23:静寂を破る報せ
レトロな呼び鈴の余韻が消えた静けさの中、受話器を耳に当てたまま、ソーレンは口元を引き締めていた。受話口からは、ルシアン・モローの落ち着いた声が聞こえてきた。
「夜分にすまない、ウルフさん。少し気になることがあってね」
「……どうぞ」
「旧市街の外れにある倉庫――ここ数日、妙な連中が出入りしているらしい。随分と前から使われていないはずの建物だがね」
「それは……」
ソーレンが言葉を探す間もなく、ルシアンの声が重なる。
「その連中、どうも“レイブンバンク”とやらの特徴に似ているらしいんだ」
ソーレンの表情にわずかな変化が走る。だが、なおも冷静に口を開こうとする。
「ですが、それだけでは――」
「……その倉庫、昔は私設美術館が保管庫として使っていた。美術品を隠すにはもってこいだと思わないか?」
一瞬、沈黙が流れた。
ソーレンは低く息を吐いた。
「……その情報、どこから?」
ルシアンが微かに笑った気配があった。
「長く生きていれば、多少のツテもできるものさ。住所を伝えよう――」
ソーレンは手元のメモに、素早くペンを走らせた。
---
ソーレンの姿を、ミラは黙って見守っていた。彼の眉間の皺、ペン先の速さ、背筋に張り詰める空気。
「……ええ、はい。分かりました。情報ありがとうございます。……ええ、必ず。では」
電話を切り、受話器を戻すソーレン。その表情には、冷静さと新たな緊張が混じっていた。
「ソーレン……? どうしたの?」
ミラの問いに、ソーレンはまっすぐに彼女を見つめて答えた。
「レイブンバンクの潜伏先が……分かったかもしれない」




