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咎人よ龍であれ 出逢いの章  作者: マダオ万歳
2/6

時計は再び廻り始める

え~、皆さんお久しぶりでございます。


マダオ万歳です。


受験も無事に終わり、希望していた大学に無事通ることができました。


後期試験、頑張った甲斐がありました。


そのせいで、更新ができなくなり半年の年月が流れてしまい誠に申し訳ございませんでした。おまけに何時もより短めです。本当に申し訳ございません。私の力不足です。


しかし、この物語は確実に完結させます。


その為に、未だ試行錯誤の段階ですが気長にお付き合いしてもらえれば幸いです。


それでは、色々とご迷惑をおかけしましたが第一話です。


どうぞ、お楽しみください。

 



 1945年。第二次世界対戦集結後、連合国の加盟国は原子爆弾の圧倒的有害性を考慮して、来るべき第三次世界大戦のためにより効果的な兵器の開発を考え、より人間と同じように行動できる兵器、人型機動兵器の研究に着目しその為の研究が主流となった。だが、この当時人型機動兵器の基礎理論が殆ど確立されていなかったためその成果は著しくなく、その研究自体の存続が危ぶまれていた。


 しかし、1970年、国連に所属する古代の遺跡の発掘や調査をする機関が20世紀まで、人類が未だ訪れたことの無かった未開の地「神霊地」の遺跡の奥地にて封印されていた、全高40メート強はある、頭部が神話で出てくるような龍の顔が模され、その身を鎧で纏った石化した巨人が発見され国連によって回収されたことにより、硬直状態だった研究は新たなる進展を見せた。さらに遺跡の調査が進められる中、この巨人が古代の超文明が特殊なテクノロジーによって当時地球上に存在したとされる巨人型生物をサイボーグ化させた、霊龍神器という物であることが明らかになった。また、これと同時期に古代エジプト文明期の王家の墓から他の生物の体内に根を伸ばし寄生することで成長し、霊龍神器の駆動系などで使われていた(のちに発覚)寄生植物の種が発見された。


 この存在によって直ぐに連合国を中心とした国連の常任理事国はこの石像を元にした機動兵器の開発に乗り出そうとしたが、前回の大戦のような惨劇を恐れた国連の一部の機関は、国連の平和維持委員会の監視の下、委員会が選択した科学者や技術者によってしか開発・研究は行われないこと、そして来るべき宇宙への進出を目的に開発することを第一条件として、開発を義務付けた。1991年、この年に初めて人類は、この石像の巨人、霊龍神器を基に生み出された特殊人口筋肉と特殊人工心臓。さらに寄生植物に遺伝子操作を加えて生み出した種にナノマシーンを組み込ませて生まれた、コンピューター制御可能な機械寄生植物マンドラゴラと、古代に絶滅した龍の体の一部と人工骨をメインフレームに使用して生まれた大型人型機動物 機械龍神器 ドラゴン・タクティカル(DT)開発に成功した。


 しかし、兵器としての理由ではなく来るべき宇宙時代のために作られたのでDTに関する全てのデータは国連の平和維持委員会のデータバンクに収められることになり、さらにDTの製造も委員会によって規制された。だが、データを奪取しようとする勢力が多数いたため、その勢力の対処のために特別にDTを兵器としての運用を許された国連の平和維持委員会直属の直属部隊「アース」を設立し、彼等によって対処させた。



 同時期、当時食糧危機やDTの開発などによって世界の軍事バランスが不安定になったために、アメリカとソ連が冷戦状態の中にあり、いつ両者が武力による戦争を始めてもおかしくない状況であった。


しかし、1993年、国連の平和維持委員会のデータバンクに保存されていたDTに関するデータが何者かの手によって全世界に流出、さらに傭兵部隊の「アース」の裏切りによって国連の平和維持委員会の幹部が暗殺されてしまう。そして、その後、「アース」は行方を晦ましてしまい、この事件、後に「世紀末始動事件ノストラダムス」と呼ばれるようになる事の結果により、流出したデータを独自に入手したに米ソ両国は戦争のためDTの生産に乗り出し、世界のパワーバランスも大きく崩れてしまう。


