29年8月▽日
プレゼントと花束を持ち三度目の来訪。
店の扉を開けた。
「次はどんな子がいい?」
前回、ツインテール姿の香澄と別れ、帰宅後に母と姉から言われた。
失礼な話だ。
まだ断られたわけじゃない。
再会とプレゼントを渡す約束をしたことを話した。
「あなたにしてはやるじゃない! どんな子か気になるわね」
いや、あなたたちが選んだ子ですよ?
思わず言葉にしそうになり、口をつぐんだ。
「まさか、プレゼントだけ渡す気? 正気なの!?」
「私ならそんな野暮な男はお断りだわ!」
気の強い二人は参考になる気がしない。
かと言って女心がわかるわけでもない。
素直に忠告は受け取ることにした。
結果、彼女の名前にちなんでかすみ草を選んだ。
彼女の無自覚な無邪気さには、薔薇などよりかすみ草の方が似合う。
「まあ、これも勉強と思いなさい。彼女だけが女性じゃないわ」
「そうね、早めに本性をバラすのも誠実さね。帰ってきたら慰めてあげるわよ」
なぜか振られる前提で語られている気がするが、いつものことなので気にしても仕方がない。
「もっとマシなプレゼントもあったでしょう?」
「猫柄エプロンって捻りも何もないじゃない?」
確かにそう思う。
だが、体型も知らずに服など贈れない。
サイズを知っている方が気持ち悪い。
ならば、無難に代用品を贈るのが受け取る側としても負担が少ないはず。
「相手は社長令嬢よ。少しくらい高価なものを贈っても何も思わないわよ」
確かにそうかもしれない。
しかし、むやみやたらと高価な物を贈るのは教育に良くない。
そう、教育に良くない。
「あらあら、ご丁寧にありがとうございます。気を使わなくても良かったのに! 断るのも角が立つから仕方ないけど受け取ってあげますわ」
拒絶するかと思いきや、顔をそむけながら香澄は素直に受け取った。
やはり異性からプレゼントなどされた経験が少ないのか、頬を真っ赤に染めていた。
言葉とは裏腹に嬉しさを隠しきれていない。
まさか、
「君の可愛さには負けるけど」
などという、花束を渡す時の定番なセリフに反応したとは考えたくない。
いや、そんなまさか。
「こういう時は薔薇とかではなくて? 常識がないのかしら?」
小声でのつぶやきが聞こえた。
いや、そんな求愛を求めているような発言を気軽にしては駄目だ。
普通の男なら気があると勘違いするはず。
ああ、間違いなく、絶対に。
この無邪気な生き物をどのように教育するべきか──
店員を呼んで退店まで預かってもらおうとすると、彼女は逆にこのままでも良いかと店員に確認していた。
「猫が遊ぶ分には多少は散らかっても良い」
その言葉を聞いた瞬間、目の色に歓喜があふれた。
確かにすでにぶちゃいくがターゲットにしているが──猫じゃらしでもあるまい。
──いや、猫じゃらしの代用品として活躍した。
退店するまでにはすでに姿形はなくなっていた。
目をらんらんと輝かせて、ぶちゃいくを筆頭に猫たちが戯れる姿を見つめる香澄。
口を押さえて笑いを抑えていたが、感情がたかぶったのか時折くすくすと笑い声が聞こえる。
「可愛い」
無意識のうちに口から出ていたが、ため息ほどの小声なので聞こえてはいないだろう。
しかし、無防備すぎる。
こんな生き物はちゃんと保護するべきだ。
引き続き教育を行うために、次回の待ち合わせを取り付けた。
猫柄エプロンを着けた姿は強烈すぎる。
プレゼントの梱包を解いた瞬間に明らかに彼女の温度が変わったのがわかった。
「こんなダサい物は初めて見ましたわ」
と言いつつ素直に身につけてる。
柄の肉球をつんつんと突っつき、ぶちゃいくそっくりな猫柄に頬をすり寄せてエプロンの感触を感じた上で。
その顔は今までで見た中で一番輝いていた。
キラキラする目に真っ赤に染まった頬、はずむ声は語尾が跳ねている。
どんなにきつい言葉が口からつむがれても、本気で嫌がっていないことが丸わかりだ。
いや、逆に男どもの関心が集まること間違いない。
実際に店内にいる男どもの視線が集まっている。
本人は気がついていないようだが、そのエプロンや手に持ったかすみ草に興味があるわけじゃない。
本体に興味があるのだ。
あの笑顔に私の心臓が止まる。
他の男も、間違いなくそうなる。
絶対に隔離せねば──




