動き出した歯車
「こんにちは、衣羽さん」
「琢越さん!?どうされたんですか?」
「いえね、宅文さんから頼まれまして。」
琢越さんは初天の働いている職場の店長だ。
琢越さんは目が悪く、眼科で調べても原因が分からず、以前父の元に治療に通っていた。
不思議な事に殆ど視力は無いのに何処に何が有るか分かるらしく、生活する分には困らないらしい。
視力とは違う別のもで見えているらしく、父も研究の為に琢越さんに協力して貰っていた。
ただ、やはり不便な事もあるので直るなら治療をしたかったようだ。
父があんな最後になって本当に悲しんでくれた数少ない人の1人だった。
父が大学を追われた時も妹の仕事先でお世話になった。
琢越さんの経営する店は水商売だが、やはり普通の仕事より遥かに高収入で、他の店に比べて女の子達も守られていて妹も安心して働いていた。
私の事も何かと心配して気にしてくれていたので父親のように感じていた。
「衣羽さんがお子さんを産んでから調子が悪いらしく、知り合いから良い漢方を頂いたらしくて。宅文さんは少し忙しいらしく、気心の知れた私から渡して欲しいと。」
「そうでしたか」
「ついでに外に出られない衣羽さんの気晴らしに話し相手になってあげて欲しいと」
「それはそれは…お忙しい中本当に有り難うございます。」
「いえいえ、しかし衣羽さんも初天さんも…本当にお辛いでしょう…」
「そうですね…やはり気落ちしてしまって…でも初天はもっと辛いでしょう。結婚を約束していた相手があんな形で…」
「そうですね…でも、亡くなる前にうちの店に蓬治さん来てくれたんですよ?」
「そうだったんですか」
「ええ。その時に結婚の約束をして、指輪も貰ったって。そりゃ嬉しそうに」
「そうですか…」
「だからね、初天さんは籍はまだでも結婚はもうしてるんだって気丈に…」
「初天…」
「だからね、衣羽さんも元気をださなきゃね。巌くんもいるんだし。」
「ええ。この子の為にも私も初天を見習って頑張らなきゃ。」
「そうですよ!母は強しですよ!」
「はい。有難うございます。琢越さんのおかげで元気がでました。」
「そうですか!少しはお役に立てて良かった。またお話しに来ますからね。」
「はい。楽しみにしています。今日は有難うございました。」
「いえいえ、では。」
巌が小さな手で私の小指をぎゅっと握りしめて私の目をじっと見つめて、ニコッと笑った。
この子の為にも頑張らなきゃ…
そう決意していた。
○○○○○○○○○○
「宅文くんが困ってるって聞いてね」
そう言って伊藤基平から薬を渡された。
「これは?」
「実は私も人間での結果を見ていないんだよ。」
「…」
「だからね、是非使用後にどうなったか教えて欲しいな」
「…」
マジか…
俺を助けるテイで人体実験ですか…
まあ、治療の薬ではない…だろうな。
せめて苦しまず楽に逝ってくれ…
耳垢程の俺の良心がそう呟いていた。
この何かヤバそうなブツを琢越に衣羽に渡してくれる様託した。
その場で飲んだなら騒ぎになりそうだったから、こっそり伺っていたが普通に琢越が出て来たので飲まなかったのだろう。
飲んでいたら琢越も始末して不貞の無理心中を偽装しようかと画策していたが無駄な労力を使わずに済んだ。
まあ、誰もいない所で飲んでもらって、気鬱の自殺に見せかけよう。
「ねーえー、ウェディングドレスどれが良いー?」
「そうだなあ。俺はコッチかなあ。」
「わあ!私もそう思ってたあ!やっぱり気持ちが同じだね!」
俺がこんな事を考えているなんて知る由もない卯愛が呑気に結婚式の打ち合わせを進めていた。
○○○○○○○○○○
「ギャァーーーー!」
「オギャーオギャー」
貰った漢方薬を飲んだ数十分後…
衣羽の皮膚が赤く腫れ上がり
全てただれ落ちていた。