 この事件が起きてから数年が経ち、1998年にアメリカ中心の「西側」とソ連中心の「東側」によって第3次世界対戦が勃発した。


 両陣営の戦いは、泥沼化し当時両国の中間位置にあり永世中立国であったエルドラ王国本土へと戦火は移っていった。何故、戦いの場がエルドラ王国に移ったのかは、現時点では両陣営は情報を開示しておらず不明である。その結果、永世中立国であったエルドラ王国は、西陣営と東側陣営、そしてエルドラ陣営側の三つ巴の激戦地になった。


エルドラ王国では、兵士を強くするため幼少の頃から濃密な軍事訓練と精神教育がなされていたため兵士の個々の能力が高く世界水準での兵士の能力とでは差が大きかった。そのため両国との激しい戦闘にも関わらず、少ない戦力で百万規模の軍と長い期間戦うことが出来た。この事により、西側、東側は大きな犠牲を出した。


 戦いが長期化する中、1999年エルドラ国王の突然の乱心によってエルドラの軍は壊滅、国王はその後、突然の急死により状況は一変した。これと、同時に両国陣営はエルドラ国本土を高い壁で覆いその上空に特殊な雲を発生させ内部と外部とを完全に遮断した。


 これらの原因はエルドラ王国が劣勢状況を打開するために生物兵器を使用したためだと言われているが、その後、指導者である王を失ったエルドラ側は急速に抵抗力を失い、多くの民間人を巻き込みながら戦いはその後2年半の間続けられた。

しかし、エルドラ王国首都のセカンド・ジパングでの戦闘の際、そんな彼等の前に突如として石化していない8機の霊龍神器が現れ襲いかかってきた。百万近くいた両軍勢は一夜の内にその圧倒的力の前に壊滅寸前までに追い詰められエルドラ王国からの撤退を余儀なくされた。


この戦いは後に、「第一次エルドラ侵攻」と呼ばれるようになった。


 

 そして、6年後の2007年に霊龍神器の破壊を目的に「西側」と「東側」は和解、連合軍を結成した。またエルドラ王国と交友関係が深かった日本は、米国との同盟のためにこの戦いに同時に参加していた。


 戦いは、苛烈を極め3年間続き、最期の大攻勢において、生き残っていた霊龍神器の最期の1体の破壊に成功し、第3次世界大戦は2010年8月1日をもって終結した。


 この戦いは、連合軍兵士、数百万人という大きな犠牲を払ってしまったが、連合軍の勝利として集結した。この戦いにより事実上エルドラ王国は、その民族を含めて滅亡した。この原因として、生物兵器の汚染が拡大、感染して多くの犠牲者を出した事が挙げられる。しかし、全てのエルドラ人が死亡したわけではなく、海外に亡命していた者たちは、その国の特別保護下に置かれて、生活している。この第3次世界大戦という大きな戦いを経て結果的に人々は互いに歩を寄せることになった。

 その後、平和の象徴として新国連の本部がエルドラの首都に置かれ、この戦いに関するあらゆる事実を全世界に向けて発信した。そして、この戦いによってまとまった世界は、新国連を設立し戦争の惨禍で傷ついてしまった物に対する支援と復興に取り組むことになった。

 また日本はこの戦いにおいて多大なる功績を収めた事を認められ、新たに国連の常任理事国に加盟された。




「先生、エルドラ国内で生き残った現地人はいないのですか?」


「残念ながら殆どの民間人は当時に使用された生物兵器によって犠牲となりましたが、早い段階で連合軍に投降したりしていた人達は助かりました。その他にも生き残った人々が少なからず存在したのですが、マインドコントロールを施され、無理やり戦わされていたとされています」


