29年11月◾️日
余程気に入ってくれたのだろう。前回プレゼントした猫ネックレスを今回身に着けてくれていた。
猫のおもちゃにしたのでは?
と聞きたいのは山々なのだが、すっかりと自分の言葉を忘れている香澄に言うのは野暮と言うものだ。
同類が二人、家にいるからよくわかる。とっさに吐いたものの、本心ではないために自分でも覚えていないのだ。
うん、よくあることだ。
つまり、気にしたら負けである。
前回、気がつけばぶちゃいくに手を出して可愛がっていた。
つまり、敗北宣言かそれに近い形になったのであろう。今回は手加減なしに最初から可愛がっている。
ぶちゃいくもそれを受けて、ゆらーり、ゆらーりとご機嫌で尻尾を振っている。
堂に入ったベテランの手さばき、さすがは猫を飼っていたのだけはある。
「いつ見ても上手に相手してますね。本当に猫好きなんですね」
確認する必要すらないことなのに、気がつけば口から言葉が出ていた。
なぜか彼女の前だと失言が多い。
気をつけねば。
一瞬こちらに視線を向けるとすぐに手元に視線を戻した。そして、そのままぶちゃいくを持ち上げ、私に差し出す。
もちろん受け取る。
似たようなやり取りはこれで二度目になる。
「ご覧の通り、犬派なの」
大真面目な顔で言い放つ。ついでに誇らしそうに胸まで張る。
ちょっと、やめて欲しい。
それはずるい。
「死にそうだ──」
これを尊死というのだろうか?
胸が痛い。このもどかしさをどうにかして欲しい。
いや、まずそのポーズをやめて欲しい。
慌てて周りを見回した。
変な男どもに見られたら大変なことになる。
そうだ、隔離して推しとして愛でる事にするしかない。
ああ、多分彼女に落ちているのだろう。
自分の気持ちを誤魔化すなんて最低だ。
もう正直になるしかない。
彼女を推しと、大人として正しい道に導いてあげよう。
「了解。犬派だね。どんな犬飼ってたの?」
「飼う?」
不思議そうな顔を見せる。本気で質問の意味がわからないようだ。
「ああ、ごめんなさい。質問を間違えたようだ──犬のどんなところが好きなの?」
「忠実で主人を裏切らなくて、いつもそばにいるところ──かしら?」
理想の犬? いや、理想の相手?
卑怯でも確認はしておきたい。
「なるほど、なるほど。私への愛の告白ですね」
「い、い、言うことにこと書いて──ば、馬鹿じゃないのかしら!」
「そうですか、残念です。私は──本気と受け取ってもらっても構いませんよ」
受け取ったぶちゃいくはすでに腕の中で溶けている。すでに香澄の可愛がりでリラックスしている状態から、さらに私のマッサージを受けて完落ちだ。
「残念なことに、どちらかというと私は猫派なんですよ」
何も言わないことを良しとして、ゆっくりと彼女の胸元へと腕を伸ばす。そして、猫ネックレスを軽く持ち上げた。
「着けてきてくれて嬉しいですよ」
触れた猫の像から指先へと香澄の暖かさが伝わってくる。




