予言
「お久しぶりです、何だか大変だったと噂で聞きましたが…」
俺は四谷冴問と言う男に呼び出されていた。
四谷は俺が何校か客員教授で行っていた大学の内の1つ、医学部の准教授…だった男だ。
フランクで人当たりが良い人物で、俺なんかとも気軽に雑談してくれていた。
「急に呼び出して申し訳ないね。まあ、私は噂通りに汚職の濡れ衣を着せられてこの通りだよ。」
四谷は大学の教授選に敗れた敗者だった。
普通の大学ですら怪文書など出回ったり一波乱あるが医学部ともなるとえげつない。
政治家の選挙戦並み…下手したらそれ以上なのかも知れない。
四谷は人は良いが派閥や裏工作といった類は得意では無かったのだろう。
それとも付いていた教授を見誤ったか…
本人が言う通り身に覚えの無い罪を被せられて退職に追い込まれていた。
くわばらくわばら。
「娘の…姉の方の依羽は知っていたかな?」
「はい、何度か四谷さんのお宅にお邪魔した時にお会いした事がありましたが。」
衣羽さんと妹に確か初天さんと言う姉妹の娘さんがいて、どちらも美人だったのを覚えている。
「その衣羽に宅文と言う夫がいてね、まあ宅文は私の大学で助教授をしていて、その縁で衣羽と結婚したんだが…」
「はい、宅文さんも覚えていますよ。」
この宅文と言う男はかなりの男前で、衣羽さんと並ぶと正に美男美女の夫婦だった。
「宅文も私と同じ教授に付いていたので、結局大学を辞めることになってね…」
「そうでしたか…」
「今は衣羽のお腹に子供が出来ているんだが…まあ、宅文はあの通りの見た目の整っている男でね…今は衣羽をほったらかして外で遊んでいる。多分女でもいるんだろう」
「それは酷い…」
「近い内に離縁させるつもりで衣羽も了承しているのだが…」
「それはまた…大変な事が続いて四谷さんもお辛いでしょう」
「まあ…私よりも…衣羽が気落ちしていてね。もし良ければ原田くんに話し相手になって貰えないかと…」
「私ですか?医者では無いのでカウンセリングとか専門職じゃないですし、余りお役に立てないと思いますが…」
「治療などではなくて、ただお喋りして欲しいんだ。君と話していると楽しいから、きっと衣羽も気が紛れると思うんだ。」
「そうですか…まあ、雑談なら僕でもお役に立てるかと思います…」
「そうか、良かった。では宜しくお願いするよ」
「はい。」
そんな経緯で衣羽さんと四谷さんのお宅で会う事になった。
○○○○○○○○○○
「お久しぶりです、原田です。」
「原田さん、なんだか父が無理を言った様でお忙しいでしょうに、申し訳ありません。」
「いえいえ、私はお喋りが好きなのでお気になさらず。」
「有難うございます」
「おかげんは如何ですか?」
「そうですね…元気です。と言いたい所ですが…多分父から聞いていると思いますが、滅入ってしまってます…」
「そうですか…まあ色々有りましたし妊娠中ですので不安定な気持ちになるのは仕方ないですよ。余り思い詰めないで下さいね。」
「有難うございます」
「何か身内などには遠慮して話せない様な些細な不安な事など有りましたら他人の私になら話せるかも知れません。」
「成る程…」
「何か有ればお聞かせ下さい。」
「そうですね…本当に…父や妹には話せないような…馬鹿馬鹿しい事かもなんですが…」
「はい。私はどんな話にも馬鹿にしたりはしませんよ。」
「有難う御座います。実は…」
そう言って衣羽さんが話出した内容は奇妙な話だった。
○○○○○○○○○
私のお腹の子供が話しかけてくるんです。
自分は過去から生まれ変わって来たと。
私がこの先どの様な目に遭うか見えていると。
同じ事が繰り返されていると。
宅文とやがて結ばれる卯愛と言う女の祖父に私は殺されると。
妹の初天も兄に殺されると。
しかし、私達には兄は居ません。
これは変えられない運命だが、自分が最後に全て恨みを晴らしてあげると。
その為に衣羽のお腹に宿って来たと。