 とある高等学校の教室で、授業を受けている生徒と教師でそういった会話が交わされる。昼食を食べ終えて授業を受ける生徒たちの眠気をさそう午後の日の光が、窓を覆っているカーテン越しから少し漏れ、教室の窓側の壁に掛けてある6月の日付が記されているカレンダーを照らしていた。


「先生、マインドコントロールなんてどうやってできたのですか?」


「先生、私も、そのようなことが短時間の間に可能なのか疑問に思います?」


「確かに、実際の所マインドコントロールを行うには、かなりの月日を浪費しなければなりません。しかし、エルドラ王国側には、当時マインドコントロールを簡単にできる装置が存在しており、連合軍によって回収されています」


 ちがう


「先生、エルドラ王国に封じられていた霊龍神器って、エルドラ王国の王様が、使っていたんですよね」


「そうです、実際の所、彼は亡くなってしまいましたが、彼の意思を引き継いでいたものが最後までエルドラ王国で抵抗して、連合軍は大きな犠牲を払いました。彼は、国連の平和維持委員会が持っていた戦闘部隊アースを密かに買収、そして、第3次世界大戦を引き起こさせました」


 そんなはずない


「先生、エルドラ人たちは、迫害されていたりしないのでしょうか?」


「一応日本では、保護監察課にありますが、他の国では収容所などに入れられていることもありますね」


「ですが、この前エルドラ人を見かけたのですが、周囲の人達の視線がやはり冷たいものが多かったです」



「確かに、彼等の王がもたらした惨禍は想像絶するほど世界に深い爪を残しました。そのせいで、エルドラ人たちが蔑まされている原因でもあるのですが、彼等は寧ろ巻き込まれた被害者でもあります。しかし、今の世間で彼等に味方するのはやはり難しいでしょう。」


 だったらなんで……


 しかし、その会話が繰り広げられている渦中で、1人の生徒の胸の内で、激しい葛藤が起きていた。その生徒は今まで、教師や周りから伝えられた事を何の違和感を覚えずに受け入れていた。信じて疑うことなど、決してしなかった。その生徒自身、その戦争で、大好きだった父親を霊龍神器の為に失ったし、そのせいもあって霊龍神器を心の内で憎んでいた。

 けれど、彼女は変わってしまった。変えられてしまった。ある事をきっかけに、彼女の胸の内に秘めていた感情が揺らいでいたのだ。


 頭の中に過ぎるのは、鎧を纏った黒い巨人の姿。鮮血に染められているその鎧が冷たい月光に照らされ妖美に照り映え、そのおぞましい姿を際立たせながら、両目の赫眼ではっきりと自分を見つめ自分の名を呼びながら静かに涙していた巨人の姿。そして、変わり果ててしまった親友の祖父が告げた謎の言葉。


 彼女は、その存在と出会った。死が支配するその場所で。戦争に負けて、全てを失って、それでも未だに戦いを止められず、負の感情に取り憑かれ、死ぬこともできず、絶望の底から足掻き、這い上がってきたその存在に。

 好奇心などではない、もっと違った、使命感のようなものが胸の内から感じる中で彼女は思う。もう一度、あの存在に会いたい。会わなければならい。あの存在の事を知りたい、知らなければならない。話したい、話さなければならない。そして、理解しなければならない。本当の事、自分の父親に一体なにが起きたのか。あの戦争で、起こった本当のことを。



 そう、1ヶ月前に出逢ったあの巨人に、彼女は・・・・・・




「琴音ちゃん、大丈夫?」


「だ、だい、じょうぶだよ……、うぷっ!!!」


「お前、相変わらず船には弱いんだな」


 日本のとある港町の船着場から出航した1隻の豪華な客船は、波がひしめく中をかき分けながらゆっくりと遥か頭上にある太陽の光を照り返している海の上を進んでいる。カモメが船の最上部にある操縦室の横を横切りながら沖の方へと翼を羽ばたかせながら、飛び去っていく。そんな中、その船の甲板上で1人の少女が船酔いなのだろうか、顔を真っ青にし、甲板上から眼下に広がる海めがけて頬を膨らませながら見つめ、その様子を心配そうに見つめる少女とそれを見て大きな声で面白がっている少年がいた。どうやら、何処かの学生らしく、それぞれ共通の制服を着ていた。


