幻想白、黒糖~永想
満月の夜に珈琲を飲む、ただそれだけの話のはずだった。
壱乃盃
この珈琲は何色だろうか。
和風な家だから、風情があるからって理由でわざわざ縁側で、私が好きな珈琲を飲んでいる。
何で緑茶じゃないんだとか、夜に飲むには珈琲はカフェインが強いじゃないか?
とか頭の中から野次が飛んでくる気がするが、気にしない、別に夜に和風な家で珈琲を飲んだって人の自由じゃないかと。
眠りにくいとかそんなのは本人の責任だし、珈琲を飲むには洋風建築じゃないといけないなんて価値観は私はつまらないと思うのだが。
別に誰に言われたわけでもないのだけれどね。
何故、珈琲の色を問いたか。
今、コーヒーカップに珈琲を注いだものを縁側に持ち出して飲んでいる、元は珈琲は茶色っぽいような液体だ、だが夜の暗さで黒く染まっている。
しかし、珈琲に満月が映っている。
ただそれだけなのだが、その珈琲は黒くも白い、中心に白い円が映し出されている。
まるで大きい砂糖が浮かんでいるかのような、そんな模様だった。
この月は別に私の日常に何も起こさない、何の変哲もないただの満月、なのに、強烈に記憶に残り、この月が珈琲に移った理由を考えてしまう。
珈琲をずっと眺めていて飲むのを忘れていた、私は珈琲を一口啜ってみた、因みにブラックでホットなコーヒーだ。
「普通だな...」
味は変わらなかった、見た目も変わることはなかった。
月は映り続ける、量が少し減った珈琲にも、満月は中心から離れなかった。
味も何も変わらないが、満月は映り続ける。
黒い珈琲を照らし、白く輝く様は円形の砂糖のように感じさせた。
黒い珈琲には白い月が映り、縁側で啜る和風な日常を少し甘くしてくれる。
珈琲に映る日常に介入してきた美しい非日常、何の変哲もないただの満月だが、私の世界は少し明るくなったのだ。
私は偶然、珈琲に月が映る現象を黒糖と呼ぶことにした。
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弐乃盃
月の海に浮かぶ城、潘苦の白綱城。
その城は、妖怪が住む側の月にたどり着いた人間を招き、妖が酒と情を飲む場所。
そこのカシラとも言える月から生まれた幻想の妖、吸血鬼とも言える血を好む妖怪でありながら、肉や野菜、虫も食う雑食の吸血鬼。
言えば、間情月血の鬼。
屍や幽霊も食う異色の妖怪であるが、自由人だ。
潘苦の白綱城は妖怪が自由に跋扈する。
頭領の吸血鬼が自由人で、いついかなる時も盃を手から離さず、城や城下町など場所を問わず酒と血を啜る酒豪である野生的かつ器が広い妖怪なため、城は月の妖怪のコミュニティ広場になっている。
雑食で常に酔っているので月の妖怪からは、「いつか食われるんじゃないか?」と恐れられている。
そんな間情月血の吸血鬼は天守閣に飾られている鏡、月の御鏡に映る月を盃に注いだ血と酒の混合酒に写し、月の力をもつ酒と成った信仰酒を飲む。
「月の力を頂きながら、酒も血も飲める。贅沢じゃないか、今宵の月は。」
そんな言葉を溢す、月を移す月の御鏡は月に集まる信仰や感情をも写し、映る月から鏡としての妖力を補充し存在を保つ幻想法具。
「ただ、今日の月はちと荒いな。
世界から集まる信仰心が乱れて、澱んでいるな。」
盃に入った信仰酒を飲み干し、ケタケタと笑う。
「地球では何が起こっているのかのぅ、厄災が身を振るっているのか、地球そのものが怒っているのか。
地球は月からの使者を多数送っているし、妖怪で人間共が死ぬことはないじゃろ。」
吸血鬼の晩酌は、冥い静かな城に水音と世界を見透かす笑い声を響かせた。
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「またか。」
揺れる。
地球がというより、日本海プレートがずれているだけだろうが、ここの所そこそこの揺れが毎日起きていて不安になるな。
まぁ、でかい揺れが来たとしても私は生きるだろう。
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私には星が見える。
人間は瞬く間に消える美しい星だ...といっても、私以外の人間にはわからない、分からなかった。
誰に言っても、私の見る空の景色は理解されなかったのだ。
皆が見る空は青く、橙だったり、黒かったりする。
私もそうだ、同じ空を見ている。
だが、いつでも空には星が浮かんでいる。
その星は、灯るい線を結んで繋がっている、繋がりが解けることもあれば、星と星が灯るい線を結びより輝くこともある。
星は灯火のようで、世界に散らばって世界を小さく照らしていた。
私にだけ見えていた、私以外には見えなかった。
中心には大きい星が存在し、それを核に線を延ばして他の星と繋がり無数の星と結ばれている。
この星を説明しても、誰にも理解はされなかった、母親に言っても、父親に言っても、友人に言っても、恋人に言っても理解されることはなかった。
恋人が亡くなった時に空を見た。
中心から一番近い、他より輝く星が消失した、もう言い訳はできなくなってしまった。




