第5話 勇者たちの対応
「...!魔族軍を発見!数キロ先です!」
鳥を操り視界を借りていたエリスが、緊張した声で皆にそう告げる。
「数は?」
「え、と...。60?いや、ちょっと待ってください。」
エリスは魔族軍を観察し、妙なものを見つけた。あれは手錠に繋がれた...。
「ひ、人もいます!10人ほどが手錠に繋がれています!魔族の数は50人!」
それを聞き、レオンは舌打ちをする。捕虜か、人質か。どちらにせよ接敵すれば脅しに使われてしまうだろう。
「このままいけばわたし達と衝突します!」
「捕虜を気にしなければすぐに終わるが...そうもいかないよな?」
「当然です。助けますよ。」
ユリウスの言葉にセリアが即答する。見捨てるという選択肢はなかった。
「...救助対象がいるなら、俺は戦えない。」
「だったら目くらましとか足止めとか、攻撃以外のことを頼む。」
「...わかった。」
「セリア、結界で捕虜全員を守ることはできるか?」
「目視して30メートル以内に入れば、10人程度なら大丈夫です。」
「よし」
攻撃が強すぎるクロウは補助に回ってもらい、戦うのはレオンとエリスだ。
クロウが目くらましをし、その隙に接近してセリアが捕虜に結界を貼る。そしたらあとは殲滅するだけだ。
なお、結界を貼ってもクロウの範囲攻撃が当たってしまう可能性があるので、念のためクロウは攻撃しない方針だ。
五人は馬車から降り、ユリウス以外が魔族軍の元へと向かう。ユリウスは馬車の見張りだ。
そして魔族軍が視界に入ったところで、相手もこちらに気付いた。
「待て!貴様ら何者だ!」
戦闘に立つ魔族が大剣の切っ先を突き付けながら大声を出してくる。
「大剣...魔族幹部か。」
「人間か。見た目からして、兵士と魔法使いか?残念だったな、こんなところで会うなんて。」
魔族はニヤニヤと笑いながらそう言う。数の利に加えて人質もいる。戦いにすらならないと思っている顔だ。
「いいか貴様ら。少しでも抵抗すれば...」
「クロウ」
「...ああ」
魔族が言い終わる前に、クロウが前に出て地面に手をつける。
途端に発生する地響き、そして両者の間に巻き起こる爆発。爆風と砂嵐により、一気に視界が悪くなる。
「な、なんだ!?」
なにが起こったかわかっていない魔族。
動揺している間に、セリアが駆け抜ける。その横には護衛をするようにレオンもいる。
「ええい小癪な!人質を出せ!半分くらいは見せしめにして構わん!」
魔族は苛立ったようにそう言って人質を使おうとする。
だが...
「だ、だめです!人質に触れることができません!」
「どういうことだ!?」
「なんだこれは!?結界!?」
すでに接近していたセリアの結界によって、人質は魔族の手から守られる。
そして砂煙の中、魔族の目の前にレオンが現れた。
「残念だったな。こんなところで俺たちに会うなんて。」
その言葉と共に、聖剣が振るわれた。
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エリスは魔族軍の外から砂煙の中を見つめていた。
そこには聖剣で魔族を次々と斬りふせるレオンの姿がある。
「...すごい。」
思わずそう呟いてしまう。
エリスも味方と敵にバフとデバフをかけ、聖属性の奇跡で攻撃してはいるが、それがなくてもレオン一人で勝てるんじゃないかと思えるほどの実力だ。
剣を振るえば魔族は倒れ、魔法を放てば道が開ける。
それでいて、近くのセリアのこともしっかりと見ている。
セリアも自身に結界を張っているので安全なはずだが、それでも万が一がないかを気にしているようだ。
あれだけの力があれば、自信を持つのも当然なのかもしれない。
あっという間に敵は減り、レオンと魔族幹部との一騎打ちとなった。
「なんなんだ貴様らは…新たな勇者か!?だがこんなに早く次の勇者が現れるはずが…」
「勇者だよ。この世界の勇者の意思を継ぐものだ。」
そして聖剣と大剣がぶつかる。だが結果は一目瞭然だった。
魔族幹部の大剣が弾かれ、驚いた顔をする。
その後数合打ち合ったが、一方的な展開となった。
剣がぶつかる度に魔族がフラつき、次第に動きが鈍っていく。
そしてレオンの聖剣が魔族を捉えていく。
「何故だ…何故俺が打ち負ける…!?俺が力で負けるはずがない!」
「世界は広いんだよ。覚えておきな。」
とうとう大剣が吹き飛び魔族の手から離れる。
「くっ…!」
大剣がなくなった魔族は、今度は爪で応戦をする。
だがその爪はレオンの一撃で砕かれ、続く斬撃で魔族の体が斬りさかれる。
「バ...カな...」
血を流しながら魔族は倒れ、そのまま動かなくなった。
「な、何が起こった...?」
「俺たち助かったのか...!?」
手錠に繋がれた人たちは、いきなりの戦闘で何が起こったかわからない顔をしていた。
そこに降り注ぐ光の奇跡。
「ええ。もう大丈夫です。わたしたちは助けに来たんですよ。」
セリアは治癒の奇跡を使用しながら人々に近づく。
囚われ、手錠に繋がれて歩かされたことで弱っていた人々の体力が、どんどんと回復していく。
「お、おおお!」
「もうダメかと思ってた...!」
「あ、ありがとう...ありがとう...!」
人々はようやく助けられたことを理解し、歓声を上げたり泣き崩れたりと様々な反応を見せた。
その後は魔族の亡骸を焼き払い、軍の食糧は人々に渡す。
