生徒たちは、わいわいとこれからのことを話しながら立ち上がり、彼等の先頭は、部屋の1番後ろにある扉から外に続く廊下に出ようとしている竹田の後を遅れないよう素早く彼の後ろに移動する。1組の生徒たちが動き始めるのと同時に先程まで静まっていた広間が一気に騒がしくなる。他の生徒も1組の生徒たちと同様、この後に予定されているイベントについて話しているのだ。このイベントを楽しみにしていたものが殆どであるので、会話の中で見せる表情が笑顔のものが多い。しかし、日本本土からの長かった船旅に疲れて疲労困憊の表情を見せる者もいる。


「なぁ、光秀。何時になったら船から降りれるんだぁ?この部屋に集められてからだいぶ経つんだけどよぉ」


 光秀のいる8組の1番後ろにいるメンバーは、後者の方であった。


「もうすぐだろ。つうか、さっきから元気ないなお前。琴音と同じやつか」


「船酔いではないんだが、あんま船に乗ったことがなかったんで、地に足をつかねぇとどうしても不安になってな。おまけに長時間の船旅に慣れてねえから妙に疲れちまってよ。たくっ、泣けてくるぜ」


 後ろにいるグループ、光秀と彼の悪友である金に髪を染めた青年、曽田(そだ) (すすむ)は慣れない船旅のせいでとてもグロッキーな表情になりながら気落ちしている状態だ。


「アンタは相変わらずね、享。もうすぐなんだから我慢しなさいよ」


「おうおう、お前も相変わらずの辛口でこっちは泣けてくるぜ、雪さんよ」


「雪。お前、学級員だろ?前にいなくていいのかよ」


 そう言って、光秀の前に来て座り込んだ女子生徒、藤浪(ふじなみ) (ゆき)に向かって話しかける。彼女は、久遠と共にこのクラスの委員長としてこのクラスの事務的なことを行っており、享と雪は、光秀たちが1年生の時に知り合ってそれからの中である。


「此処に入ってから、結構な時間が経って、他のクラスの委員長も自由に移動してるから大丈夫でしょ」


「それでいいのかよ、学級委員長」


「鈍いな光秀。此奴はな、おm グホッ!!!」


「黙ってなさい」


「ん?どうした雪」


「いや、何でもないわよ。ちょっと蚊が此奴の頬に止まってたから反射的に手が動いちゃったのよ」


「……ふ。今時、暴力系デレ女子がいけると思ってるのかよ」


「何か言った?」


「……いいえ、何にもぉ」


 殴られたところが若干赤くなりながらも、手を顎に添えてスマイルを崩さずに言う享に対して、雪はジト目で睨みつけてこれ以上自分のことを光秀に聞かれないように牽制する。そして、そんなやり取りをしている2人を光秀は不思議そうに見つめた。


「それはそうとさ。かおり、久遠とはさっき竹田の言ってた講堂で合流するの?」


「一応、最初の打ち合わせではそうなっています。そこで、彼から簡単に今回の事の内容についての説明があります」


「それで、その後に久遠が手配してくれた案内役の人にそれぞれこの施設を案内してもらうはずだよね」


「確か俺たちのクラスは光秀が案内してくれる手はずになってるんだろ? 」


「はい、そうなっているはずです」


 そんな2人の行動に構わずに、光秀はこれからのことを今まで自分の後ろ座って会話を聞いていた蓮花とかおりに対して話しかける。


「にしても久遠の奴もやるもんだな、自分からこんな役買って出るなんてよ」


「凄く緊張すると思うのに。久遠くんって、結構こういう役を引き受けてくれるよね」


「1年生の時からずっとそうなのよね。私も、学級員とか生徒会の仕事をするときによく一緒に仕事してたもの」


「雪ちゃんと久遠くんって、確か1年の生徒集会の役員選考会議の時に初めて知り合ったんだよね」


 1組の生徒が竹田に付いていっている様子を見ながら久遠のことを話し出す5人。光秀たちが話をしているとおり、久遠は普段は口数が少なく、他のクラスメイトと話すことは時々しかない。例外としてかおりや光秀たちなど極少数の友人の時は、口数も増え、自分のことなどを話したりする。そんな彼なのだが、こういった学校の行事などの人事には自ら率先して参加したりする。クラス内での厄介な仕事は自ら進んでやろうとする姿勢やその温厚の人柄に触れる中で、クラスの中では頼れる存在として認識されている。


「光秀さん、久遠さんのこともよろしいですが琴音さんはあの後どうなされたのですか?」


「かおりが竹田の奴に呼ばれて甲板からいなくなった後に、流石に限界そうだったから船室に運んだよ」


「光秀くん、琴音ちゃんが負けず嫌いだってこと知ってるから尚タチ悪いよ。……今は、保健部の先生たちと一緒にいる筈だよ」


「お前って、以外にサド的部分があるんだよなぁ~」


「光秀、流石にあれはやりすぎだと思うわよ。私が行って止めなければ琴音、今日1日動けなかったでしょうに。おまけに、琴音の負けず嫌いは折り紙付きだから、蓮花だけじゃ止めらないって知った上でやったんでしょ?」


「今では反省してるよ。ちょっとやりすぎたし、ちゃんと謝っておくよ」


 こいつ絶対に反省してないなと感じる返事を光秀は返す。船がグラウンドの港に着く前に、光秀たちは甲板で海の景色を楽しんでいたのだが(1名死にかけ)、琴音が余りにも辛そうだったので船内にあった簡易の医務室に運んで、その後は生徒たちの健康管理を見守るために付いて来た先生と別室にいる。


「お?……漸く俺たちの番か。」


「あぁ、漸く陸だぁ~」


「アンタ、どんだけ恋しいかったのよ」


 自分たちのクラスの順番を呼ぶ声が聞こえ、8組の生徒は立ち上がるなか、中年のおっさんのような声を上げながら享は立ち上がりそれにつれて光秀たちも立ち上がる。そして、彼等は前にいる7組の生徒たちの最後尾に2列になって付いて行き、現在のいる船室から船の外へと向けて歩き始めた。


