第3話 勇者たちの考え
「ありがとう!」
「おかげで子どもが助かりました!」
「あなたたちは希望だ!」
街の生存者が集まってきて、口々にお礼を言う。
「助けるのは当然だ。それより、魔族の本拠地はどこにあるんだ?」
「え...。たしかここから北に、4日ほど歩いたところにあると聞いたことがありますが...。」
「わかった。後は俺たちに任せておけ。」
お礼の言葉をほどほどに受け流し、レオンは街の人たちから魔族の本拠地を聞き出す。
そして早々にその場を立ち去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
だがそこで、レオンを引き止めるものがいた。白いローブを着た女性、セリアである。
「どうした?えーと、セリアだったか?」
ユリウスとセリアの会話を聞いていたレオンは、セリアの名前を思い出しながら何か用かと振り返る。
「どうしたじゃないですよ!街はまだ燃えているし、負傷者もたくさんいます!住民や魔族の亡骸だって街中にあるんですよ!こんな状況で街を離れるわけにはいかないでしょう!」
「...気持ちはわかるが、戦後の後処理にまで手を出して時間を使ってしまえば、敵はまた別の街を襲う。新たな被害が出る。そこに駆けつけて敵を倒し、また後処理をすれば、再び被害が出る。それの繰り返しになるぞ。」
レオンはセリアの意見を聞き、冷静にそう返す。事実、彼は元の世界でそのイタチごっこを繰り返し、被害を拡大させてしまったことがあった。
「今後の被害を最小にするためにも、すぐに敵本陣を叩くべきだ。俺たちにはそれができるだけの力がある。」
「う...。たしかにそうかもしれませんが...。それでも、私はこの街の人々を置いていくことはできません。」
その会話を聞き、残りの三人も集まってくる。そしてクロウがレオンの側に立ち口を開く。
「...俺はこいつに賛成だ。」
「レオンな。というかお前の名前は?」
「...俺はクロウ。レオンの言う通り、敵の殲滅、世界の破滅の原因を取り除くのが俺たちの役目だ。必要以上にこの世界に手を出す必要はない。」
レオンとクロウが並び立ったのを見て、祭服姿のエリスがセリアの側に立つ。
「わたしの名前はエリス。わたしはセリアさんと同意見です。人々を救うことまで含めて、世界の救済だと考えています。女神様は、『勇者が破れ、人々が全滅してしまう』ということで私たちを派遣しました。ならば原因の解決だけではなく、救える人々を救うところまでが役目でしょう。」
「今ここで救っても、後に被害が出てしまえば結局救える数は少なくなる。そう言っているんだがな。」
エリスの言葉にレオンがもう一度自分の意見を言う。
そして視線は残りのユリウスに向けられた。
「たしか最後の一人の名前は、ユリウスだったか?ユリウスの意見は?」
「そうだな...」
話を振られ、ユリウスは少し考え込む。いつの間にか生存者の半数ほどは戦いの後処理に向かったようで、残りの半数は固唾をのんで五人の話を聞いている。
「今すぐに敵本陣に行く、というのは反対だな。」
「ってことは女性陣側の意見か?」
「いや、敵本陣に行く前に情報を集めるべきだ。魔族の戦力、今どこを侵攻しているのか、今後どこに侵攻すると予想できるか。それらを把握してから戦いに挑むべきだ。」
その言葉を聞き、四人はなんとも言えない顔をする。
「では街の復興の手伝いをしてから情報を集めましょう。」
「いや、この街で聞けることだけ聞いて、後は敵本陣に向かいながら情報を集めたらいいだろう。」
そしてセリアとレオンが同時にユリウスを自分側に引き込もうとする。
「この街で聞くにしても、後処理を済ませなければ落ち着いて聞けませんよ?」
「十分もあれば聞きたいことは聞けるだろう。」
「そもそもこの話をしている時間さえ勿体ないです。とにかく私はこの街の人たちを助けますので。」
それだけ言って、セリアは燃える街へと走って行った。その後ろにエリスも続く。
セリアが結界魔法で人々を救出し、エリスが手を組んで祈ることで怪我人が治療されていく。
それを見たレオンは小さくため息をつき、仕方なくセリア達の元へと歩いていく。
