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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界と◯◯

異世界と俺とMP40

作者: 東郷五十六

2年間以上、間を空けて申し訳ありません。

 昼間でも空が見えない深い森の中。俺はエルフのアイリスと二人で森の中を進んでいた。

「まったく、敵の数ごときで恐れを為して逃げるとは。あやつらは武人の恥さらしだ」

 愚痴をこぼしながらも進むエルフの少女の手は、ドイツ製の自動拳銃、ワルサーP38が握られていた。俺はシュマイザーの渾名をもつサブマシンガン、MP40のグリップを握り、元来た道を引き返して町へ向かう途中だ。

 どうしてこうなった、と考える一方で、俺はこの世界に来たばかりのことを思い返していた。


 もともと俺は、ただのミリオタ高校生であった。そんな俺が何の因果か勇者として召還された。

 中世ヨーロッパさながらの世界で俺が召還された理由とは、魔王と戦うための戦力を必要としていたという、身勝手かつふざけたもの。わき上がった感情を押さえ込んで、話を聞くことにした。

 異世界人に与えられる女神の祝福という、泉に放り込まるだけの儀式の後に俺が得たのは、このMP40とワルサーP38、これらに関する扱い方の知識と分解整備の方法であった。

 最初に俺の姿を見た連中は、異世界の武器を使うなど言語道断と息巻き、銃を取り上げようとしたが、女神の神託によって俺が銃を使うことを認めるようになった。


 儀式の後は、徹底的にMP40とP38を撃って反動を身体に叩き込み、分解・再組立を目隠しでできるようなることに全力を傾けた。その後、予言の従者として剣士、魔法使い、弓使いのアイリスの三人と一緒に戦闘訓練を行った。

 アイリスと魔法使いが援護、剣士が正面から殴り合っている隙をついて、俺が銃で戦うというスタイルに、試行錯誤しながら落ち着いた。

「やはり、他の武器を使おうという気は起きんのか?」たびたびアイリスに言われても、俺は変える気はないとその度に答えた。

「人の人生を滅茶苦茶にして、尊厳まで奪おうとした奴らの言うことを聞く義理はない。時期を見計らって奴らの手から逃げるさ」

 三度目に聞かれたときは、アイリスだけに聞こえるようにいった。


 一ヶ月後、実戦訓練を兼ねた山賊討伐を命じられ、この森の中に入り、山賊と戦った。しかし、予想以上の敵の数に恐れを為したせいか従者は俺とアイリスを置いて逃げ出す始末。今じゃ敗残兵と間違えられてもおかしくない状況だ……。

 近くの町まで行こうと提案したのは、アイリスだった。

「あの人間達は私たちを見て敵前逃亡だ、などと言うだろうが。逃げ出したのは奴らであって、私たちは戦っていたというのに」そんなことを言いながら町へ向かったのだった。

 俺は銃の他に、マガジンポーチと携帯食糧が詰まった袋、騎士に無理矢理持たされた長剣を持っていた。銃と弾薬、食糧や水だけで一五キロは超えているのに、長剣を持っていくのは無理があった。

「ナオヤ、お前が振り回せないものを持っていても無意味だ。そんなもの捨ててしまえ」

 アイリスがそう言うので、俺は剣を捨てた。後で咎められても。山賊と戦って折れたと言えば納得するだろう。だが、銃はそうはいかない。アイリスの弓が壊れた以上、手持ちの武器はこれだけなのだ。

「あの腰抜けどもに天罰を与えてくださるよう、神に祈りを捧げようか」

 本気ともとれるようなきわどい冗談を交えながらも、俺達は歩き続けた。


 町を目指して三日後、とうとうアイリスが高熱を出して倒れてしまい、俺が肩を貸して歩くことになった。

「こんなところで倒れるとは。やはり、あの時の傷かもしれないな」

 熱で浮かされ、俺の方で呟く彼女には以前の覇気が感じられなくなった。

 さらに二日後、彼女は歩くこともままならなくなるほど衰弱していった。抗生物質の錠剤を飲ませ、可能な限り食事を食べさせたがこの頃には薬と食糧が底をついてしまった。

「ナオヤ、私のことは置いていっても構わない。お前だけでも生き延びてほしい」

 彼女はそう言ったが、俺は彼女を見捨てるわけにはいかなかった。

「本当にどうしようもなくなったらそうする。泣き言言えるんだったら、まだ大丈夫だ」

 簡単にあきらめるな、と暗にこめたセリフを聞いて、アイリスは力なく笑った。

「お前のような人間は初めてだ。決して味方を見捨てない、その心……。あやつらにも見せつけてやりたいものだな」


 アイリスを担いで進んだ数日後の夜だった。俺は食糧になりそうなものを探すため彼女を大きな木の根元に降ろして一人でうろついた。途中でネズミを見かけたが、手を伸ばした瞬間に逃げられてしまった。

 茂みが乱暴に揺さぶられる音が聞こえた。

 俺は急に恐ろしくなって、アイリスの元へ戻った。拳銃は彼女に預けているため、肩に吊るしたMP40があるだけだ。

 彼女を寝かせてある木が見えてきた。ふと気がつくと、彼女の周りに人が集まっていた。味方かと思った俺に、弱っているとは思えない声でアイリスは叫んだ。

「ナオヤ、早くここから逃げろ!」

 急に起き上がって叫んだ彼女に驚いたのか、騎士の持つ剣が月明かりにギラリと映えた。

 俺は見てしまった。アイリスが敵の剣に貫かれる様を……。

 他の騎士は俺の姿を見て笑いかけた。

「ご無事でしたか、勇者殿。」


 俺は生まれて初めて感情の制御がきかなくなり、とめどもない怒りが全身を駆け巡るのを感じた。

 MP40を握りしめ、引き金を引いた。奴らを一人残らず殺してやる。

 俺は走った。騎士に向かって、MP40を乱射しながら。

 剣が腹に食い込む痛みを無視して……。





MP40

 ドイツ軍が第二次世界大戦時に使用したサブマシンガン。世界で初めて金属とベークライト(プラスチックの一種)で本体とグリップが構成されている。

 初期生産型では、弾薬を入れたまま銃口を上にして落とすと暴発する事故が多発したが、後にボルトの前進を阻む安全スロットを追加することで解消された。

 約一〇〇万丁生産された本銃は、一九八〇年代までノルウェー軍の戦車兵の自衛用装備として使われた他、アメリカにおいて民間のコレクターが所蔵するMP40がたびたび動画サイトでも見かけることがある。

使用弾薬:九ミリパラベラム(九×一九ミリ) 装弾数:三二発

重量(弾薬含む):四・七キログラム



ワルサーP38

 ドイツ軍制式採用の自動拳銃。戦後の拳銃は、おおむね本銃の設計の一部を流用しているほど優秀な拳銃である。

 日本ではルパン三世の愛銃として有名であるが、ヨーロッパではナチスの銃というイメージが強い。

 なお旧西ドイツ軍の制式拳銃として一九八〇年代まで使われたが、現在はH&K社の拳銃に置き換えられている。

使用弾薬:九ミリパラベラム(九×一九ミリ) 装弾数:八+一発

重量(弾薬含む):0・九キログラム



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