「そう言えばかおり。船に乗ってここに来る途中にここから出たと思える本土に向かうタンカーはたくさん見かけたんだけど、飛行機あるの? こっちに来るときに一度も飛行機雲も飛行機の姿も見かけなかったけど」


「一応、島の奥に物資運搬専用飛行機と研究員専用の飛行機が両方使用している飛行場があります。ですが、規模が狭く研究物資やDT・ZTの部品、人の運搬はほぼここの港にくる船舶で行っているんです」


「確かに、飛行機使うよりも時間がかかるが多くの人や物資を積めるもんね」


 グランデルに来る途中、船の甲板から外を眺めているときに時折グランデルがある方向から沢山の貨物を積んだ船何隻も集団になって通りすぎたことを不思議に思った雪はかおりに質問する。施設が存在する島は海底火山の活動によって偶然地盤が海に盛り上がりその上に僅かながら陸地ができた事によって生まれた場所であり、その土地に目を付けた秋月が日本政府に掛け合って譲り受け、自らの専用の研究施設として島全体を改造し、大型研究島としてグラウンドを作り上げたのだ。しかし、周辺の空域は気流が激しく滅多に飛行機が飛び立てるような状態ではない。そのため、港のスペースを多くとった結果、飛行場を作るスペースが足りなくなってしまったのだ。


「はぁぁ~、やっぱ陸地は船みてえに何時も揺れてるわけではないから安心するぜ」


「確かに、享のさっきの言葉に同意だな。陸に足つけた方が落ち着くは~」


「言ったろ、安心するんだって。陸にいるほうが」


 8組の最後尾の方にいた光秀と享の両名は漸く地に足をつけることができたことにっよって若干の安心を感じ、背伸びをしながら同時にあくびをひとつ漏らした。青い空の下、彼等の周りを見渡せば、グラウンドに物資を運んできた貨物船が港に多数停泊しており、貨物を下ろすクレーンやクレーンから下ろされた積荷を運ぶトラックが忙しなく動き騒然としていた。


「スゲェ!!こんな光景、久しぶりに見たぜ」


「確かに、龍京堂はいくら東京にあるって言っても内陸よりだから。こんな光景、滅多に目にすることはないわね」


「この前のテストの問題でやった、横浜・大阪・福岡の港なんかよりも圧倒的に見えるな」


「この港は、日本だけに関わらず、中国や韓国、インドなどの国から届けられた研究用資材を運んできたタンカーも来るので小規模ではありますが万全の備えをしておりますので」


 興奮気味の一行に、港についての説明をするかおりの表情はとても笑顔だった。自分の祖父と同じ志を胸に秘めた祖父の部下たちが力を合わせて作り上げた物が自分の慕う友に喜んでもらえて、自分のことのように思えてくるからである。


「みんな、あれ見て!!」

 

 そして、そんな一同の中でも1番興奮気味の蓮花は港に停泊しているタンカーを指差しながら光秀とかおりの名を呼んだ。そして、その声につられた4人は彼女が指しているタンカーの方へ目を向ける。指された方向はタンカーが多くどれを指したのか一見わからないようではあったが、蓮花の指したそれは直ぐに見つかった。銀の装甲に日光が反射してその眩さが一層に増しているようで、光秀たちのいる場所から離れているのにも関わらずそれが見えていたからである。その輝きを放つそれは、大きな人の形をしていた。銀色の中世のヨーロッパで戦に用いられていた甲冑にも似た装甲を纏っており、龍の頭をしたそれには甲冑の銀と同じ色をした兜がつけられていた。


「あれはEUの企業連が開発したっていう、第3世代型のDTだったな」


「EU製 第3世代量産型DT ロイヤルナイト ですね。先日、叔父宛にEUの企業連の代表の方から機動性と運動性の両方の向上を依頼されていたのであれがそうなのでしょう」


「ロイヤルナイトって、EUが独自に開発して漸く完成した機体なのよね。よくライバル企業である秋月に、しかもその創設者であるかおりのお爺さんに直接頼む気になったわね」


「確かに、私もそれは不思議に思う。設計図や機動データーも一緒に渡されたんだよね」


「はい、改良を依頼された時に同時に送られてきました。お二人の疑問もごもっともです。その理由についてですが、後ほど祖父本人から私たちに説明があるそうです」


 8組の生徒たちの生徒たちは、見慣れない光景に若干の興奮を覚えつつこれからさらに待っているものに期待しながらグランデルの港から少し離れた、来客用大講堂に向けて歩いて行った。
















「「此方、海鳴り。鱗海丸、応答願います。通信に障害がないか確認して欲しい」」


「「此方、鱗海丸。通信に障害はないようだ。引き続きポインAがある深度まで潜水してくれ」」


「「海鳴り、了解」」


 先程の太陽の光がまばゆく地上を照らし出すような光景とは売って変わり、一気に暗闇と静寂が支配する世界に売って変わる。グランデルのある海域から一気に北上し、秋田近海の海底へと一旦舞台は移る。光の届かないその真っ暗な場所を、小さな光る物体が更に海の底深く、潜水していく。


「それにしても、よく上が調査を了承してくれましたよね。今まで散々拒み続けておいて」


「まあ、何かしらの裏があるのは確かだと思うけどね。それより、私は漸くこの調査をさせてもらえるだけでうれしいわ」


 光の正体である、小型潜水艦の中でひと組の男女が軽口を交わしながら、潜水艦の操縦席に座り、目標地点に向かって潜水艦を動かしていた。


「超先進文明、その起源への手掛かりが日本にあると分かってから早3年。超先進文明のことに関して記された古文書、「龍海歴」を死に物狂いで見つけ、そこから秋田の近海にあるとされる海宮と呼ばれる何かがあると分かったまでは、よかったが、調査しようとすると上の連中からは調査の中止請求が送られてくるし、おまけに日本政府からは圧力や調査妨害されるはで、本当に大変でしたよね」


「国連の管轄であるとはいえ、日本政府からの支援もあってやって来たわけだしね。向こうにもある程度口出すことは許されている訳だし、おまけに調査する海域が日本の近くの水域中だから仕方ないことなんじゃない?」