「光秀くん、琴音ちゃんに悪いよ……」


「気にすることないさ蓮花、船に乗ると昔からこうなる奴だったろ?流石に見慣れたぜ」


「むう~、恨んでやる~」


「死にかけている声で言っても、迫力なんて微塵も感じられないぞぉ、こ・と・ね」


 恨めしそうに少女は少年に向かって口にするが、如何せん力が無いようで、彼女の嘆きも虚しく波打つ青い海面に向かって溢れ、そんな彼女の様子を見ながら少年はサディスティックな笑を浮かべながら言った。


「だいたい、船酔いしてる奴がだ。どうして、甲板に上がって景色が見たいなんて言い出すんだよ。なぁ、こ・と・ね・さ・ん」


「ぐぬぬぬぬ」


 サディスティックな笑で茶化している整った顔をした茶髪の彼。名前は、鴫原 光秀。都立 龍京堂高校の生徒で今年、2年に上がったばかりの青年だ。そして、その青年のやり取りを、目を潤ませながらおどおどと見つめ甲板から海に向かって顔を覗かしている自分の親友の背中をさすっている女子生徒は、野河 蓮華。光秀の幼馴染の1人で、今回、学校側が企画したあるイベントの為に、光秀と共に乗船している。


「う~、私、もう無理だよ~」


 そして、蓮華に背中を撫でられ、今まさに胃に溜まっていた物を青い海に向かって一斉発射しようとしている女子生徒。都立 龍京堂高校の2年生であり、光秀や蓮華の親友。


 御神 琴音


 この物語において重要な鍵となる人物である。しかし、この時の彼女はそんなことは一切知らない、この場合知るはずも無いと言った方が正しいかもしれない。何しろ、彼女は、そうなっていくのは、まだ先の話であるのだから。それよりも、今現在、彼女にとっての死活問題は、どうやってこの船酔いという難局を乗り切るかということなのだから。潮風自分の髪を揺らし、自分の親友が背を優しくさすってくれている中、頭がそんなことで一杯であった。


「蓮ちゃん、私、もう、耐えきれいない」


「が、頑張って!!! こんな所で吐いたら、流石にまずいよ~!!!」


「だ、大丈夫だよ。前に読んだ本に書いてあったんだ。こういう時は、ヒロイン補正スキルが発動してくれるんだよ。きっと戻した時にうまい具合に光補正とかがかかってくれるから、反射する日光で隠してくれるから大丈夫だよ」


「琴音ちゃん、未だ誰のヒロインにもなってないし補正って一体何言ってるの!! しっかりして~!!!!」


 生々しい会話をさりげなく展開している2人を見つめながら光秀は腹に手をやりながら大笑いしていた。船に乗ったはじめのうちは船内の小部屋で寝ていたのだが、琴音自身がどうしても船の甲板から外の景色が見たいと言い出し、更に光秀がそれ煽って引けに引けなくなった琴音が意地になって出た結果、現在の状況に至っている。


