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狂おしいほどの愛妻観察日記 -他の男には絶対に渡さない-  作者: 青空のら


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30年4月▽日

 妻が可愛い。

 推しが妻に変わった。意味がわからないが本当だ。

 うちに帰れば推し──妻がいる。

 新婚旅行は邪魔が入っていけなくなった。二人きりを堪能させる気はないと母と姉の露骨な妨害だ。

 緩衝材になるはずの父がいまだに母にベタ惚れなので、母のわがままに逆らうことはない。実質的な我が家の支配者は母である。

 その母に気に入られた。

 初対面ですぐに気に入られた。

 いや、顔合わせも結婚式も済ませているので厳密には初めてではない。

 初めて普段着の妻を見た瞬間。

「なんてことなの!!」

 可愛すぎる!!

 口に出さなくても母の目を見ればわかった。姉も同様だった。こちらは口を開けたまま手を添えていて、母以上にわかりやすかった。

「それじゃあ、出かけるわよ。ついてらっしゃい」

 母が妻の手を取るとそのまま3人で買い物に出かけた。

 自分たちの好みにコーディネートする気なのだろう。愛猫が寿命を全うして亡くなってから早くも一年。可愛がる対象を見つけたとでも思っていそうだ。

 多分、妻は状況を理解していない。不思議そうに首をひねりながらもその目だけはきらきらと輝かせていた。ワクワクと初体験を楽しむように。

 勘弁して欲しい。私の推し──妻なのだ。

 新婚生活を、推し──妻のそばにいる幸せを堪能させて欲しい。

 初めてその手を握るまでどれだけ掛かったと思っているのだろう。

 きらきらと目を輝かせているのを見て何も言えず見送るしかなかったが──

『お帰りなさい。お疲れさまでした。ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ、た、し?』

 男どもなら必ず夢見るシチュエーション。それが手を伸ばせば届くところにあるというのに──

 香澄の演技上手なのは、お見合い時のメイド喫茶風のコスプレで確認済みだ。

 あの破壊力でやられると理性が耐え切れるか疑問だ──いや、耐えねばならない。


 ──そう思っていた時期もあった。

 母と姉の好みの服装を着た香澄が帰宅した。

 フリル付きのワンピースはただでさえ幼く見える彼女を一層幼く見せる。

「どう? 惚れ直したでしょう!」

「どうですか? こういうのがあなたのタイプだとお姉さまに教えていただきましたの」

 どうしても私をロリコンにしたいようだが、ロリコンに近づくなという執事──ゲン爺の教えはどこに行ったのだろう?

「お母さまが──『旦那の趣味に合わせてあげると、色々とチョロくて夫婦生活も円満にいくのよ』と教えてくれましたわ」

 はにかみながらも視線を逸らさずに言う。

 ほめて欲しがる子犬のように、あるはずがない幻の尻尾がはためいて見えた。

 可愛すぎて悶え死ぬ。本当に尊い。

 確実に成長している。男たちの要求を巧みにかわすどころか手玉に取ろうとしている。

 こんな成長の過程を間近に見られる幸福を手放す気はない。

 しかし、母と姉の教え──変に染まらないで欲しい。

 そんな願いも虚しく、部屋着に着替えた姿は着ぐるみパジャマだった。

 姉とお揃いなのを二人して見せに来た。

 背丈は違えど、危険なことをする。

 姉の目が笑っている。絶対にわざとに違いない。

「あら、間違えて私を襲わないでね。迷惑だわ」

「まあ、そんなことがあるのですか!?」

「誤解を招くような発言はしないでもらいたい。姉を襲うわけがないでしょう」

「そうね。間違えないように、襲うなら香澄と二人きりの時にしなさいよ」

「はい、わかりました。お姉さま!」

「そもそも襲うとか人聞きの悪いことは言わないでください」

 教育に悪いですよ。本当にもう、変な言葉を覚えたらどうするつもりですか!

「これは私のです。勝手に取らないで欲しい」

 身体を割り込ませて、二人を引き離す。そのまま妻の手を取り握りしめる。

「あら、香澄は物じゃなくてよ。それに、私の妹だわ」

「ああ、お姉さま……嬉しいですわ」

 姉の甘言に、正面の私を見つめているはずの妻の顔が赤らんだ。

「ええ、知ってます。ですが、私の愛しい妻ですから、少し遠慮していただきたい」

 妻の背後に回るとそのまま背中ごしに抱きしめた。

「あなた!?」

「あらあら、新婚熱々を見せつけようという魂胆かしら? 愚弟のくせにせこ手を使うわね。見損なったわ」

 姉が鼻息あらくまくし立てるがそんなのは関係ない。

 一声上げたものの、妻は腕の中でじっとしていて、嫌がるそぶりはみせていない。

「先ほどの忠告通り、姉さんと香澄を間違えないように今から訓練してるんですよ」

「雅、あなたねぇ……ふぅ、香澄、本当にこれで良かったの?」

 弟を指差してこれとは、姉のくせにひどい言い草だ。

「今ならまだ引き返せるわよ。我が弟ながら、さすがにちょっと引くわね。男は星の数ほどいると言うし、私と一緒に婚活しましょう!」

 くぬぬぬ。いくら身内といえど、言って良いことと悪いことの区別くらいつけて欲しい。

「はい、お姉さま──いえ、雅がいいです。それに──お姉様とお母さまと一緒がいいです」

 妻がそっと手を重ねて来た。

「私も香澄がいい」

「はいはい、ごちそうさま。邪魔者は退散するわ。あまりイチャつくと動画撮影するわよ。あと、お楽しみは自分たちの部屋に帰ってからにしなさい。でないと──あなた達に刺激されたお母さまとお父さまの熟年カップルのイチャイチャを見せつけられるハメになるわよ。私は忠告したからね!」

 きびすを返すと姉は自室に戻って行った。

 確かにこの歳になって、両親のイチャつく姿を見せられるのは辛いものがあるかもしれない。

「さあ、戻ろうか」

 妻を抱き抱えると慌てて部屋に戻った。

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