33:夜明け
ソーレンはミラを背に庇いながら、クロウが消えた白煙の向こうを睨みつけていた。
足元には黒い手榴弾の殻が転がり、辺りにはまだ白く揺らめく煙が名残を残していた。
遠くでサイレンがけたたましく響いたかと思えば、ほどなくして赤と青の光が交互に明滅しながら倉庫前に到着した。
「警察です!武器を捨ててその場に伏せろ!」
少し遅れて到着したイーライが、現場をざっと見渡すとソーレンの元へ駆け寄る。
「ソリ!無事か!?」
「イーライ! クロウは逃げた。残りの3人は倉庫の中だ……まだのびてるといいんだが」
その報告に数名の警官たちが動き出すのが見えた。イーライはソーレンの顔をまじまじと見つめ、安堵の息を漏らす。
「よかった……お前、大丈夫そうだな。すぐに医療班が来る。少し座ってろ」
「あぁ、少し休ませてもらう」
よくやった、とソーレンの肩を軽く叩くと、イーライは他の警官たちと共に倉庫の中へ入っていった。
「っ⋯⋯こっちは何発かいいの食らってんだがな⋯」
そう言いながら肩をさするソーレンの顔にはふっと力が抜けた笑みが浮かんでいた。
医療班が到着し、ソーレンに応急処置が施される。ミラも椅子に座らされ、毛布をかけられていた。
救急車のサイレンが遠ざかると、騒がしさも少しずつ引いていく。
騒動の熱がまだ残る倉庫の隅で、ソーレンとミラだけが取り残されたように、静けさに包まれた。
ミラはゆっくりと立ち上がり、ふらりとソーレンの隣に並ぶと、包帯が巻かれた彼の腕にそっと触れた。
その仕草はためらいがちで、けれどまっすぐだった。
「……ソーレン。あなたに何かあったらって思ったら……生きた心地がしなかった」
その声も、触れた手も震えていた。けれど、その瞳だけは迷わず彼を見ていた。
ソーレンは少し驚いたように目を見開くと、照れ隠しのようにふっと笑った。
「それは……俺のセリフだよ、ミラ」
ゆっくりと、彼は彼女の頬に手を添えた。
傷だらけの指先が、そっと彼女の肌に触れる。
その温度に、ミラの目が潤んでいく。
「君がいてくれてよかった⋯⋯。正直、誰かに守られるなんて初めてだったんだ。本当に⋯⋯ありがとう」
ミラはゆるく首を振り、微笑む。けれどその目からは、大粒の涙がひとすじ、彼の手を濡らして落ちた。
「私の方こそ⋯⋯守ってくれてありがとう⋯⋯」
ソーレンはその手をそっと握る。
言いたいことは山ほどあるのに、言葉が追いつかない。
「あの男⋯⋯きっと捕まえてみせるよ」
「えぇ、必ず終わらせてみせるわ」
「君とならきっとできる、ミラがいてくれるなら⋯⋯」
「ソーレンがいてくれたら、乗りこえられるって私もそう思うの」
ふたりの顔が、自然と引き寄せられる。
吐息が混ざり合う距離。
ソーレンの視線がミラの唇に、一瞬だけ落ちる。ミラはそっと目を閉じ——だが、唇は重ならない。
ソーレンはそっと目を閉じ、コツンと額を合わせた——触れそうで触れない。けれど確かに、すべてを分かち合ったような時間。
ミラは静かに、ソーレンの優しいお日様の香りを吸い込んだ。
外では夜が明け始め、空が淡く白んでいく。
倉庫の奥からは、まだかすかに無線の声とサイレンが聞こえている。
けれどこの一瞬だけは、世界にふたりきりだった。




