第2話 勇者たちの実力
レオンは街を駆け回り、魔族を見つけ次第斬り伏していく。
剣を振るうたび、魔族が倒れる。
炎を切り裂き、爪を弾き、角ごと首を落とす。
(...この程度か?)
世界が違えば当然相手の強さも変わる。
とはいえ、少々手ごたえがなさすぎる。
確かに数は多い。
だが動きは粗雑で、連携もない。ただ押し寄せ、ただ暴れているだけ。
レオンは一息で十体近くを斬り伏せながら、違和感を覚えていた。
(妙だな)
これほど街を追い詰めているにしては、戦力が薄い。たしかに一般人では勝てないだろうが、鍛え上げた兵士であれば勝てる程度だと感じる。
はっきり言って烏合の衆だ。
次の瞬間、瓦礫の下から助けを求める声が聞こえた。
「た、助けて...!」
視線の先。
崩れた建物の隙間に、幼い子どもが挟まっている。
レオンが駆け寄ろうとした、その時。
白い光が先に届いた。
白いローブを着たセリアの結界が瓦礫を押し上げ、子どもを包み込む。
(...俺の出る幕ではないか。)
剣でできるのは、相手の殲滅。
建物を剣で斬ったり吹き飛ばしたりもできるが、救助には不向きだ。
適材な人間がいるなら任せたほうがいい。
そう思っていたところで、視界の端で戦場を見渡していた男、ユリウスが指を動かしていた。
地面に簡単な図を描いている。
街の形。魔族の配置。壊れた箇所。
「...なるほど」
小さな呟き。だがその声は、妙に重かった。
「これは、侵攻の段階じゃない。」
レオンが一瞬だけ視線を向ける。
ユリウスは戦場を見渡したまま続けた。
「侵攻はすでに終わっていて、本戦力はいなくなっている。ここにいるのは略奪と殺戮を楽しむだけの、ただの下っ端だ。」
それを言い終わった直後、突如として火の中から魔族が出てきてユリウスに襲い掛かった。
だがユリウスは目を向けることなく、いつの間にか抜刀していた剣で斬り捨てる。
「こんなふうに、オレでも倒せる程度のやつらだ」
「...なんだお前、戦えるんじゃないか。」
一連の動作を見て、思わずレオンは言葉にする。今のはどう見ても実力者の動きだ。
「戦いは専門じゃない。そういうのはお前や他の奴らに任せるさ。」
そのとき、遠くから悲鳴が聞こえた。
そちらに目をやると、焼けた建物が親子に向かって崩れてきていた。
しかし次の瞬間、爆音とともに建物は消し飛んだ。
近くには、建物の影にいたはずのクロウ。少し指を動かしたのは見えたが、それ以外は何もわからなかった。
そこに駆けつけてきた、祭服姿のエリス。急いで親子に回復魔法をかけている。
治療をしながら何やらクロウと話しているが、レオンとは距離があったため聞こえなかった。
その光景を眺めていたところで、突如として街の空気が変わった。
魔族たちの動きが止まる。そして一斉に、後退を始めている。
「逃げるのか...?」
突然統率が取れた動きをしだした魔族たち。
次の瞬間、街の外れの黒煙が歪み、禍々しい魔力が形を成す。
『そろそろ終わったかと思って様子を見に来たら...なんだこれは?』
響き渡る声。
気配でわかる、こいつはこれまでの雑兵とは違う。魔族の主戦力だ。
レオンたちは自然と五人集まり、その声の主に目をやる。
『貴様たちは何者だ?勇者はすでに死んだはず...。まさか他にも勇者がいたのか?』
その言葉と共に、黒煙の中からそいつは姿を現した。
人型ではあるがレオンより一回り大きく、二メートルほど。肌は紫。頭には角が生えていて、目は赤色に光っている。
そして強大な魔力。いや、魔力だけではなく肉体も強靭。
魔族なのだろうが、明らかに他とは桁違いの強さだ。
「そういうお前は誰なんだ?」
レオンは剣を構えながら質問を返す。他の四人もすぐに
動ける構えだ。
...いや、クロウだけは何を考えているか読めないが、それでも視線はその魔族に向けている。
「名乗る必要があるのか?」
魔族は肩をすくめた。
その動き一つで、周囲の空気が軋む。
「名乗ったところで結果は何も変わらん。この街の、そしてお前らの結果もな。」
赤い目が五人に向けられる。
「...しかし、勇者が複数いるとは想定外だったな。」
わずかに楽しげな気配を感じる。
そこでユリウスが一歩前に出た。
「質問を変えよう。ここに本隊はいないな?」
魔族は、口角を歪めた。
「そうだ。残念ながら来るのが遅かったな。貴様らは、この街を守れなかったのさ。」
レオンは剣を強く握り直し言い返す。
「たしかにこの街はもうダメなのかもしれない。だが元凶である魔族を、お前たちを倒せばこれ以上の被害は出ない。」
「ほう?やる気か?普通は俺を見たら恐怖で逃げ出すものだがな。さすがは勇者だ。」
魔族は感心したように言葉を続ける。
「前の勇者もそうだった。俺たち魔族幹部を見ても、臆するどころか挑んできた。あいつのせいで幹部が数人いなくなり、魔王様は随分不機嫌だ。全く、迷惑な勇者だった。」
それを聞き、レオンは歯を強く食いしばった。
(...そうか。)
この世界の勇者は、何もせずに敗れたわけではない。世界を守るためにしっかりと戦った。
だが道半ばで倒れてしまった勇者の無念を思うと、胸が張り裂けそうだった。
他のみんなも同じ気持ちのようで、エリスは手を組み祈るように呟いた。
「この世界の勇者よ...あなたの戦いは無駄ではなかった。女神に選ばれたわたしたちがそれを証明します。」
その言葉と共に、五人全員に光が宿った。何かしらの強化魔法だろうと推察し、レオンは魔族に近づいていく。
「そう焦るな。次会うときに本隊を連れて存分に相手してやるさ。」
そう言って魔族は撤退をしようとするが...