「一日だけだ。一日復興を手伝ったら、出発するからな。」
「...わかりました。」
巨大な水魔法で街を消火しながらそう言うレオンを見て、セリアは少し笑顔になりながら返事をした。
それを見たユリウスは、隣のクロウにボソっと話しかける。
「オレは救助活動できるような能力はないぞ。」
「...」
クロウは何も言わなかったが、ユリウスは何となく『俺もそうだ』と言っている気がした。
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夜
後処理が一息つき落ち着いたところで、五人は広い部屋に集まっていた。
「こんなに早く事が進むなんて思っていませんでした。」
セリアは感心したようにそう言う。
たった半日程度で、亡骸の搬送、怪我人の救出と治療、生存者たちの住居の確保、当分の食料や衣類の配給などを終わらせてしまった。通常では考えられない速度だ。
「女神に集められたメンバーだから、これくらいは当然だろ。ともあれ、ここまですれば明日の朝か昼前には出発できるな。」
レオンは、ユリウスが街の外から採ってきた果実を食べながらそう言う。街の食料に手をつけるのは気が引けるからという理由で、ユリウスは全員分の食料を街の外から調達してきていた。
「だがたしかに、エリスの回復魔法はすごかったな。」
「えっと、これは魔法ではなく、奇跡ですので...。」
「エリスの世界ではそういうのか。魔法と見分けがつかんがな。」
ユリウスとエリスが話しているところに、レオンが声をかける。
「それでユリウス、情報は集められたか?」
「多少は。魔族軍には七人の幹部がいたが、この世界の勇者が四人倒している。そして今日オレたちが一人倒したから、残り幹部は二人。大剣使いと、広域殲滅魔法の使い手らしい。」
その言葉を聞き、クロウが一瞬反応を見せる。
「どうした?」
「いや...。俺も広域殲滅魔法をよく使うからな。どの程度か気になっただけだ。」
「そうか...。そういえば、全員何ができるのかまだ詳しく聞いていなかったな。その辺も知っておきたい。」
そうした話し合いの末分かったこと。
レオンは剣と魔法の攻撃型。治癒も少し使える。
セリアは結界、治癒のサポート型。光属性の攻撃も使用可能。
ユリウスは戦術、盤面整理の知略型。戦闘は自衛程度。
エリスは治癒、バフデバフ、各種奇跡のサポート型。攻撃は聖属性。
クロウは広域殲滅の破壊型。加減が苦手なので、周りに味方がいると全力は出せない。
「ユリウスは自衛じゃなくても普通に戦えるだろ。」
「本業じゃないんだ。どうしてもという場面でなければ戦うつもりはない。」
レオンの見立てでは、ユリウスは勇者パーティの一員でもおかしくないくらいの実力はある。ただ本人に戦う気がなさそうなので、期待はできなさそうだ。
「それなら仕方ない。じゃあこれからの予定だが...。ユリウスはどう見る?」
「現在魔族軍は幹部が二人だけ。つまり軍を指揮できる人材が少ない。ということは、侵攻の速度も遅いということだ。もしくは、指揮官無しで侵攻してくる力押しならば、そこに戦力を固めれば迎撃可能だ。」
「ふむ。」
「侵攻ルートに周辺の街から兵士を集めて戦力を固め、敵の進軍をおさえる。その間に手薄になった本陣へ、オレたちが強襲をしかけ大将を討ち取る。」
ユリウスはそう結論付けた。つまりは少数精鋭で魔王を倒しに行くという、レオンが元の世界でやったことと同じだ。
「侵攻ルートに戦力を固めるとはいうが、どうやって?」
「あの、それならわたしがやってみます...」
おずおずと手を上げたのはエリス。
「奇跡の一つに、動物を操り視界を借りるというものがあります。それで魔族軍の動向を知れるかもしれません。」
「便利だな。わかった、やってみてくれ。」
「もし敵が侵攻せずに様子見をするならば、また考えなければな。」
「その時は、全軍をまとめて殲滅すればいい。むしろ固まってくれた方が楽まである。」
レオンはサラッとそう言い、クロウもそれに同意する。それを聞き他の三人は呆れた顔をし、その日は解散となった。




