操られ、監視カメラ
もし、このアパートに泥棒が入ったら。僕の、この部屋に入ってきたら。ろくなもんがない部屋だけど、銀行のカードとかはあるし。可能性はゼロじゃない。
備えあれば憂いなし。僕は考えついた。この部屋のドアの上に監視カメラみたいなのをつけるのだ。みたいっていうのは、本物をつける金が無いから。
泥棒は思うと思う。こんなボロアパートの部屋ン中に監視カメラがあるかよって。だから無視するか、壊すと思う。犯罪のドーパミンでその時は特に気にしないだろうさ。でも家に帰って思うんだ。もし本物だったら。壊していても、あれはダミーだったんじゃないか。本当のカメラは隠されてあって、ちゃんと監視されていて。そうやって不安にさせてやるんだ。
なんて思って、数ヶ月前にダミーをつけたんだ。今日、家に帰ってきたら、部屋が荒らされてた。銀行のカードは無くなっていて、監視カメラは天井から外されて折られてた。僕の頭の中には、泥棒に入られた絶望感と、してやったりという優越感の2つがあった。といっても、流石に絶望感が8割を占めている。今頃、泥棒は後悔に打ちひしがれているだろう。どうしよう、ダミーだったら。監視されていたら。本当は、この部屋が罠だったのでは。そう思ったら、泥棒はどうするだろう。早く罪を償おうって自首するとか。いや、そんな甘いのか。もし、一線を越えているやつだったら。まあ、泥棒の時点で一線越えているやつだけど、何線か越えているやつだったら。この家に住むやつ、つまり僕を消しに来るのではないだろうか。え、もしかしてそうか。そうなのか。僕は今まずいのか。危ない状況なのか。誰がそうしたのか。僕がそう仕向けたのだ。泥棒を弄びたいという遊び心で、オモチャを天井にぶら下げた、だけなのだ。なんとも廊下が冷たい。薄暗い。背後の玄関に振り向けない。海に浮かぶ、死んで膨らんだ鯨のように、立ち尽くす僕はたった一人のまま、頭の中で妄想を膨らまして。
え、あれ?あれはなんだろうか。床には確かに折られた監視カメラがあるはずだった。2つはないのだ。ではあれはなにか。天井の隅に取り付けられた、僕の監視カメラと同じもの。取り付けた犯人は泥棒だと思った。泥棒が、僕のことを監視して、これからどこへ逃げようか計画を立てているのかもしれない。または、僕が部屋を荒らされて溢す絶望の表情を見たいのかもしれない。それとも、やはりダミーか。泥棒が僕に、僕と同じような嫌がらせをしているのか。ダミーなら腹が立つ。人の部屋を荒らしておいて。いや、そんなことを泥棒がするのか。本物かダミー、どちらの方があり得るのか。本物なら、脅しなのかもしれない。今俺はお前を監視している、通報しようものなら今すぐお前の家に行くぞ、という意味なのかもしれない。ではカメラの届かない外で通報したら大丈夫なのか。まず泥棒は何処にいるのか。まさか玄関の前にいて、僕が外に出ようものなら。ああ、僕はどうすればいい。一か八かで壊してしまおうか。でも壊してしまえば、部屋に隠れている泥棒が僕に飛びついてきて。動けない。恐ろしい。
そうして僕が選んだのは、その存在を忘れていつも通りの生活をすることだった。もしダミーなら、どうってことない。もし本物なら、監視している泥棒は不気味に思うだろう。絶対に気づくはずの監視カメラの存在に気づかず、普通の日々を過ごしている男、被害者。してやったり。そうやって不安にさせてやるんだ。
【終わり】