「むぅ~、私と蓮ちゃんの助けがなければ1年に留年だったくせに~。恩を仇で返すとは卑怯者めぇ~」


「さあな、そんなこと。もう忘れちまったなぁ~。」


「この外道めぇ~」


 しかし、学生である彼等は一体何故海の上を進んでいる船の上に乗っているのだろうか。それは、1ヶ月前の出来事が原因である。彼等の通っている高校、都立 龍京堂高校は1991年に人類が初めて開発に成功した大型人型起動部 機械龍神器ドラゴン・タクティカルやそれに関連した技術などを専門的に学び、成人した後に、大型起動物に関連する職業に就く人材を育成するために設立された、所謂専門学校である。そして、厳しい進学試験をくぐり抜け見事に新学年へと上がることの出来た彼等は、新学年での新クラス内での親睦を深めるのと同時に、将来就くと予想される大型機動物の関連する企業の現場を実際に見るために、大型機動物を実際に扱っている企業に社会科見学に行くことになったのだ。


「光秀さん。 琴音さんを苛めては、あまりよくありませんよ」


「はいはお、かおりは本当に琴音には甘いな」


 女子生徒の声だろうか、少しお嬢様口調ではあるが、凛とした声が甲板上にいる光秀達に向かって発せられた。腰まで伸ばした長髪、黒い髪色が見受けられ身長は、170くらいの女子生徒が光秀たちに向かって歩み寄ってくる。


 「ううう、かおちゃん。ありがと~」


 「琴音さん。余り無理をなさらずに、もう少しで目的地につきますから」


 フラフラになりながらも光秀の言葉責めから開放してくれた、かおりと呼ばれた女子生徒に向かって感謝の言葉を述べる琴音。そして、今感謝の言葉を述べられた女子生徒は、秋月 かおり。DTやあらゆる部門で数々の業績を残している秋月企業の社長、秋月 紅の孫娘であり今回のイベントの概要を立案した人物の1人であった。


 今回のイベントでの行き先、本来なら東京都周辺の中小企業などをクラスごとに独自に訪問するはずであったが、かおりがイベントの事を祖父に話したところ、祖父が自分の研究施設に来てみてはどうかと彼女に提案し、そのことを龍京堂の学長などの話して色々と細かな所を調整した結果、秋月企業の研究施設に特別に招待されたのだ。そして、龍堂高校の2年の生徒たちは九州の長崎県に属する対馬から東に150km離れた排他的経済水域に属する海域にある秋月の研究施設に専用のフェリーで向かっているという現在の状況に至っているのである。


「そう言えばかおり、久遠はどうした? 今朝から姿を見かけないけど」


「久遠さんなら、今朝早くに私の祖父の呼び出しがあって、急遽、先に祖父の下へ向かっております」


「何かあったのか?」


 光秀が男子生徒の名前だろう、何時もかおりの傍にいる人間がいないことに対して不思議に思い彼女に聞いてみた。


「以前、祖父と一緒に話をしていた時に、皆さんが研究施設に訪れた際の案内訳として彼が買って出てくれたので、恐らくその下準備だと思います」


 未だに、顔を真っ青にしながら胃の中にあるものを吐き出そうとする琴音を、蓮花と共に背中をさすりながらかおりはそう話す。通常、かおりの側には、陽野 久遠という名の生徒が何時もいる。久遠は、幼い日から秋月との交流があり、かおりが中学のときより彼女の護衛として紅から彼女を任されており常に彼女のそばについている。しかし、今回のイベントが決まった時に紅に研究施設を訪れた際、自分に案内させて欲しいと進言していたため、その最終的な確認をするべく彼女の側を離れて、先に紅が派遣したヘリで研究施設に向かっていたのだ。


「かおりちゃん。今回の行く場所って、かおりちゃんのおじいさんの立ち上げた秋月企業全体とは別の、かおりちゃんのおじいさんがDT関連のことを独自に研究している研究所だよね」


「はい、私が今回のことを叔父様に話した時に、自分の研究を見せたいとおっしゃられて快く承諾してくれました」


「大企業の社長だからもっと用心深いものだと思ってたけど、意外とあっさりと許可したんだな」


 かおりは、満面の笑みを浮かべてそう話す。余程今回のことが楽しみなのだろうと光秀たちはその表所から見て取れた。それから吐き気が収まらない琴音の事も気にしながら光秀たちが談笑していると、船の汽笛の鈍い音が光秀たちのいる甲板上に響いた。


