2つの事件
「初天ちゃん、5番テーブルに指名入ったから宜しくねー。」
「はーい。」
「初天でーす。いらっしゃいま…」
「初天ちゃーん!会いたかったー!」
「直輔…!何でこんな所に来てるのよ!」
「初天ちゃんに会いたいからに決まってるじゃないー!」
「…」
この直輔は姉の夫、宅文と同じ父の元で助教授をしていたが、父が大学の教授選の時に敵対する相手教授に買収されて父の失脚の為に偽装工作の手助けをした男だった。
結局裏切り者として知れ渡ってから大学に居られなくなり、辞めた後今は噂ではガラの悪い奴らの元で医学や薬物の知識を利用して働いていると聞いていた。
相変わらず姑息で意地汚い人間だ。
私に付き合っている人がいるのを知っていて言いよって来ていた厄介な人間でもある。
姉は身重で宅文も当てにならないので、私は今は家の助けになればと水商売をしている。
まあ所謂キャバクラなのだが…
「俺ねー!今凄い稼いでるからさー!この店で1番高い酒空けてあげるー!」
「そりゃどーも。」
「その後はー!初天ちゃんとー!アフター行ってー!ホ・テ・ル!行こっ!」
「私、そーゆー営業してないんで。」
「すっご〜く気持ちよくなる薬も持ってるからさー!中々手に入らないんだよー!一緒に天国いこっ!」
「そんな地獄ごめん被ります。」
「そんなー!売り上げ貢献してあげてるんだから!つれなくしないでよー」
「やめて下さい!離してっ!」
抱きついて来た直輔から離れようとしていたら、不意に誰かに引き剥がされて抱き寄せられた。
「すみません、この子、僕とアフター約束してるんで。」
「っ!蓬治!?」
「佐藤!」
「まるでチンピラですね。みっともないですよ。嫌がる子に抱きついていると出禁になりますよ?」
「っ!」
「すみませーん、このお客、悪酔いしてお店の子に無理矢理抱きついて困ってるんで帰して下さい!」
そう蓬治がボーイに声をかけると店の荒事専門の怖いお兄さんが数名出て来てくれた。
「くそっ!佐藤、覚えてろよ!」
そう言って直輔は悔しそうに出て行った。
「蓬治…今までどうしてたのよ!」
私は思わず泣いていた。
「とりあえず、アフター行こっか…」
「うん…」
「琢越さーん、あがって大丈夫?」
「いいよー。今日は初天に稼がせて貰ったからねー。」
店長のお許しが出たので蓬治と店を出た。
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「一体…どうしてたのよ…姿消しちゃって…凄く寂しかった…」
「ごめんね…」
蓬治も父の元で助教授をしていて、私と付き合っていた。
やはり蓬治も巻き込まれた形で大学を辞めていた。
「今はね、あの時騒動になった原因の医療機器メーカーで働いてるんだ…」
「そうなの!?」
「うん。あの時の事を調べたくてね。僕は寝返ったフリをしてあの会社に入り込んで探ってる」
「そんな!危ないよ」
「いや、四谷さんは立派な人だった。今でも尊敬している。汚職をしているのは伊藤教授だ。絶対証拠を見つけてやる…」
「蓬治…」
「だから…それまで待ってて欲しい。雪辱を果たしたら…僕と結婚して欲しい。」
「うん…うん…嬉しい…でも…危ない事はしないでね…蓬治が居なくなると私…生きていけない…」
「僕もだよ…愛してるよ、初天」
「私も…ずっと蓬治だけ愛してる…」
○○○○○○○○○○
「次のニュースです。昨晩、○○町の路地裏で男性が殺害されて遺体が発見されました。所持品からこの男性は●●医療機器メーカーの会社員、佐藤蓬治さんと判明致しましたが、遺体の損傷が激しく顔が認識出来ない状態のため…」
「初天!」
「何!?お姉ちゃん」
「お父さんが…通り魔に…」
「えっ!?」
「殺された…」