「ローブの魔法使い。結界だ。」
「セリアです。わかっています。」
ユリウスの言葉と同時、セリアが結界を使い周囲を囲む。
その結界により魔族幹部は撤退を阻まれてしまった。
「...なんのつもりだ?」
「敵が目の前にいるのに、わざわざ引かせる必要があるか?本隊と離れているならなおさらチャンスだ」
ユリウスがそう言い、皆の顔を見る。皆同じ意見のようだ。...と思ったが、いつの間にかクロウがいなくなっていた。
「あの影に隠れていたやつは...よくわからんな。まぁいい。あとはお前の仕事だ。」
「俺はレオンだ。お前も戦えるだろうに。だがいいだろう。」
聖剣を握ったレオンが、魔族幹部に向かって走って行く。
「ふん。どうあっても俺をやりたいらしいな。いいだろう。全軍、突撃だ。」
それを見た魔族幹部は、後退して街の外に出ていた雑兵に向かって命令を出す。
だがその直後...
ドン!という爆発音が街の外から聞こえてきた。そして続けて二回、三回と続く爆発。
その場にいた全員が思わず音の方向に目を向けると、街の外からクロウが歩いてきた。
「...外のやつらは終わった。後はそいつだけだ。」
「な...!?いくら雑魚と言えど、あの数を一瞬で!?」
「...もうお前が全部やれよ。」
クロウの言葉に驚愕する魔族幹部と、呆れるように言うレオン。
「...俺がやると街が吹き飛ぶが、いいのか?」
「そりゃよくないな。俺たちは大丈夫でも、まだ生存者がいる。仕方ない、俺がやろう。」
それを聞き、レオンは再び敵に聖剣を向ける。
「...チッ」
魔族は舌打ちをし、周囲の結界に殴りかかる。壊して撤退するつもりだろう。
だが...
「そう簡単には壊れませんよ。」
セリアの言葉通り、拳をぶつけても鈍い音がするだけで結界はびくともしない。
「な、なんなんだ貴様らは...!」
ここにきて、これまで余裕を見せていた魔族が焦り出す。
得体のしれない五人。以前の勇者とは全く違う。何故こんなやつらが今になって出てきた?
「なんだと言われればそうだな。」
レオンは聖剣を振りかぶり、魔族に向かって振り下ろす。
「この世界を救いにきた、救世主たちだよ。」
ガアン!という音が街中に響き渡った。
レオンの聖剣は魔族幹部の爪で受け止められたが、その爪にはヒビが入っている。
「バカな...一撃でヒビが...!?」
「むしろよく一撃止めたな。感心するよ。」
今のは元の世界だと、魔王にさえ通用した一撃だ。それを受け止めたことを称賛しながら、レオンは続けて剣を振るう。
「ま、待て...!」
「お前はそう言われて待ったことがあるのか?」
魔族は必死に受け止めるが、剣を受けるたびに爪が傷ついて行く。
そして六回受け止めたところで、とうとう爪は砕け散った。
「な...」
「隙だらけだ」
驚愕している魔族を容赦なく聖剣で斬りつけるレオン。
魔族の青い血が飛び散り、膝をつく。
「そんな...この俺が、こうもあっさり...!」
「相手が悪かったな。あの世で勇者に謝って来い。」
その言葉と共に、魔族の首が胴から離れた。
聖剣を振り抜いたレオンは、血を払い落としながら剣を納める。
「ひとまず、この街は殲滅完了だな。」
その光景を見ていた街の生存者たちは、一斉に歓喜の声を上げた。




