第1話 勇者たちの招集
世界は救われることもあれば、滅びることもある。
それは善悪の問題ではなく、ただ結果の話だ。
数多の世界を管理する女神は、いくつもの世界を見てきた。
何も起きず、平和が維持される世界。
勇者が勝ち、平和が訪れた世界。
勇者が敗れ、闇に呑まれた世界。
そして今また正義が倒れ、恐怖だけが残された世界が静かに滅びへ向かっている。
女神は決断した。
その世界を救うために、すでに各々の世界を救った者たちを集めることを。
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「...また女神か」
光に包まれた空間で、レオンは小さく息を吐いた。
女神の間。
異次元にある、何度も呼び出された見慣れた場所。
剣を握っていないのに、身体は自然と戦いの構えになっている。
視線を巡らせると、すでに数人の姿があった。
白いローブに身を包み、静かに周囲を見渡す女性
その少し後ろで、腕を組み、興味なさそうに天井を見上げている男
祭服姿で祈るように目を伏せる少女
そして、柱の影に寄りかかり、存在感を極力消している男
(...俺含めて五人か。全員、ただ者じゃないな)
レオンは直感でそう悟った。
武力や魔力の気配ではない。
「世界の運命を決めた」という雰囲気が、全員から微かに漂っている。
おそらく、全員が別世界から集められた存在だ。
そう思ったところで正面に光が集まり、女神の姿が現れた。
「集まってくれて感謝します。勇者たちよ」
柔らかな声。
しかしその声音には、いつもより僅かな疲労が混じっていた。
「あなたたちを呼んだ理由は一つ。...滅びかけている世界を救ってもらいたいのです。」
空間に重い沈黙が落ちる。
「すでにその世界の勇者は敗れました。国々は崩れ、民は逃げ惑い、魔王は勝利を確信しています」
レオンは歯を噛みしめた。それは、あまりにも馴染みのある光景だった。
「あなたたちには、その世界へ向かってもらいます」
女神の言葉に、白いローブの女性が反応をした。
「...私たち全員で、ですか?」
「はい」
即答だった。
「一人では間に合わない段階まで来ています。ですが、あなたたちならきっと───」
その言葉を、レオンは半ば聞き流していた。
(要するに、魔王を倒せばいいんだろ)
単純で分かりやすい。
そして間に合うなら、それでいい。
だが視界の端。柱の陰で存在感を消していた男が小さく呟くのが聞こえた。
「...兵器を使う段階か」
レオンは思わずそちらを見た。
その男は、どこか他人事のような目で女神を見ていた。
まるで、自分がこれからやることをただの「処理」だと感じているように見える。
その瞬間、レオンは理解した。
(...こいつら、全員俺とは違う)
救い方も、考え方も、それぞれの信条を掲げている。一致していない部分がある。
だが、残念ながら意見を話し合う時間はないらしい。
女神が手を掲げ、空間が軋む。
「転移を開始します。レオン、セリア、ユリウス、エリス、クロウ。どうか、世界を救ってください」
光が溢れ、集められた英雄たちの姿が掻き消えた。
その先に待つのが、救済か、破壊か、あるいはその両方か。
この時点ではまだ、誰にも分からなかった。
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光が弾け、地面の感触が戻った。
次の瞬間、耳を打つ悲鳴と爆ぜる炎の音が、現実を叩きつけてくる。
「...チッ」
視界に街が広がるのとほぼ同時に、レオンは舌打ちをする。
街が燃えている。建物は崩れ、空には黒煙が立ち上り、石畳には血が散っていた。
逃げ惑う人々を追い立てるように、異形の影が街を練り歩いている。
魔族だ。
角、爪、歪んだ身体。
数は多いが、統制は取れていない。
いや違う。統率を取る必要がないのだ。
もはや街に抵抗できる戦力はなく、魔族の動きは勝利を確信した者の動きだった。
(もう、終盤か)
そう理解した瞬間、レオンは地を蹴っていた。
聖剣が抜かれ、閃光が走る。最前列の魔族が、抵抗する暇もなく両断された。
レオンの背後では、別の動きがあった。
白いローブの女性──セリアが人々の方へ走っていく。
結界が展開され、瓦礫と炎が押し止められた。
その少し後方。
女神の間で興味なさげに天井を見上げていた男──ユリウスは足を止め、戦場全体を見渡している。
剣も魔法も使わない。ただ、崩れた街の構造と魔族の配置を、冷静に観測していた。
祭服姿の少女──エリスは一瞬だけ立ち止まり、胸元で祈るように指を組んだ。
次の瞬間、聖なる光が灯り、負傷者の血が止まる。
そして気配を消していた男──クロウは、動かなかった。
建物の影。そこから一歩も出ず、戦場を眺めている。
(...やっぱりな)
レオンは歯を食いしばり、次の魔族を斬り伏せた。
集められた俺たちの考え方は違う。救い方も違う。
だが今は...
(倒すしかない)
この街が完全に壊れる前に。
ここにいる魔族を殲滅する。