「おい、見えてきたぞ!!!」


「スゲェ、あんなに離れてるのにはっきり見えるぜ!!!!」


「眩しいけど、すごい綺麗だね~!!」


 などの歓声が甲板上にいる生徒たちから発せられ、その歓声と共に、一斉に水平線の先にあるものに対して目を向けた。その視線の先、水平線の先に見えるのは、自然とはかけ離れたビル群という名の人工物がそそり立っている島のような物だった。その色は灰色ではあるが、ソーラー発電のために必要なパネルやビル群の窓ガラスがその至るとことにあるようで、それらが日光によって照らされて光のシャワーのようなものを演出し、さながら海の上に浮かぶ光の国のような雰囲気を醸し出していた。


「見えてきね」


「あれがそうなのか、かおり?」


 その眩い光景に目を奪われつつも、光秀は今回の目的地であるはずのあれが何なのか、かおりに尋ねた。


「はい!!! あれが今回の目的地であり、紅叔父様自身の研究施設。グラウンドです」


 光秀や他の生徒たちの驚きように、とても満足したようで満面の笑みを浮かべながらもお嬢様らしく落ち着いた態度でかおりはそう答えた。もう間もなく、業火に焼かれ、地獄になるその場所を見つめて。そして、この後に起こる悲劇を知らない生徒たちの喜びに答えるが如く、船は速度を徐々に早め波の中を突き進んでいった。


「もう、無理……」


 そんな中で、琴音は既に別の世界へと昇天しかけていたのだった……









「行くのですね。」


 何処かの浜辺だろう。龍京堂の生徒たちが乗っていた船が進んでいたような明るい海の雰囲気とは打って変わり、曇り空の中から僅かに光の線が雲の縫い目を掻き分けて僅かに眼下を照らし出しており、その雰囲気は悲しみや儚さを現しているようでもあった。波が浜辺に打ち上がる音が静寂しきった浜辺に響きわたる。その浜辺の中に、白い服を着た若い女性がいる。そして、その女性は自分の目の前で跪いて顔を伏せている青年に向かって言葉をかけていた。その女性は、王女である。とある国の王女である。嘗て、大切な人を救うこともできずに見ていることしかできなかった無力な王女である。


「貴方を止めるつもりはありません。しかし、これだけは覚えていて欲しい」


 そんな王女が、未熟な声ではあるが威厳のあるはっきりとした口調で、青年を見つめながら語りかける。


「貴方の帰ってくる場所は、此処にあります」


 王女は、青年に語りかける。無駄だと分かっていたとしても。手向けの言葉でしかない

としても。それでも、今まさに死地に自ら進んで赴こうとしている青年に向かって語りかける。


「貴方は、断じて、断じて、独りではありません。我等、アドラスクの民一同。貴方の帰りを。いつまでも。ここでお待ちしております」


 王女は、最後にそう語りかけた。目の前にいる青年に。最初に口にしたように王女は彼を止めようとは思っていなかった。いや、止めることなどできなかったと言ったほうがこの場合は正しいのかもしれない。


「今まで、お世話になりました」


 王女の言葉を聞いた青年は静かにその場を立ち上がった。身長は180くらいだろう、体格は黒い服の上からも分かるように無駄のない筋肉がつきそれに伴って体つきもがっしりとして歳はまだ20歳にも達していないのに歴戦の猛者のような風格があった。そして、青年は彼女の両目をハッキリと捉えながらそう答えた。王女も、そんな彼を真っ直ぐな瞳で見つめ返した。だが、王女の見つめている青年の瞳は、最早人間のそれではなかった。瞳の上から半分は確かに人間のものではあるがその下から半分は垂直に細長くなり、光彩も上から半分は茶色でまともな色をしているが下から半分は血が溢れ出したがごとく真赤に染まりきり、光彩の輪郭も下から半分は黄金色のような色にまで変貌していた。

