28:二人の戦場
倉庫内は深い闇に包まれ、壁に身を寄せるミラの隣で、ソーレンが息を整える。
肩にかすり傷――だが、ミラの顔は青ざめていた。
「ソ、ソーレン……こんなに血が……っ! 本当に大丈夫なの⋯⋯!?」
「見た目ほどじゃない。動きに支障はない、安心しろ」
そう言って銃を構え直すソーレンだが、ミラには信じられなかった。
この血の匂いの濃さ、十分に“大怪我”だ。
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ソーレンの怪我を確かめようと集中したミラの鼻に届いたのは
湿った鉄、古い埃、そして──誰かの呼吸に混じる、殺意の香り。
ミラはそっとソーレンの袖を引き、声にならないような囁きを落とした。
「……右側。壁際を這うように来てる。たぶん……モズ」
ソーレンが頷くと、銃をホルスターに収め、ナイフを静かに抜いた。
敵が近すぎる。撃てば居場所がバレる。
足音はない。ただ、ミラの鼻だけが察知している。
――気配。
ソーレンがわずかに身を乗り出した瞬間、影が跳ねた。
ナイフの閃き、風を裂く鋭さ。
「見えてんのかよ、クソッたれ……!」
女の声が低く唸るように吐かれた。
ソーレンは受け太刀をし、逆腕で切り上げた。
キィン!
鋼が弾ける音。ナイフ同士が激しくぶつかり、暗闇に火花が散る。
「大人しく倒れときゃいいものをッ!」
低く踏み込んだモズの刃が、ソーレンの肩を狙う。
だが、受け流したソーレンのナイフが、彼女の手首を払った。
「くッ……!」
刃が落ちた瞬間、ソーレンは迷いなく彼女の腕を取り──壁に叩きつけた。
呻きながら倒れたモズは、意識を失ったのか、動かない。
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「来る、正面……真っ直ぐ! 速い!!」
その巨体では信じられないほど静かに距離をつめてきた、ルークが物陰を吹き飛ばして現れる。
ソーレンの腹部を狙って、体重を乗せた突進。
ソーレンは紙一重で避けると、ルークの腕を取って体ごと投げた。
が、ルークは受け身も取らず転がり、その勢いで起き上がる。
巨体に似合わぬ速度と静けさ。それが彼の脅威だった。
「ちょこまかと……っ!」
怒鳴りながら撃ち込んだルークの拳が壁をえぐる。
ソーレンは至近距離で左足を払いつつ、背後に回り込み、絞め技に入る。
だが、ルークの首は太く、力も桁違いだ。
振り払われそうになる――その瞬間、ミラの声が届く。
「右肩が、血の匂いが濃い……!」
そこだ、とソーレンはルークの右肩に全体重を乗せて崩し、
倒れ込む瞬間、肘で側頭部を打ち抜くように叩いた。
モズは呻いて崩れ、そのまま沈黙した。
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重い呼吸だけが残る。
モズとルークは力なく倒れ伏し、動く気配はない。
「⋯⋯もう一人は?」
ソーレンは落ちた懐中電灯を拾い、無言で階段を見上げた。