「森さんは前向きだからいいですよね」


「磯部くん、あんまり悩んでると老けるのが早くなるわよ?」


「性分なんで、仕方ないですよ。一昨日も同じこと嫁に言われましたから」


 他愛のない話を続けながらも、2人の操縦する小型潜水艦は更に海底に向かって潜水していく。彼等の会話を聞くとおり、彼等は国連が半世紀前に創設した地球上に存在する古代遺跡の発見、調査を専門にする専門機関であり、嘗て神霊地の遺跡を発見したのも彼等の所属する機関である。神霊地の発見以来、世界中に超先史文明の遺跡があることが発覚し、彼等の所属する機関を中心に世界中で発掘が進められている。今現在、彼らが深海に向かっているのもそれが原因である。


「お?そろそろ目標深度ですね。森さん、こっちは準備いいですよ」


「磯部くん。全カメラ機動。カメラ起動した後、まずポインAの付近にあるドームに向かうわよ」


「了解です。メイン、サブカメラ全機機動」


 潜水艦内の雰囲気が先程の和やかな空気とは一変して一気に緊張感が覆う。船内の明かりは消え、モニターやボタンの明かりが微かに2人を照らしていた。


「「此方、海鳴り。目標深度に到達しました」」


「「了解。それでは、ポイントR付近にある巨壁へ向かってくれ。恐らく障壁があると予想されるので十分に注意を払うように」」


「「うみなり、了解」」


「さてと、それじゃ行きますか。」


「磯部くん、くれぐれも岩礁や海底とかに当てないでよ。あの辺に行くまでの道、かなり地形が複雑らしいから」


「分かってますって。何のために、2ヶ月も前からシュミレーターに籠って練習やってると思ってるんですか」


「それもそうね」


 緊張した空気に関わらず、2人は常に軽口を絶やさずに叩き合いながら操縦桿を握る。そして、そこから伝わった情報に従って潜水艦も暗い海のそこを指定されたポイントに向かってスクリューを動かしながら潜水を止めて真っ直ぐに進みだす。潜水艦の周りの海底には、巨大な渓谷のような場所が点在し、かなり複雑な地形構造が見て取れた。そして、渓谷の間にできた僅かな隙間の中を見事な操縦技術を駆使しながら進んでいく。







我、海原にて悠久への印を見る。そこは、時のうねりの中に抗いし者たちの立ち寄る場。永遠の闘争に自らの身を投げ出す覚悟がある者のみに抗う術を与えられる。


「古文書の最初のページに書かれていた記述ね。どの国の古い記述にも超先進文明のことを悠久と記されている。けど、その殆どが全て神霊地への道を書いたものであって超先進文明の都があったとされる場所については何も書かれていなかったのよね」


「心霊地は、悪までも彼等が”アレ”を封印していた場所に過ぎなかったわけですし、それに関する資料が残ってたとはいえ、それは彼が生み出してきた物のほんの一部。彼等の全てそのものが残されている都については、今のところ何も分かってはいませんし」


 潜水艦の操縦桿のレバーを握り締め、不意に思い出したかのように森たちは言葉を紡ぐ。今回の調査の発端になった「龍海歴」の発見は、彼らがアドラスク国の遺跡を調査していた際に偶然その存在を知ることができたことから始まった。龍・歴の2つの文字とその間に自然界に存在する単語を入れた古文書には、超先進文明の重要地について書かれていることが多くある。日本の鎌倉で発見された「龍海歴」もその1つである。

いつの時代かは特定できていないが1人の旅人が秋田の地に趣いた時のことが書かれている。旅の途中に立ち寄った漁村に立ち寄った時に、遥か水平線の向こうに神々しいまでの立派な城が見受けられた。その城に興味を持った旅人は、地元の漁師に城のことを聞いたところ、先程、磯部が言ったような言葉がその地一帯の漁師の間で古くから伝わっていることを聞いた。その城の話を聞きながら、その旅人は興味などという言葉では表せないような感情を抱いた。あの城に行きたい、行かねばならない。使命感に似た何かが突如として旅人の中に湧き上がったのだ。そして、旅人は漁師の反対を押し切って自ら船を借りてその城を目指したという話が龍海歴の冒頭に書かれている。


「しかし、その途中で嵐にあって船は壊れてその旅人は海に投げ出されそのまま波に飲まれて海の底へと沈んでいった。ここまでは、昔話しによくあるような話だったから無視してもよかったのだけど、問題はその次なのよね」


「えぇ、この後の記述があったからこそこんな海の底まで来たんですからね」


 そう、その在り来りな日記のようなものがどうして問題になったのかというと、旅人が、船が壊れて海に投げ出されてからの話である。


我が身は海に投げ出され荒れ狂う海の底深く沈む。暗い海の底へと沈む時に漁師の忠告を聞いていれば良かったと後悔しながら底へと沈む。だが、海の底から凄まじい何かに押され我が身は界面へと押し上げる。その勢いは留まることを知らず天高く舞い上げ雲海への入口で止まる。そして、雲の裂け目よりそれは現れた。瑠璃色の羽衣を身に纏いし天龍。雲の裂け目から現れた天龍は、我に告げる。


ここより先、遥か先に起きる災いに抗いし者が立ち寄る場。資格無きものにここは通れず。悠久に眠りし”死する始祖”を纏いし者のみが、これより先に進むことが許される。死する始祖を纏う者、永遠の闘争に選ばれしもののみがこの地に訪れ、剣を得る。災いを撃滅することができる、(くもり)の名を持つ、我が守護する剣。汝は語り手に選ばれた。ここより、汝が死するまで語り継がせよ。この地は、悠久が死に絶えてもなお、死する始祖を纏う者を待ち続ける。この地は、悠久が残した全てものに通じる印が眠る場所。


「そうして、旅人はその話を聞いた後に気絶して気がついたら出発地点の海岸にいて、その後、頭の中に見知らぬ知識が大量に存在して、それと同時に後世にこのことを残さなければならないって使命感が起きた。そして、そのためにこの日記を残し、これを書き記した後、このことを広めるために各地を渡り歩いた」


