第4話 勇者たちの身の上
次の日
再び部屋に集まり、エリスから報告を聞く。
「...残念ながら、魔族軍に動きは見られませんでした。昨日幹部を倒したことにより、警戒して進軍を止めたのかもしれません。」
「そうか。逆に言えば、他の街に被害は出ないってことだな。」
「その分わたしたちの危険が高まりますよ?」
レオンの言葉にエリスが心配そうに言う。レオンやクロウは全軍を相手にしても勝てると思っているようだが、果たして本当にできるのだろうか。そんな不安がエリスにはあった。
「女神が集めたってことは、タイプは違えど俺たちは同格だ。俺が五人いると考えれば、負けるとは思わない。」
「タイプが違うからこそ勝てるか心配しているんだけどな。」
ユリウスの言葉に、セリアとエリスは同意する。街が襲われないのはいいことだが、だからと言って自分たちが負けてしまえば意味がない。
そんな不安を抱えながら出発の昼前になり、街を出ようとする五人の元に住人たちが集まってきた。
「本当にもらっていいのか?」
「当然です。あなたたちが来なければわたくしどもの命も、物資も、すべてなくなっていたのです。むしろそれだけしか受け取ってもらえないのが残念ですよ。」
街の人たちは、五人に馬を二頭と馬車を譲ってくれた。レオンは徒歩でも構わなかったが、ユリウスは歩くのが面倒だから馬車で行こうと言い、街の人たちもせめてものお礼ということだったので受け取ることにした。
「じゃあな。数日で平和な世界にするよ。」
「そ、そうでございますか。決して無理だけはしないでくださいね。」
レオンの言葉に街の代表者は困惑しながらも、頭を下げて見送る。
そうして五人は街を出発して魔族の本拠地、魔王城へと進路をすすめた。
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「レオンさんは、どうしてそこまで自信を持てるんですか?」
道中で、純粋な疑問としてエリスがレオンに問いかけた。
世界を救い女神に選ばれたとはいえ、エリスはまだ10代だ。少女と言ってもいい。まだ不安ごとの多い彼女からして、自信満々のレオンは不思議に感じる存在だった。
「なんでって...。俺は魔王を討伐して世界を救ったからな。そんな俺が自信を持たなかったら、一体誰が自信を持てるんだ?」
レオンもまた不思議そうに返す。
聖剣に選ばれ、強い魔力と肉体をもち、多くの魔族を討ち取ってきた。そんな彼からすれば、自分の実力を信じるのは当然のことだった。
「...わたしには、そこまで自分を信じることはできないので。」
「とはいえエリスも世界を救ったんだろ?だからこそ女神に選ばれた。自分を信じないのは、そんな女神の判断を疑うことにならないか?」
「そ、それは違います!女神様は人々を導く正しい存在です!というか呼び捨てじゃなく女神様って呼んでください!」
「じゃあなおさら自分のことを信じるべきだろ。自分を信じることが、その女神様を信じることに繋がるんだから。」
なんだかそれっぽい感じのことを言われ丸め込まれてしまったエリスを見て、セリアは苦笑いをする。
「セリアはどうなんだ?」
そんなセリアを見て、レオンは話を振ってきた。
「私は...。実力はともかく、今回の殲滅の判断まで正しいとは言い切れません。私は話し合いによって解決をしたので。」
「話し合い?」
「ええ。相手には相手の考え方、目的がある。それを聞き、受け入れ、傷つけない道を探す。そうすることで私の世界は争いが終結しました。」
「そうか。俺の世界じゃ考えられないな。魔族で話し合いが通じる奴なんていなかった。」
レオンとて、魔族と会話したことはある。だがそのすべてが相手を傷つける言葉のナイフであった。穏便な話し合いができるなど考えたこともない。
「ただまあ、実力には自信があるってことだろ?」
「それは...そうですね。さきほどのレオンさんの言葉を聞けば、自信があると言うべきなのでしょう。」
セリアは自身の結界や治癒で多くの人々を救い、また、争いを止めてきた。これで自信がないと言ってしまえば、争いを止めることのできなかった人たちは全員自分以下だと言っていることになってしまう。
「ユリウスとクロウは?」
話の流れで残りの二人にも聞いてみる。クロウは御者をつとめているが、話は聞いているだろう。
「オレはどうだろうな。作戦や意見を出しはするがイレギュラーはつきものだし、オレの言うことが全て正しい、とまでは思わないな。」
「でも自信はあると?」
「そうだな。色んな制度を作ることで争いを止めたから、自分の能力にそれなりの自信はある。今回は情報が少なすぎるから、誰でも思いつくような案しか出せなかったが。」
ユリウスは、力ではなく制度改革により争いを止めた。
戦争の絶えない世界、人々は「勝てる希望がある」「勝てばすべてを得られる」そう思って争いを続けていた。
ユリウスはそんな中で時間をかけて制度を変えていき、「戦争すれば絶対に損をする」という状況を作り出した。結果、緊張した状態が続きはするが、争いは起こらなくなった。という奇妙な形で平和が訪れた。
頼もしいことだとレオンは笑い、最後のクロウに目を向ける。
「...実力に関しては大丈夫だ。被害を考えなくていいなら一瞬で解決できる。」
「大した自信だな」
「...そうだな」
それだけ言って、クロウは黙ってしまった。
元の世界で突然変異のような力を持って生まれた存在。それがクロウだ。
女神すら誕生が予想できなかったその力は、文字通り世界を変えるほどのものであった。
だが残念なことに、彼は生まれてくるのが少し遅かった。
彼が力を使えるようになったころには、天変地異やイレギュラーモンスターの蔓延により、すでに世界は滅びかけていた。
彼は滅びゆく世界を、襲い掛かる脅威を、全て破壊し解決した。
生き残った人類は少なく、あらゆる文明は崩壊したが、世界の破滅は免れた。歪な形ではあるが、世界を救うことはできたのだ。
クロウは自分のことを破壊することしかできない兵器と認識しているし、世界を救うのと人々を救うことが同意義なのかもわかっていない。
だがそれでも、できるだけ人を巻き込む形で力を振るいたくないとは考えている。
それを最後に、馬車には沈黙が流れた。
話すことと言えば、時々食物を見かけて採取し、異世界の食べ物について少し話す。その程度だった。
そして動きがあったのは、街を出てから二日後のことであった。
明日同じ時間に更新します。