 王女は青年のその人ならざる者になりつつある姿を見つめながら、自分よりも若い彼がこれから修羅の道に落ちていくことを見ていることしかできない自分を改めて悔しく思った。2年前の敗北から、死の淵から憎悪という言葉では表しきれない黒いもの背負って彼は戻ってきた。そんな彼を見続けてきたからこそ、止めようというのが無理である。しかし、青年はそんな彼女の気持ちを悟る前に、彼女から身を翻して浜辺から水平線の向こうにめがけて海の中へと歩を進めていく。


 この2年、青年はまさに絶望的な状態だった。身体は動けるかどうかというくらいまで傷つき、心の傷は最早修復不可能ほどまでに砕かれて。壊れている中で再び戻ってきたのだ。ある目的を果たす、そのためだけに耐え忍んだ2年だった。そういった自分の目的、それに至るまでの自分の想いを思い出すにつれて青年の心の内から黒いものが溢れ出し知らないうちに拳を握り締め、その拳からはしっとりと朱の雫が垂れる。そうして、その感情に答えるが如く青年の体は真っ赤な色をした炎が突如として青年の身体の周りから出現しまたたく間に青年を包んでしまう。真っ赤と言っても、夜の暗闇を照らし出すような明るい色をしてはいない。その色は血腥さ、泥臭さなどの暗い感情を表したかのような色であった。炎の温度が上昇するにつれ海面の水分が蒸発して、大量の蒸気を発生させて彼の周りの視界を見えなくする。

 海から吹く潮風のおかげで、王女から20mくらい離れた場所から少しずつ海面上の蒸気が晴れ始めた。そして、水平線の彼方に歩を続けていた青年の身体はそこには無かった。変わりに、人の形をした巨大な何かが水平線の先を見つめて立っていた。そして、人の形をした巨大な何かは両足に力を込めながら前かがみになった。

 刹那、台風の時に吹くような突風が起き、巨大な何かが水底の地面を蹴って飛び立つ音が馬鹿でかい音と凄まじい水しぶきとともに浜辺にいる王女に襲いかかった。巨人が、戦場に向かって旅立ったのだ。巨人は一度上空に飛び上がり、そのまま急降下して海の中へと飛び込み、海のそこ深く勢い良く潜っていった。


 彼は、恐らく海のそこ深く潜り各国の海洋監視レーダーを避けながら目的の場所まで行くのだろう。王女は、今旅立っていった巨人の姿を自分の目に焼き付けた。自分には、そうしながら彼が帰ってこられるこの場所を守り続け、そしてこの場所で待ち続けることしかできないからだ。


「先に散って逝った我が同胞たちよ」


 王女は、鉛色と光色が交差する空に向かって問いかける。


「戦によって鬼籍に入った、彼の者の友の魂たちよ」


 王女はその場で両膝を地面に着き、手を合わせながら空に向かって投げかける。


「彼の者を導きたまえ。そして、彼の者の旅路に実り多きものを」


 空に向かって、王女は叫び続ける。彼と共に戦い、傷つき、死んでいった者たちに。空の鉛色は依然としてその勢力を保ってはいるが、その隙間から差し込む光はそれよりもさらに増して光り続けていた。




 物語の鍵は、いよいよ揃いつつある




 さあ、ここからだ




 ここから、再び始まるのだ




 彼の止まってしまった時は


























































 再び、音を立てて廻り始めるのだ




如何でしたでしょうか?


未だに、半年のブランクがあり中々文が上手に書けない状態です。


読みにくい、脱字があるよなどのことがありましたら感想欄の方に意見や批評などと一緒に書いていただければ幸いです。


では、また時間がかかりますが、なるべく早く出来上がるように努力するのでその時は、また立ち寄ってみてください。


では、次回の更新でまたお会いしましょう!!!!



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