「それで、その日記に記されていたのが“アレ”が着ていた鎧に関する記述とその生産方法の一部。そして、旅人が見たとされる悠久が作ったとされる何らかの施設とそこに存在するとされる悠久への道標である印と呼ばれる何か。これの記述が段味なものじゃなくて、今まで神霊地で発見された本資料と内容が一致したのよね。特に、鎧についての記述は神霊地の壁画に書かれてたものと同一だったのが1番の決め手よね」


 潜水艦の計器などに異常がないか念入りにチェックしながら森は、潜水艦を操縦している磯部に向かって語りかける。


「アレの記述を見たときは、本当にチーム全員が驚きましたからね」


 龍海歴の調査の時のことを思い出しながら磯部は話す。日本から何千キロも離れている神霊地に、立ち入ることもできなかった人物が書いた書物に同じことが書かれていたのだからその筋の知識を有している者が目にすれば当然の反応だろう。


「“死する始祖”。超先進文明が“アレ”の個体の中で、2番目に開発したとされる個体。あの古文書に書かれていることが確かなら、この先に不可視障壁があるかもね」


「“アレ”については彼等も最重要機密の1つとして扱っていましたから可能性としてはありえますね。主任もそのことが最後まで気がかりみたいでしたからね」


 今回の調査の中で、最も危険視されていたのが不可視障壁と呼ばれるバリアである。超先進文明は、自分たちの技術、その中でも自分たちにとって1番重要な技術がある場所には、目に見えない壁を貼り外部からの侵入を防いでいた。そのおかげで20世紀になるまで、長い間人の目に触れることなく存在することができたのだ。


「本部の話じゃ、障壁には電子機器を狂わせたりするタイプやまっすぐ道を進んでいたはずが何時の間にか元の方向に向かって歩いてしまう迷路タイプなど色々なタイプが存在するらしいですからね」


「バミューダに調査に行った主任の友人のチームがそのせいで死にかけたからね。今回の調査、本当に何事もなければいいのだけれど」


「森さん、そろそろ目標地点周辺です。障壁が存在するならそろそろ専用探知機に反応がでる筈です」


「磯部くん、慎重にね。障壁に捕まって沈没なんて勘弁よ」


 潜水艦内に取り付けられている障壁用探知の特殊なレーダーに何か変化がないか確認する森。磯部は、その様子を横目で見ながら潜水艦のスピードを段々と下げていく。障壁に引っかかってしまった場合、機械トラブルなどが発生して潜水艦の操縦がきかなくなる場合や障壁に潜水艦が触れた瞬間、船体そのものが破壊される可能性があるからだ。これまで以上に注意を払いながら進んだ。潜水艦は入り組んだ渓谷地帯を漸く抜けて岩壁など何もない平野地帯を進んでいく。




「磯部くん、さっきから探知機に何の反応もないんだけど……」


「こっちも、機器に不具合があるなんて警告もこないですね。何より、障壁にすらぶつかりすらしてませんよ」


「……なんか、こういうこと言うのもベタなんだけど、気味が悪いわね」


彼らを乗せた潜水艦は長い渓谷を抜けてそこから平野を直進していたのだが、やがてドーム状の巨大な岩の壁が確認され、その前までたどり着いて潜水艦は止まる。しかし、彼等はここまで来て、本来あるはずの障壁にぶつかることもなかった事に対して疑問を感じていた。


「磯部くん、ドームの中に通じる亀裂はこの付近からどれぐらいの位置にある?」


「今いる場所から考えてこの壁を右伝いに200m行った場所にあるはずですよ」


「そこって、確かこの大きさの潜水艦が漸く通れるくらいの大きさしかないはずよね」


「えぇ、龍海歴の記述が正しければ、彼らが使ったとされる海亀と呼ばれる潜水艦が丁度通れるくらいの大きさの筈ですから。海亀とうみなりの大きさは同じですから、通るには問題無いはずですよ」


「……取り敢えず、先に進みましょう。ここにとどまっていては何もわからないでしょうし」


「分かりました、速度を鈍速にして進みましょう」


 僅かな疑問を抱きつつ、取り敢えずの所先に進まなくては状況は進展せずと考えた2人はそのまま潜水艦をこの岩のドームの中に通じるとされ亀裂がある場所まで移動させることにした。そして、数分して彼らを乗せた潜水艦は亀裂の前までたどり着いたのが、その状態を見て2人は再び思考の海に落ちることになる。



「……これは、厄介なことになりましたね。なんっすか、これ」


「……」


 自分の同僚の慌てた声に聞きつつ、森は今目の前で起きている状況を整理しようとしていた。確かに、彼らの調査通り岩壁には亀裂が存在した。しかし、彼が驚いているのはその亀裂の大きさだ。小さな小型潜水艦が通るのがやっとだとされていたが、今目の前にある亀裂の大きさは全く異なるものだった。原子力潜水艦でも安安と通ることのできるような大きさなのだ。しかも、彼らを悩ませたのがその亀裂の壊れかただ。明らかに自然に壊われたような壊れ方をしていないのだ。それの壊れ方は、まるで、ここを何かが通るためにこの亀裂を無理やり広げて通りやすいようにしたかのようであった。そして1番彼らにとって悩みの種がある。それは、この亀裂の壊れ方や周りの砂のつもり具合の様子から考えて、まだ壊されてから余り時間が経っていないということが分かったことだ。


「……磯部くん、一応確認するけど、ここに来る間、ソナーには何も映らなかっし、海面上で待機している鱗海丸からもそれらしい通信は入っていない。加えて、龍海歴に書いてあった記述通りならこんなに穴は大きくない、合ってるわよね?」


「森さんの言うとおりです、チームみんなで俺らが潜水艦に入る前に確認したんですから。それに、この海域は現在我々のチームの船や潜水艦以外立ち入り禁止になってるはずですよ。もし、何か異変があったなら鱗海丸の方で確認して、此方に連絡が来るはずです」


