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第7話:劇薬のサムネイルと、安売りの魔法


 液晶から放たれる毒々しい原色が、俺の網膜をチカチカと刺した。


「……本気かよ、これ」


 昼休みの屋上。コンクリートの照り返しが初夏の熱気を孕む中、俺は突きつけられた動画の企画案と、テスト撮影のサムネイルを一瞥し、低く唸った。


 そこに「無敵で可愛いAoistar」はいない。


 極端に胸元を開けた、挑発的で露出の多い衣装。背景には、最近湧いたアンチコメントのスクリーンショットが乱暴に貼り付けられている。タイトルは『アンチの嫉妬、全部晒して愛してあげる』。


 悪意を煽って数字を稼ぐ、明らかな炎上狙いの劇薬だ。


「本気だよ。ていうか、もうこれしかないでしょ」


 フェンスを背にした葵が、親指の爪をカリカリと噛みながら早口でまくしたてる。かつての自信に満ちた響きはない。ただ、薄っぺらい焦燥だけが張り付いている。


 乾いた風が葵の髪を乱す。いつもなら即座に手鏡で直す毛先を、今のこいつは気にも留めない。


「正統派の可愛い系じゃもう回らない。でも、こういう『物議を醸す』動画なら、アンチもファンも入り乱れてエンゲージメントが爆発する! 他の奴らだってやってる。背に腹は代えられないじゃん!」


 血走った目で俺を睨む葵。ツンとした制汗剤と、嫌な汗の匂いが混ざり合って鼻を突く。


「……数字の論理としては間違ってない。一時的なカンフル剤にはなるだろうな」


 極めて冷静に、プロデューサーの声を張り付ける。


「だが、これはブランドの根本的な破壊だ。お前は『自分らしさ』を武器にバズった。悪意をエサに注目を集めるのは、ただの『自分らしさの安売り』だ」


「ブランド? 自分らしさ?」


 葵が鼻で嗤う。俺が今まで見たどんな顔よりも歪んで、ひどく痛々しかった。


「そんな綺麗な言葉、数字がなきゃ誰も見向きもしないんだよ! 忘れられたら終わりなの! 昨日『可愛い』って言ってくれた奴らが、今日は別の誰かに同じこと言ってんだよ!? わかる!? 誰の記憶からも消えるくらいなら、炎上してでもしがみつくしかないじゃん!」


 バンッ!


 葵がフェンスを強く叩いた。錆びた金属の鈍い悲鳴が、屋上に響き渡る。


「……私が欲しいのは、今すぐ確実にバズる数字なの。悠真がやらないなら、私一人でやるから」


 葵は俺の手から乱暴にスマホを奪い取り、三脚を立てるため屋上の隅へ歩き出した。


 その背中に以前の光はない。見えない何かに追い立てられ、自ら破滅へ向かっているようにしか見えなかった。


 俺は、一歩も動けなかった。


 止めなければならない。親友として、あんな自傷行為は絶対にさせるべきじゃない。


 だが、足には「プロデューサー」という重い鉛の鎧が絡みついている。「演者」が一人でやると決めたことに口を出す権利は、ビジネスライクな関係を望んだ俺にはない。


 カメラの前で、歪な笑顔を無理やり顔に貼り付ける葵。


 その崩壊をただ黙って見つめることしかできない自分の卑怯さが、初夏の太陽よりもずっと鋭く、俺の胸の奥を焼いていた。

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