そして人々が街に戻れるように馬車を渡し、五人はここから歩いて行くことにした。
「なんだ、馬車まで渡すのか。」
「どうせあと1日程度で着くんだ。いいだろ。」
ユリウスは渋々だったが、徒歩で4日ほどの道を馬車で2日移動したなら残りは僅かだ。
念のためセリアの結界も人々にかけて万全の状態で送り出したところで、五人は魔王城に向かって歩き出した。
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「また魔族です!」
そして次の日。とうとう魔王城が遠くに見えてきたところで、再びエリスが魔族軍を発見した。
「またか。昨日と同じか?」
「数は昨日と同じ50人ほど。今回は人質は見当たりません。」
「よし。ならすぐに終わるな。」
人質がいないと聞き、レオンは安心したように言う。
「昨日の部隊が戻らない、もしくは連絡が途絶えたのを不審に思って、もう一部隊送ったのかもしれません。」
「かもな。同じ場所に二部隊送るのは普通に考えて非効率だ。だがこちらからすれば相手から来てくれる方が都合いい。」
そしてレオンが戦いの準備をし始めたところで、クロウが声を出した。
「...今回は俺がやる。」
「ん?どうした急に?」
「...昨日は何もできなかったからな。すぐに終わらせる」
「まぁやる気ならそれでいいけど。一人で大丈夫か?」
「...問題ない」
そう言ってクロウは先行していった。
「大丈夫でしょうか...。以前魔族の下っ端をまとめて倒していましたけど、今度の相手は本格的な部隊ですし。最後の幹部がいる可能性も...」
「幹部がいても大丈夫だ。はっきり言うが、周りの被害を考えずに戦うならば、あいつは俺よりも強いぞ。」
レオンの言葉にエリスが驚いた表情をする。
「なんでわかるんですか?」
「そりゃ何日か一緒にいたんだから、大体の強さは感じ取れるだろ。」
エリスにはわからなかったが、レオンはクロウの強さを感じ取っていたらしい。
昨日あれだけ圧倒的な強さを見せたレオンが、あっさりと自分よりも強いと認めた。クロウにはどれほどの力があるというのだろうか。
「ん?なんだお前は?」
そしてクロウが魔族軍の前に姿を現したところで、魔族が声をかけてくる。
「こんなところに一人でいるとは。何者だ?」
「...何者でもない。それより、お前たちの目的は?」
「ふん。頭がおかしいらしいな。見ればわかるだろう。人間たちを殺しに行くのさ。」
「...そうか。じゃあ遠慮せずに始末できるな。」
クロウのその言葉を聞き、魔族は大笑いをする。
「はははは!本格的にぶっ飛んでいるようだな!いいだろう、相手してやるよ。冥土の土産に俺の名前を聞いておくといい。我こそは魔王軍が幹部の一人、殲滅魔法使いの...」
その言葉の途中で、魔族は動きを止める。そして一気に汗を流し始めた。
「...全員戦闘陣形を組め!!」
「え?」
「いいから早くしろ!槍隊は前に!魔法隊は後ろで魔法準備!」
突然の号令に、魔族の部下たちは戸惑いながらも陣形を組む。
クロウは何もしていない。少し臨戦態勢に入っただけだ。
だが、たったそれだけで魔族幹部はこれまで味わったことがないほどのプレッシャーを感じた。
魔族軍が陣形を組んでいるところで、クロウは手を前に出す。
そしてその手の先に、赤黒い魔力の塊が生成されていった。
「おいおい...まじかよ。」
それを見たレオンは、思わずそう言ってしまった。
他の三人も同じ気持ちだ。
あれは、個人がポンと出していいものではない。
専用の術式を組み、数人がかりで時間をかけてようやく作れるレベルのものだ。
「全軍!突撃!!」
魔族幹部もそれを感じたのか、慌てて号令をかける。
クロウに目掛けて飛んでくる数十の魔法、襲いかかる槍。そして幹部の殲滅魔法も放たれる。
クロウの魔法は、たった一発でそれらを吹き飛ばした。
放たれた魔法が巨大な爆発を起こす。
音が遅れて聞こえる。風が吹き荒れる。衝撃で木々が激しく揺れる。
離れていたレオンたちでさえ後ずさりしてしまうほどの威力。
その爆発がおさまった時、そこにはもう何もなかった。
ただ破壊の跡が、変わりきった地形が広がっているだけだった。
「やっぱとんでもないな、クロウ。」
呆れた様子でレオンが近づきながら声をかけてくる。他の三人も驚いた顔ではあるが、それに続いて歩いてきた。
「...そうでもない。」
「今ので何割くらいだ?5割くらい?」
「...3割ほどだ。」
「そりゃすげえ。また頼むぜ」
レオンはそう言ってクロウの肩をたたき、何事もなかったように歩き出した。
「頼もしいですね。」
「これだと作戦も何もないな。」
「わたしよりもよっぽど奇跡の力に思えます。」
他の三人も感心したようにクロウに声をかけ、再び魔王城に向かって歩き出す。
「...」
クロウは元の世界では、世界を崩壊から救った後でも生き残った人々には畏怖されていた。クロウにまともに話しかけてくる人物などいなかった。
今回だって、兵器として投入されたのだから下っ端を倒すだけでなく、部隊を一つくらい消さないと役目を果たしたとは言えない、という思いから前に出た。
だがレオンは、この四人は、驚きつつも恐怖はしていない。普通に接してくる。
クロウはそのことを不思議に思いながら、四人に続いて歩き出した。
明日同じ時間に更新します。