「……何の異状もないはずなのに、穴は大きくなっている。しかも、明らかに自然的な壊れ方ではなく、壊れ方や周りの様子を見る限りまだ壊されてからさほど時間は経っていない。これらのことから推測するに、ソナーにも反応しなかった何かがここを通って中に入った。しかもポイントAの付近にまだいる可能性が高いってことよね?」


「……」


 無言の肯定だった。森の言葉に、磯部は背中に嫌なものを感じた。他国の潜水艦などなら海上にある鱗海丸で確認さているはずだし、うみなりに付いているソナーにも反応するはず。だが、鱗海丸からそのようなこと報告されているわけではない。ましてや、船内にあるソナーにすらそのような物が映ってはいない。だが、それとは裏腹に、何かがこの亀裂の中を通るために壊したという物的証拠がある。それらの要因によって森たちは、暫くその場所で問答を続けることになる。


「“アレ”なら、スクリューの音も出ず、この深度の水圧にも耐えることができ、尚且つかなりのスピードを出しつつ、ソナーに気づかれずに、静かにこの地点にまで来ることが可能だけれども……」


不意に森は、そう口にした。しかし、磯部はその言葉を聞いた瞬間、顔の色は徐々に悪くなり慌てた様子で森に返事をする。


「ありえないですよ、森さん。 “アレ”は第3次の時に連合によって完全に破壊された筈。仮に、“アレ”がまだ破壊できてなくて存在するとしても、適合者無しでは動くことは不可能です。先日、森さん自身が言ったことじゃないですか」


「……そう、よね。確かに、“アレ”はあの戦争で破壊されている。私も、その証拠を主任に見せてもらったからそれは確かだと思う。それに、仮にあの総攻撃の時に運良く破壊されていないにしても適合者の年齢がその当時25歳だったっていうのは、主任と私の調べで分かってることだし。今、生きているとは考えにくいわね。“アレ”の適合者は、誰であろうと25の歳になったら、死ぬ運命にある。これは適合者の生命力を燃料として使っているからってのも、この前の調べで分かってることだしね」


「去年の調査で新しく分かった事で、まだ裏は確実には取れていないとはいえ、あの神霊地の壁画に書かれていたことですから、多分事実だと思いますよ」


「それもそうね、何か変な心配させてごめんね磯部くん」


 同僚であり、大切な仕事のパートナーを心配させた事に対して素直に謝る森。しかし、磯部に対して森は嘘をついていた。自分の脳裏に過ぎった存在、その存在の最期を、証拠を渡されてから知ったのではない。その存在が滅びるその瞬間に立ち合ったから知っているということ。自分の脳裏に過ぎった懸念も、自分の中でひとまず納得させて落ち着かせようと、鱗海丸に対しての定時報告を行う為に通信を行う。


「「こちら、うみなり。鱗海丸、応答してください」」


「「こちら、鱗海丸。予定の時刻より遅く連絡してきたが、何かあったか?」」




 一瞬の空白、森は今目の前に起こっている状況を報告しようかどうか迷った。何故なら、先程抱いた懸念が未だに納得しきれていなかったからである。もし、自分の推測が正しければ、今、この亀裂の先にある場所では、自分がその最期を無力を感じながら助けられず、見届けるしか無かった筈の存在がいる。しかし、それとは裏腹にその存在との出逢い、自分の心の中にはずっと火種のように、くすぶる何かが存在していた。単なる興味とは、全く違う感情。彼女のその感情を表すのであれば、龍海歴を書いた者が、海の遥か彼方にあった巨城を目指した時と同じようなものだろう。


「「いえ、予定のコースの再確認を行なっていて遅くなりました。障壁も無事に通化することができましたが少しコースからずれてしまい、調整していました。申し訳ございません」」


「「とにかく、そちらに異常がなければひとまずの所安心だな。そちらの現在位置はドームの前でいいのだ」」


「「はい、目標のドームの亀裂の正面まではたどり着いています」」


「「こちらでは大まか位置の特定できても正確な位置は分からない、なるべく通信の時間は守ってもらいたい。では、改めてポイントAに向かってくれ。何かあったら直ぐに報告すること」」


「「うみなり、了解」」


 そう通信し終えると、通信を再び切り自分の前にいる磯部に目を向けた。その時、彼の顔には、若干の戸惑いと諦めたような感情が入り混じっている表情をしていた。


「よかったんです?今の状況を報告しなくて。まあ、今の森さんの顔を見ると何時もの悪い癖だなと察しはつきますが」


「ごめんね、磯部くん。何時も、引っかき回しちゃって」


 森は、今まで長い間、遺跡の調査を共にしてきた大切な相棒に向かって静かに告げる。彼女のその無茶ぶりとも取れる行動を何回も見てきた磯部は、その言葉を背中で聴き、そのまま磯部は操縦桿を握る。


「帰ったら、また何時ものように朝まで飲みに付き合ってくださいね。勿論、森さん持ちで」


 そう言いながら、磯部は操縦桿を前に倒して、潜水艦を亀裂の中へと進めていく。その言葉を聴き、森は笑みを浮かべていたということは言うまでもないだろう。再び、自分たちの周りになにか反応がないかどうか再びソナーに目をやる。

 2人を乗せた潜水艦は、スクリューの音をたてていよいよ亀裂の中へと進んでいく。ライトに照らしながら、まだ見ぬポイントAにあるとされる、伝説の巨城を目指して……。


























“よくぞ、よくぞここまでたどり着いた”




“我、主”





“今日と言う日を遥か古より待ちわびていた”

















 言葉が発せられた。長い時の流れの中で、誰からも忘れ去られたその場所で、その存在は来るべき戦いに備えてずっと待ち続けていた。自らと共に抗う資格のある者を。



“契約は、今、交わされた”


喜び


“今の時より、汝と共に歩もう”


進むという意志


“汝が、自らの役目を知り、永遠の闘争へとその身を投じてからも”


永遠の誓い


“我は、汝の剣であり、汝の盾であり続ける”


最期の時まで


“さあ、共に往こう”


共に


“我らの戦場(ばしょ)へと”


戦い続ける


“我が名は、曇”


明確なる


“死する始祖を纏いし者の剣である”




覚悟









 神殿の奥深くで横たえていた巨龍はそう告げた瞬間、龍の身体から光を放たれ始め、光を放つ粒子に分解されていく。その光は、今まで暗闇に包まれていたその場所を神々しく、それでいて優しく照らしていた。その光に、巨人が照らされる。あらゆる感情を含みながら、やがてその粒子は、巨人の大きさに見合うだけの何かへと姿を変えていく。そして、その光の粒子の塊へ巨人の手が伸びていき力強く掴み取る。その瞬間、神殿の暗闇を照らしていた神々しい光は一瞬のうちに消え失せ、再び神殿の中は静寂に包まれた。










「磯部くん、亀裂から抜けるまであとどれくらい? 」


「あと100mくらいです」


「カメラの感度を上げる必要があったら言ってね。こっちの方で処理するから」


「分かりました。森さん、ソナーに何か反応はありましたか?」


「今の所、大丈夫みたいだけど……」


 森たちを乗せた潜水艦は、狭いと予想されていた亀裂の中を慎重に進んでいた。狭くて岩壁に当たらないようにゆっくり進むのではなく、何かに警戒しているかの如く、壊されて大きな道になっている亀裂の中を進んでいるのだ。


「森さん、出ますよ」


「磯部くん、気をつけて……」


 あえて、何に気をつけろとは言わなかった森。磯部も、何に気をつけろというのは、大体分かっているように思えたからである。磯部自身も、その事を理解していた。段々目標に近づいてくるにつれて操縦桿を握る磯部の手に力が入る。そして、ソナーの隣にあるサブカメラ用のモニターを通して外の様子を緊張しながら見ていた。

 光が無く、だだっ広い空間に不意に光が灯る。森たちを乗せた潜水艦の光が暗く広い空間の中を照らす。


「……磯部くん、うみなりの下、50mに構造物のようなものがスキャンできたわ。確認して」


「ライト、向けます」


 ソナーとは別に取り付けている地形などをスキャンするモニターに反応があるのに気づき、森は磯部に声をかける。その言葉に反応し、磯部は外付けのライトを潜水艦の下方面に向けた。そして、そこに広がっていた光景に2人は自分の目を疑うことになる。


「……わお~。此奴は、驚いたっすね」


「磯部くん、流石にもっと他に言葉あったんじゃない」


 ライトに照らされて現れたものに、森たちは驚愕する。それは、森たちがよく知っているものであり、自分たち人間が生活するために必要な、決して海の底などにあるはずの無いものがあった。


「街、みたいね。それも、かなりの大きさの……」


 そう。彼等の乗るうみなりの眼下には、巨城などではなく街があったのだ。そして、1番森たちが驚いたのがそこに映っていた建造物郡だった。その建造物郡は嘗て、森たちが神霊地の調査を行った時に確認できたものと非常に似ていた。それは、自然界に存在するあらゆる物質から、生活するための道具、戦うための武器など様々な物を生み出すことのできるもの。即ち、工場である。カメラから送られてくる映像に映るその殆どの建造物が、神霊地で確認された超先進文明が建設し、使ったとされる何かしらの工場なのだ。それが、カメラから送られてくる映像一杯に埋め尽くしていたのだ。こんな海の底深くにあること自体、ありえない事ではあったが、さらに問題になることがあった。それは、街の大きさだ。小さな街よりも遥かに大きい。それは、最早都市だといっても過言ではないくらいの大きさだったのだ。


「スキャンで街の一部を確認したけども、何らかの工場と思われる建造物の数、200は超えてるわね。……さながら、海底工業都市(アトランティス)のように思えてくるわ。こんな物が日本にあるなんて、世界が知ったら、日本もあの国と同じ道をたどるかもしれないって上の連中や日本政府は考えたのかもしれないわね」


「確かに、こんなものあると政府がある程度把握していたとすれば隠したくなるもの無理ないっすね」


 しかし、この時、森の頭には1つの不安が過ぎっていた。これだけの規模の物をいくら海底であるとはいえ、今の一度も発見さていないのはおかしいと考えたのだ。仮に、此処に来る途中に、障壁などが確認されていればこんな疑問もわかなかったのであるが。自分たちが此処に来る途中に障壁などは、一切なかった。しかし、障壁が今まではられていなかったのではあれば、海底に存在するこの都市を覆うかのように存在するドームのような不自然な地形は、何かしらの勢力たちの手によって発見されているはず。


(もし障壁が、私たちが通り来る前まで、正常に貼られていたとすれば……)



 最も考えたくない、認めたくないことが森の頭の中に過ぎる。それは、自分がこのドームの中に入る時に、脳裏に浮かんだことだ。










悠久に眠りし”死する始祖”を纏いし者のみが、これより先に進むことが許される。







 龍海歴に記述されていたその1文が更に森の考えを際立たせた。もし、自分の立てたこの仮説が正しいのであるならば。この先には……、


「……磯部くん、慎重にいくわよ」


「……分かりました。森さん、ソナーに何か反応があったら知らせてください」


 そして、暫く自分たちを乗せた潜水艦の眼下に広がる光景に圧倒されていた2人であったが気を取り直して、潜水艦を海底に広がる都市に目掛けて進めていく。その様子を、彼等の乗った潜水艦の遥か先にある巨大な城のような場所から見つめる2つの赫い光に気づかずに。


 潜水艦が、街の中にある道路と思しき場所に来て、森の近くに取り付けられている熱探知の機械がけたたましく鳴り響く。


「熱源探知に反応あり!!!この街の地下100mの場所から膨大な熱を感知!!! 」


 その言葉が発せられると共に、潜水艦が、ひいては海底にある街全体が激しく揺れ始める。尋常ではない揺れの強さに、潜水艦が激しく揺らされ、中にいる森たちも必死になって座席にしがみついている状態だ。


「こんな時に地震ですか!!! 」


 磯部は、何とか潜水艦が海底と激突しないように操縦桿を操作しようとするが、揺れが激しいため全く手につかない状態であった。潜水艦の激しい揺れでのせいで、船内に置いてあった小道具が散乱する。


「ちょっと待って!!!深度メーターの様子がおかしい!!!」


 揺れる視界の中、たまたま目に入った潜水艦のいる深度を指すメーターが急速に動いている事に気づく。メーターにある針が、数値の大きい方から小さい方へとゆっくりではあるが着実に動いているのだ。


「ふ、浮上してる!!! 」


「森さん!!!海底に上手く着地します。このままじゃ、海底に激突してお陀仏です。衝撃に備えてください」


 磯部はそう森に叫びながら、激しく揺れる船内で何とか操縦桿を握り、海底に着いた時に船体の底に穴が空かないように慎重に潜水艦を操作する。しかし、激しく揺れる船内でそのような操縦をするのは当然無理ありで、森たちを乗せた潜水艦は不規則な動きをしながら海底に激しく激突してしまう。


「ぐっ!!! 」


 おびただしい砂煙を巻き上げながら、かなりの勢いで転がっていく、うみなり。そして、その衝撃が森たちに一斉に襲いかかり、ベルトを付けているにも関わらず座っている席から飛び跳ねかけた。


「……っいたたた。何とか無事なようね」


 先ほどより、船内に伝わってくる振動が小さくなり、森は、冷静に潜水艦に異常がなかったかを調べる。どうやら、潜水艦が落下した場所が柔らかい場所だったらしく潜水艦の底に傷が入っただけで、穴が空いて沈没するようなことは何とか回避できた。


「磯部くん、大丈夫?」


 衝突の際に、操縦席の角で頭をぶつけためにくる鈍い痛みに耐えながら森は、操縦席に座っている磯部の様子を見る。磯部は、息先程の衝突の際に森と同様に何処かで頭を打ったために操縦桿の横にある台に頭をつけて気絶しているようだったが、規則正しい呼吸音が聞こえてくることから、一応の所は無事なようであった。

 その様子を見て、安心した森は、大きく息を吐き出す。取り敢えずの所は、危機を脱したようではあった。

 しかし、そんな2人の様子を他所に、深度を指すメーターは依然として上の方へと移動し続けていた。


(サブはダメね。さっきの衝突で完全に逝ってる。ライトもメインは、画像が乱れてるけど何とか撮れそうね。けれど、ライトが死んでるみたいだから、何が写ってるか完全に分かんないわね)


 磯部が無事な事を確認すると、現在のうみなりがどの程度の被害を受けているか、森はチェックを行う。先程の激突で、うみなりの本体にはさほど大きなダメージは負わなかったのだが、船外に取り付けられている、ライトとサブカメラは破損したらしく完全に使えなくなっており、辛うじてメインカメラが作動しているだけであった。


「それにしても、さっきから一向に収まる気配のない、この振動は一体何なのよ?」


 森は自分の頭の中に浮かぶ疑問を解決するべくチェックを行なっている画面を、メインカメラに切り替え外の様子を伺う。映像は乱れてはいるが、うみなりの落下地点周辺にある建物が映った。


(……ん?あれは)


 その映像を見て、彼女は周りの様子が明らかにおかしい事に気づく。うみなり周辺の建物の下から大量の水泡が上に向かって溢れ出していたの。しかも、森は気づかなかったがこの時、この海底都市全体の建物から同じような現象が起こっていたのだ。


「もしかして……、この街そのものが!!!」


 先程からくる浮遊感覚のようなもの、深度メーターの異常、うみなりの周りにある建物の様子から森はある結論を導き出す。


「そんな!!!有り得ない!!!」


 彼女は否定しようとしたが、彼女が導き出した結論は間違ってはいなかった。そう、今現在、森たちのいるこの海底都市そのものが何らかの要因によって海上に向かって浮上しようとしているのだ。


(でも、何故!!!まさか、これがこの遺跡にあるトラップとでも!!!いや、それなら私たちが此処に立ち入る前に何らかの事で作動していたはず……)


 数々の思考が森の頭の中で錯綜する。もし、これが先進文明が残した罠だとするならば森たちを乗せたうみなりがこの海底都市があるドームに侵入する前か、侵入した直前に作動していた筈。しかし、ここまで森たちが侵入しているにも拘らず、今の今まで罠と思われるもの一切無かった。つまり、この揺れは罠ではないということだ。


(だとしたら、この浮上は……)


 自分の疑問が晴れないまま悶々としている森。そして、その疑問を解決するべく、モニターに目を向けようとしたが……





















 凍りついた。そう、文字通り息をすることも忘れ、体の全てが機能を停止したかのように、森は動くことができなかった。

 人は強大な死を感じた時、恐怖で身体の全てが動かなくなることがある。今の彼女は、まさにそれだろう。

何故なら彼女の瞳の中には、大きな2つの赫い赫い丸が映っていたからだ。ライトの光でもなく、もしてや海中に差し込む太陽の光とも違う、大きく、冷たいその巨大な2つの丸。そう。彼女は、メインカメラからモニターに送られてくるその光景を見て、固まっていたのだ。そして、その巨大な丸は、メインモニターの画面から途切れることなく、まるで森を冷たく見つめるかの如く存在していた。










殺そうと思えば、殺せる





 赫い丸の持ち主はそう思った。今、自らの目の前に転がる鉄の塊を砕けばいい。そうすれば、自らが此処にいたことは知られることはない。見た者は消す、譲渡手段である。赫い丸の持ち主は、自分の背にあるものを掴もうと手を伸ばす。


 だが、何故だろう。今目の前にある、これを壊してしまえば……。赫い丸の持ち主の頭の中に突然とそのような感情が湧き上がった。最早、捨て去った感情。それが、今自らの中に込み上げてくる。とうに忘れ去った感情。それが、自分の中に流れて始めているのを感じていた。



もし、アレを壊してしまえば



 そして、赫い丸の持ち主は、自分の背にあるものを掴むのを止めて再び思考の海の中に自分の意識を集中させる。

 此処に来たのは、何故か。此処には、奴らに対抗する力があるからだ。だから、ここへ来た。力は、確かなものだった。それを手にすることもできた。では、次に何をする。もう、決まっている。奴らの、居場所を知るものがいるからこそ、この国に来た。ならば、もう此処に要はない。

 そして、赫い丸の持ち主は考えるのを止め、目の前にあるうみなりに背を向けて街の端にある岩壁に向かって、突進した……。




「なんで、どうして……」


 突然の轟音と先程よりも大きな地響きによって、森の意識は戻り、彼女の身体も再び活動を始めた。しかし、当の本人はそんなことなど、どうでもよかった。息苦しさも、張り詰めた緊張感も、今の彼女には関係が無かった。彼女は、天井を見つめながら、小さくしかし確かな声で言葉を紡ぐ。あの丸。いや、あの瞳を見た瞬間から、それが一体何なのか、彼女の中には答えが出ていたのだから。


「聖、火……くん」


 その言葉を薄れゆく意識の中で呟く。自分が裏切ってしまった、見捨ててしまったその存在の名を、彼女は最後まで言い切り、意識を深く沈ませていった。






「こちら、鱗海丸!!!うみなり、応答しろっ!!!おい!!!森!!!磯部!!!応答しろ!!!」


「うみなりの信号、以前として戻りません!!!」


「熱源、更に上昇!!!間もなく、浮上してきます!!!」


 森たちが、海底での出来後に巻き込まれている頃、海上で停泊している鱗海丸に乗るクルーや遺跡の発掘メンバーたちは慌ただしい状況に陥っていた。数分前から、鱗海丸に取り付けられているレーダーから、うみなりの信号が消え、通信もロクにできなくなっていたのだ。


「信号は、未だに見つからないのか?」


「ダメです!!!完全に反応ありません!!!」


 船のブリッジの中で、森たちの上司である主任が船のクルーにうみなりからの何らかのサインが無いか確認する。しかし、彼等の努力も虚しく、うみなりからの反応は、今のところ何もなく、混乱は更に悪化していた。


「船長、うみなりの最後にロストしたのは、ポイントAの付近でしたよね……」


「えぇ、貴方かが部下の方との通信を終えた直後からですから、間違いないです」


 主任は横にいた、この船の船長と状況を確認する。このままでは、自分の部下の命が危ないかもしれないだけあって、口調は落ち着いているものの内心はかなり焦っていたのだ。しかし、そんな状況の中、彼等に対してさらなる問題が発生する。



「船長!!!熱源、浮上してきます!!!」


「全乗組員に次ぐ、衝撃に備えろ!!!」


 先程、うみなりの信号が消えて少し時間が経ってから、ポイントA、つまり森たちのいるドームのある地点から突如として膨大な熱源が発生して、それが海底から海上に向かって浮上していたのだ。


「来ますっ!!!」


 乗組員の誰かが、そう叫んだ瞬間、彼等の乗る鱗海丸の前方に広がる海が盛り上がり、それによって発生した巨大な波のうねりが鱗海丸に襲いかかる。

 様々な叫び声が響き渡り、船内では、必死になって何かしがみついて転げないように乗組員や、チームの面々が耐えていた。そして、そうした状況が、数分間続いた後、船が漸く再び安定した状態に戻る。


「うぅ、全員怪我はないか!!!状況を報告しろ!!!」


「先程の揺れで、レーダーが一時的に使用不能です!!!」


「乗組員含め、チームの人員も全員無事です!!!」


 先程の事で、何か被害が無いか様々な報告がブリッジの中を駆け巡る。幸いなことに、怪我人は出ておらず、レーダーなどの機器が一時的に使えなくなっているだけですんだ。


「何とか、無事なようですね」


「えぇ、転覆を免れることができました。クルーからの報告で、今のところ怪我人も出ていないようですし。危機は、何とか脱しましたね」


 先程の揺れで、床に座り込んでいた主任は船長の手を借りながら、よろめきながらも立ち上がった。


「せ、船長!!!」


 すると、船員の誰かが、まるで信じられないものでも見たかのように、うろたえながら声を出した。


「し、島が!!!いや、違う!!!本艦の前方の海域に街が!!!」


 突如として、その報告が入るやいなや首に下げていた双眼鏡を手に取り、ブリッジの前方に取り付けてある窓の付近まで走り出て、双眼鏡を前方の海域に向けながら覗き込む。そして、その船長の行動と同時に主任も同じく首にかけてあった双眼鏡を手に取り前方の海域を見る。


「そ、そんな!!!ありえない!!!何故、あんな場所に街が!!!」


 そう、彼が言うのも無理は無かった。そう、先程まで何も無かった海域に突如として巨大な街が出現しているのだから。船員も、その光景を見て、完全に言葉を失っている状態だった。しかし、そんな中、冷静に言葉を紡ぐ人物がいた。


「なるほど、あれが、上の者たちや日本政府が隠していたものですか。なるほど、隠すほどのものであるとも頷けますね」


 主任は、今自分たちの前に広がる街が、ポイントAにあるとされているもので、自分たちが探していたものだと確信していた。静かに言葉を紡ぎながら、これから起きることを想像しながら更に言葉を紡ぐ。


「これから、忙しくなりそうですね……」


 そして、彼等の前に、謎の街が現れてから少しの後に、彼等を乗せた臨海丸は出現した街に向かって、動き出したのであった。





 この翌日の新聞で、この出来事は世間の目に大きく知れ渡ることになるのであった。ある1つの悲劇と共に……。


はい、以上が今回の話です。全く、進んでいません。本当に申し訳ないです。私の力不足です。


今回、何故更新が遅れたかというと、大学での激しい生活と住居の引越し、その他もろもろの事が重なり、疲れとストレスから軽い鬱病にかかっていました。


本当にすみませんでした。こんな、ダメな作者ですがこれからも何とか頑張りたいと思います。更新速度も、何とかして上げたいですが。とにかく頑張ります。


何か、意見や間違いの指摘などがありましたら感想欄の方にお願いします。


では、また次回の更新でお会いしましょう!!!



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